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お待たせしました
そこから日をまたいで3日目の夜。
ジョージの城こと神殿に騎士団が到着をした。
出入り口の外まで続く列に目を見張る騎士団のメンバーと苦笑いをするドレッド達。
『お疲れ様です、隊長』
『ああ、ご苦労様』
ドレッドと似たような装備の男がドレッドに挨拶をする。
『ご覧の通り、統率の取れたもんですよ』
『まあ冒険者ギルドからも応援を貰ってるからな』
それぞれに通知も行っているので問題は無さそうだ。
『ここ、ダンジョンだよな?』
『そうだな』
ジルノスのあっけに取られた声とそれを肯定するドミニク。
『ダンジョン内の冒険者が順番待ちをしているとは』
『普通は早い者勝ちっすからねぇ』
ちなみに神殿の入り口から随分先まで列は出来ているが、今回騎士団連中は彼らの横を素通りだ。
騎士団から領主へ、そして領主から冒険者ギルドへ多額の寄付が入り冒険者ギルドの上側から冒険者達を説得させたので優先して入る事が出来ている。
ちなみになんの見返りもなく騎士団が我が物顔でこの列に割り込んだら血を見る羽目になっていたそうだ。
街の中じゃなく、完全武装状態の冒険者が100人単位で待機している場所で騎士団も問題を起こしたくはなかった様子。
「確かにお行儀よく順番待ちしてる冒険者って異常だよなぁ」
しかもちょっと離れた場所から鉄鬼兵やら鉄鬼馬やらとドンパチしてる冒険者の雄たけびが聞こえたりしてる訳で。
今、鋼竜嗾けたら超面白そう。
「今なら殺り放題ですっ! 何か魔物を嗾けるですっ!」
「やりません」
安全地帯の信用を失いますっ。
「そもそも、一度設定したルールを破るにはそれ相応のDPが必要だからダメ。この間シルバリオ出してその階層も手を入れたり強化したりしたからあまり余裕がないの」
鉄鬼兵の乱獲による『あいつ』の出番はまだっぽいし。
『あいつ』以外に問答無用で安全地帯無双出来る魔物はいないのだ。安全地帯から攻撃されたりしない限りこちらから手出しは基本的に出来ない。
『これはすごい! まるで王城の宝物庫の…… いや、それ以上だな!』
気が付くとジルノス率いる騎士団が展示場へと足を踏み入れていた。
カリ○な海賊金貨に目を光らせている。
『だが何故ガイコツが金貨の山の中にいるのだ? 趣味が悪いな。アンデッドか?』
うるさいやい。
『宝石も相当な値打ち物に見える…… 本物か?』
『この数の偽物を作るなら本物を買った方が安いそうだぞ? 商人ギルドの人間が言ってた』
『そうなのか』
そうなんだ?
『見ただけで偽物と分かる石なら安いらしいが、ここまで磨き上げられて、ここまで輝き、ここまで大粒な物となると並みの腕では作れない。本物の宝石職人が限りなく本物に近い偽物の石を磨き上げてって話だ。そして本物の宝石職人にそんな物を作らせるとなると……』
『なるほど。納得だ』
まあ本職の人間はそんなもん作らないわな。
『む。これは魔剣か』
『見ただけで分かるのですか?』
『ああ。本物をいくつか見たことがある。流石に伝説上に聞くような海斬りや神殺しのような代物ではなさそうだが』
そんなもん置くかいっ!
『ドワーフ達の話だと、魔法に長けた一流の職人のさらに一部の連中なら必要な設備と材料があれば作れるって話を聞いたことがあるそうだ』
『…… 国宝レベルって事か?』
『数がおかしいがな』
あれ!? ドワーフ連中人間に渡しても良いレベルの失敗作って言ってなかったっけ!?
『程度の低いドラゴンの鱗程度なら簡単に切り裂けるんだろう? 達人といわれる人種が持てば一体どれほどの威力が…… 欲しいな』
『挑戦してみますか?』
『興味はある。過去に挑戦したことのある人間はいるのか?』
『そりゃあもう大勢』
『魔物と戦い、勝てば武器が賜れるんだったな。どんな魔物が相手なんだ?』
『鋭利な鎧を着こんだケンタウロスのような魔物です。ネームドモンスターで『ヴォイド』と名乗りました』
『一人では無理か?』
『ジルノス殿の腕前を知らないのでなんとも。俺じゃ無理でした』
『ドレッド殿でか!?』
『ええ。棄権が認められなければここにいなかったでしょうね』
ヴォイド、ヴォイドかぁ。
ヴォイドは人馬型の黒い鎧の魔物で鉄鬼兵の上位種【魂刈鋼馬】という名前の魔物だ。
肩やら肘やら膝から刃物が伸びていて、走り周るだけでそこら中を切り刻む素敵レディ。その重量と突破力はジョージを上回る逸材である。
彼女は鉄鬼兵シリーズが乱獲されまくった時に、お仕置き用で召喚された魔物。ヒュッツアーベル様の加護を授かった後で、興味本位で名前を付けたらなんか体中が尖ってしまったのだ。
進化前の【閃斬鬼馬】の時は男性用の甲冑っぽかったから男性っぽい名前を付けちゃったんだぜ。
待機させるだけだと可哀想だし勿体無かったから、ジョージの訓練相手兼冒険者苛め要員になって貰っている。
彼女がひとっ走りすれば、大体戦いが終わるのだ。
「ヴォイドの戦い見れるです?」
「ここんところヴォイドの出番がないからちょっと見たいな」
彼女は敵の武具をぶっ壊しながら相手を切り刻むのである。
しかもオレの命令通り、殺さない程度に切り刻む見事な撫で斬りっぷりだ。
彼女の妙技は素晴らしいので、魔物達が観戦したがるのだ。
ただ彼女と戦うと武器がぶった切られて冒険者達は再チャレンジがしにくいのである。一度戦った相手は中々再戦しにこない。
なんだかんだ言って、冒険者達の武器は高い。特に一定水準以上の物を求めるとべらぼうに高いのだ。
ご飯を何食か我慢すれば買える訳ではないし、ローンもないからね。
『当初の予定通り、金貨で試すか』
『まあ、それがよろしいかと』
面白味に欠けるっ!




