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「祭りだ!」
「祭りだぜ!」
「祭りね」
オレとコアが声をあげ、シエンタ様がしんみりと相槌をうつ。
「認識阻害してるからって仮面は怪しすぎるんじゃないのですか?」
「幻術もかけてるから問題ないわ」
問題ないらしい。でも仮面付けてたら屋台メシ食べれないよね。
「どっからいくか!」
「まず射的じゃないか!?」
「射的か!」
射的といってもおもちゃの銃じゃない。
ゆるゆるの弓で先端に木の実を刺した曲がった矢で景品を打ち抜くゲームだ。
「景品は何かしら」
覗き込んでみると、木で出来たおもちゃやら積木やらばかりだ。
塩を入れていた瓶も並んでる。
狙いにくそうな場所には謎のお饅頭っぽいお菓子がお皿に乗っている、あれ無理じゃね?
「あたしへの挑戦と見た!」
「待て。落としたら落としたで地面の土がつくぞ」
「いやいや、きちんと別のをお渡ししますよ」
オレらの会話を聞いていたおっちゃんがにこやかに教えてくれる。
「おっちゃん! やらせてくれ!」
「おお、お嬢ちゃんがやるのかい?」
そう言いながらシヴィーとシルバリオに視線を向けるおっちゃん。
人間にと誤魔化していても、いいところのお嬢ちゃんに見えるらしいコアの行動に困惑気味だ。
「構いませんよ。お嬢様のお気に召すままに」
「はあ、左様ですか」
シヴィーから銅貨を受け取ると、その弓をシヴィーに渡す。
コアはシヴィーから弓を受け取ると、嬉しそうに立ち位置に付いた。
「行くぞ!」
べき。
「…… わりいおっちゃん。折れた」
「え? えええ? ああ、まあ子供がやるもんだからしょうがねえか…… 結構痛んでるしな」
こういった事態も想定されていたのだろう。おっちゃんは代わりの弓を出してくれた。
「弦が切れる事はあると思ったんだが弓が折れるとはなぁ」
そんな事を言ってる。
「こら、セカンド。加減加減」
「お、おう。そーっとだな」
コアの力は魔物由来だ。弓っぽく反りのある程度の木の枝など簡単にへし折ってしまう。
「てい」
ぽよん。
「はっはっはっ。残念だ、あと矢は2本だぞ」
一度に3回出来るらしい。
「ぬう。折らない様に折らない様に…… てい!」
ぽよん。
「もっかい!」
ぽよん。
「……」
「どんまい。じゃあ次はオレの番だな」
「あー、兄ちゃんや。兄ちゃんみたいな大人は勘弁してくれ」
「おおう?」
確かに背は高いけど!
「また弓が壊されちゃたまらんしな」
「むう。仕方ない、我慢しよう」
シヴィーが殺気立つ前にシエンタ様に変わろう。
「じゃあ私ね」
「あ、どうぞ」
シヴィーが追加のお金を支払い、シエンタ様に矢が渡される。
「このくらいかしらね…… ふっ!」
ひゅん!
先ほどのコアの矢と違い、しっかりと飛んでいく矢。
…… 明後日の方向にだが。
「難しいわ」
「まあセカンドよりはいいんでないですかね」
「むう、やるなシエンタ様」
弓という名の木の枝なので、狙い通りに矢が飛ぶわけでは無いのだ。
「あと2本ね。今度はしっかり狙うわ」
シエンタ様が再び構え、放つ。
ヒュン!!
まっすぐ地面に落ちてった。
「どういう現象?」
「やはり難しいわ」
「ははははは! すげえとこ飛ばすなシエンタ様!」
コアが声を上げて笑う。
シエンタ様のお付きの魔女二人の眉の間に皺がよる。
「ふふ、本当ね。ふふふ」
シエンタ様は顔が仮面で隠されてるからどんな表情かは分からないが、声だけは弾んでるから問題なさそう。
最後の一本は何故かこっちに飛んできた。物理法則が仕事をしない人らしい。
「さ、次は何がいいかしらね?」
気にしないと言わんばかりにシエンタ様は射的屋から移動を促し、率先して動き出した。
最上位ダンジョンマスターのシエンタ様には常識なんて通じないのだ!




