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「さてリグレブ、報告を聞こうか」
「はっ!」
浮島からダンジョンにリグレブを伴って移動完了。
神殿からの景色を興味深そうに眺めた後、白亜の橋を渡り屋敷へ移動。
一応馬車を用意しておいたが『お許し頂けるのであれば、少し周りを見てもよろしいでしょうか?』とか言ってきたので歩いて移動だ。
神殿周りは見られて困るものは無いし、何故か知らないが正規の入り口から入らないとダンジョンは攻略出来ないらしいので問題無し。
屋敷の執務室で話を聞くことになった。
「お久しぶりに御座います、リグレブ様」
「お久しぶりに御座います」
「シヴィー殿、相変わらずお美しい。それに、フィルですね? 大きく、立派になられましたな」
「良き主に恵まれました。そのおかげです」
笑顔で回答するフィル。
「知り合いか?」
「ええ、エメラ様の学園で礼儀作法のご指導を頂きました」
大きさは知らないが、銀髪が赤髪に変化してるくらいだからね。
「ではご報告を。先だって神敵となった2名のダンジョンマスターで御座いますが…… すでにダンジョン攻略が始まっております」
「は?」
マジで!?
「【粘体魔王プリンプリリン】様と【千姿万顔シドニー】様が早々に宣戦布告し、既に下層部分へと侵攻が成功しているとの報告が御座いました」
「ナラヴィー様から通知来てないよね?」
「全体への通知はまだで御座いますが、彼のマスターと同盟関係のあったマスター方への通知は完了しております。マスタープリンプリリンとマスターシドニーのお二人はあの2名とは同盟関係ではなかったようですが他のマスターから連絡が来たのでしょう。神敵となった存在を放置はしておけぬと宣戦布告をし、先週より攻略を開始しております」
「もしかして、それって同じ日? 通知が行った?」
「ええ。プリンプリリン様もシドニー様も格下のマスターとは言え苦戦をしいられているようですが同盟関係にある他のマスターからの支援を受け、徐々に深い階層へと侵攻を行っている様子です」
そりゃあ凄い。
先日うちも宣戦布告を貰ったが、どうにも人のダンジョンの中にうちの魔物を送る気にはなれなかった。
絶対に守る側が有利だもん。
「神敵となったとはいえ元々夜会にまで呼ばれるほどの能力のあるダンジョンマスターで御座いますから、そのダンジョンの攻略は容易ではないでしょう。随分被害が出ているようです。宣戦布告可能期間になったら援軍を出すことを表明しているダンジョンマスターの皆様を待っているのかもしれません」
口封じ、という言葉が頭をよぎる。
「そのプリンプリン様とシドニー様は、どういった方々なのでしょう」
フィルがリグレブに疑問をぶつける。
その質問を受けたリグレブがオレの顔を見るので、オレも頷く。
「プリンプリリン様ですよ。どちらもここ20年ほどで勢力を強めたマスターですね。ロードボート様の傘下に降りてから急速に勢力を拡大してきたダンジョンマスターに御座います」
また出ましたよロードボートさん!
「ロードボート様としても間接的とはいえ傘下のマスターが神敵認定された訳ですから、黙っている訳にはいかなかったのでしょう。自身と直接の同盟関係を取っているお二人に神敵討伐を命じられたようです。これはナラヴィー様にも表明されておりました。マスター同士の同盟関係はナラヴィー様のマザーコアを通して組まれますから、自分自身は神敵ではないですよとのアピールをされたのでしょう」
確かに自分とは関係ないよと言っても、それを手繰る手段をナラヴィー様が握っている。
今回のようにナラヴィー様が神敵認定をしてはたまらないだろう。
「戦神の方々も戦の準備を行っている方がいらっしゃいますが、彼の方々よりも先に兵を動かしたのは英断だったと感じます」
「なるほど、神々の手を煩わせる必要はないと」
「ええ。ナラヴィー様も大々的に告知を出すのをやめようかとお考えのようです。これほど早く動かれたのですから、援軍はいらないとの判断でしょう。なにより、神々の軍が動き出せば、たった2つ程度のダンジョンを攻めるには過剰と言えますから」
「そりゃあそうだろうなぁ」
流石に神様ご本人が降臨するようなマネはしないだろうが、神の軍隊というだけでその規模は計り知れなそうだ。
「戦神の皆様は残念そうでしたけどね」
「血の気が多いなぁ」
「ここまで大がかりなダンジョン同士の戦は珍しいですからね。先日のマスター斎川の戦も御座いましたが、あまり話題にはなりませんでしたから」
「それでいいよ。うちらは喧嘩を売られてそれをあしらっただけだからね」
「ダンジョン内部まで攻め入れば神々からも注目されるでしょうが…… そこまではされませんでしたね?」
「うちの連中は中まで攻めたがってたけどね。でも彼らはあくまでもダンジョンの防衛戦力だよ。攻めるのには向かない」
身内に被害が出るのは嫌だ。名付けもせず、個体の判別が出来ないリザードマン達だったとしても。
「ええ、ええ。素晴らしいご判断で御座います」
「そう言ってくれる人が一人でもいてくれて嬉しいよ」
ほんと、血の気が多い部下が多すぎなのです。
「まあこういう訳ですので、マスター斎川が兵を出さずとも良い状況になりそうでございます」
「複雑な気分だけど、まあ助かるな」
本当に助かる。見知らぬ場所にウチの魔物達を派兵なんて事にならなくて本当に良かった。
「現状攻め込んでいるお二人のマスターや、彼らを支援するマスター達が手のひらを返すような真似はしないと思いますが、また何か大きな変化があればお伝えいたします」
「わかった。特に派兵をするなら準備が色々と必要だからな。今後も報告事項があれば頼む。まあ無理のない範囲で構わないよ」
あまりオレの肩を持つような真似は、ナラヴィー様の執事長の肩書を持つリグレブには難しいかもしれないからね。
「リグレブ」
「はい」
「良い仕事ぶりだった。密偵の真似事みたいな事をさせて悪かったな、今後はナラヴィー様の執事長としての仕事に集中してくれ」
「…… よろしいので?」
「ああ、今後の情報収集はレドリックに任せる。本来であればお前クラスの魔物にやらせる仕事じゃないからな」
「勿体ないお言葉に御座います」
「ナラヴィー様にもご報告と感謝の言葉も。いつもより多めにお土産を用意しておこう、お前にも報酬を渡す」
「お言葉、間違いなく。ちなみにマスター斎川」
「なんだ?」
「小生、3000万DP程で購入可能なのですがどうです?」
「ノーセンキューで!」
高いわっ! あと変な売り込みしてくるんじゃねぇ!
戦争希望の方、残念でした! そういう作品じゃないんです!




