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「戻りました」
「あるじ! 戻った!」
「はいお帰り」
転移して戻ってきた二人。
「なんでもダンジョン総出でお持て成しするとか」
「そんな感じになるかな? まあ希望者のみで。あと環境的に無理な連中や戦闘向きじゃない魔物は除外だが」
「それはそうでしょうね」
「あと全員、単独行動は禁止だ。常にチームで行動をさせるようにしないと」
「オーク程度であれば問題はないかと思いますが」
「向こうもダンジョンだぞ? 名付けされた魔物がいたらこっちのリザードマン達じゃ対応出来ないだろうし、銀ちゃんレベルやチムレベルがいてもおかしくない」
「いえ、普通いないと思いますが……」
戦闘向きではないフィルでも、名付けしてない魔物達には圧倒的な力を誇る。相手はこちらよりも稼働時間の長いダンジョンだ、どんな切り札を切ってくるかもわからない。
「ダンジョン内で迎え撃てれば一番いいんだけど」
倒した魔物を吸収できるからね。
DP確保は大事。
「ダンジョンはここの塔から半径15km、流石に街の人間達に気づかれますね」
「いっそのこと無視して、また人間達に任せちゃおうか……」
「ダメです」
「え~!!」
「却下です」
「あきらめろマスター、みんなやる気だ」
「街の連中に渡す魔法の袋がありますよね? いくつか拝借致しましょう」
なんかみんなして口々に言っている。ちょっと整理したい。
「まず神殿組と屋敷のメイド達、それとケレンセリッシュ様やヒュッツァーベル様の別荘のメイド達はダメ。非番組も含めてダメ。ドライアド達もダメ」
「残念です」
本当に残念そうなシエル。
「ケレンセリッシュ様やブルーシェル様みたいになんの前触れも無く降臨される方がいらっしゃるからね。御方々のお世話や屋敷の維持に関わるメンバーは全員ダメ」
もちろんサタンコックやブラウニーもダメ。
「次にドワーフ種達もダメ。ケレンセリッシュ様やニーロイップ様がいらした時に仕事が発生する可能性がある」
エリーゼやエルフィン達も染料等で関わってくる可能性があるから却下だ。
「なんだよマスター。戦いたくないのかよ!」
「戦わせたくはないよ?」
名前を付けていない魔物達も、出来れば傷付いて欲しくない。
消耗品扱いの地下1Fの森の魔物や神々の試練の間の魔物達と、生活を支えてくれる魔物達とでは扱いも価値も違い過ぎる。
「リザードマン達とアーリマン達、オークと戦うってどうかな? 勝てるかな?」
「先ほど転移して見たところ、数は向こうのが上でしたね。ですが装備はお粗末な物でした。棍棒や手入れのされていない剣などを持っていたので。迎撃した冒険者から奪った物でしょう」
「鎧を着たりしてる個体は?」
「見当たりませんでした」
「……逆にそういった装備持ちがいたら名付けされてる可能性があるな、あのピンク一色の視界で見分けつけばいいけど」
「ジェリーに探させておくですっ!」
「そうだな。頼んだ」
「こちらのリザードマンやアーリマン達に武器は行き届いております。鎧は…… 彼らは胸板くらいしか装備しませんので……」
まあ鎧というか鱗があるからね。
「端的に聞こう。シヴィー、勝てるか?」
「勝てます」
「被害は?」
「リザードマンには出るでしょう。彼らの装備が奪われると被害が広がる可能性も考えられますね。アーリマン達なら、それこそ10匹に囲まれたりしない限りは被害が出ないはずです」
正直に答えをくれるシヴィー。
「むう、死人も出るか」
「戦争ですから」
それでも彼らは戦いたいのか。
「…… アユム様、彼らは戦いたいのです。どうかお気を病まぬようお願いいたします」
「それが連中の望みなんだな?」
「ええ」
いつものように微笑むシヴィー。
フィルを見ると、彼も頷いている。
この価値観、慣れなきゃいけないんだろうなぁ。
この辺、難産だった気がした。




