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「ようこそいらっしゃいました、ヒュッツァーベル様。お待たせしてしまい申し訳ございません」
「う、うむ。ダ、マスター斎川。闘技場の視察に参ったぞ!」
「心より歓迎いたします」
深々と頭を下げて、神殿内の貴賓室でお待ちになられていたヒュッツァーベル様と挨拶を交わす。
決闘時に見たような恰好でもなければ、謁見時のドレス姿でもない。どこぞのお嬢様のように白を基調としたロングスカート姿でとても純真に見える。
でも油断してはいけない。この人戦いの神様なんだよね。
「キミ、こっちにもいるネ」
「この度は、新たなる神をご紹介いただき有難うございます。ケレンセリッシュ様、こちらは今朝採れた人参と大根に御座います」
「よきにはからえネ」
スティック状にした人参と大根を手渡しで差し出すと、カリカリと音を立てて食べ始めるウサギ様ことケレンセリッシュ様。
雑食で肉も食べるウサギ様だ。でも精神衛生上、根菜をカジっていて貰いたい。
「闘技場の視察でしたね。ご案内を致します」
「ま、待つんだマスター斎川! まだお茶を飲み切っていないじゃないか! ホ、ホストとしてこここい…… こい……、 きゃ、客人だ! 客人を持て成すのが! そう、あれだ! えーっと、つとめだろ!」
顔を赤らめながらそんなことを言い出す神様。
ぬあぁー、誰か代わってくれー!
「気が利かず申し訳御座いませんでした」
とりあえず頭を下げよう。
「わ、わかればいいのだわかれば! さあ! 座るのだ! 早く早く!」
バンバン! と座椅子の肘掛けを叩くヒュッツァーベル様。
椅子にヒビが入るので抑えて下さい。
ミシリ。
遅かったか。
「では失礼します」
叩いていた椅子にヒビが入ったので、ヒュッツァーベル様の横ではなく前に着席。
残念そうな顔と共に椅子が崩れる。
怖いよ。
シエルが頭を下げてオレとヒュッツァーベル様に紅茶を注いでくれる。
それと崩れた椅子を撤去。
「しかし、思ったよりも穏やかな作りだな。ナラヴィー様に話を聞いた限りでは、毎日数千人単位で侵入者が来ていると聞いてお…… 私も相応の準備をしてきたのだが」
「侵入者は確かに来ておりますが、非戦闘員が多いんです。それに我がダンジョンの扉は未だに突破されておりませんので」
「ほう! それは大層な防衛戦力が配置されておるんだろうな! 素晴らしい!」
「少しばかりモニターで確認なさいますか?」
「いいのか!?」
「他ならぬヒュッツァーベル様で御座いますから」
「そんな…… 俺の為だなんて……」
一人称がブレるなこの人!
「コア、モニターに外の状況を」
『了解』
オレの言葉にコアは返事をし、街の様子を見せる。
「う、これは……」
「うちのダンジョンに来ている侵入者達です、勝手に街を作ってますね」
「……思った以上に危険な環境だったんだな。過去にもダンジョン内に街や国を作ったマスターはいた。獲得出来るDPも多く、外部からの防衛にも役に立つ……だが、マスターはその内部の人間達に裏切られ最後を迎える……ダーリ……マスター斎川、今のうちに逃げ出す準備をしておいた方が良い」
「そうですね。危険が迫ったらナラヴィー様のダンジョンに逃げ出すように致します」
「あそこは避難所じゃないんだ。いずれは追い出されるぞ」
え? そうなの?
「えっと、じゃあ何か考えておきます」
「ど、どどどどうしてもという時には、たたた助けてやるからな! うううううちは広いしべ、ベッドも大きいぞ! ちがうっ! ベッドの話などしていないっ!」
オレは逃げられても、完全にダンジョンに根付いて大きくなったコアは無理だろうな。そうなった時、オレはどうするんだろうか。
コアや魔物達を置いて逃げるのかな?
「ダ、マスター斎川?」
「…… いえ、なんでもありません」
少し真面目に考えないといけないな。
「アユム様は私共が守ります」
「歩様が危険な目に合うようなマネ、絶対にありえません」
「当然だな。彼に危害を加えるような存在が現れたら呼ぶがいい。伊達や酔狂で加護を与えてはいない…… そうだ。私の加護を乗せて戦闘用の従者を作るべきではないか? お前達は魔術特化の従者だろう? いざという時に体を張って主を守る存在が必要だ」
「おお、素晴らしいご提案です! 流石はヒュッツァーベル様!」
「歩様、早速やりましょう」
「え? いる?」
「もちろんで御座います!」
えー。フィルはともかくシヴィーはべったりついてくるからなぁ。これ以上べったり要員はいらないんだけど。
「検討しましょう」
「いえ、即実行致しましょう」
「それがいいぞ! そうするべきだ!」
わぁ。確定っぽいよ。
「頑張るネ」
ウサギさんは他人事だネ。
仕事中、上司からの回答&ハンコ待ちなう。
暇だから更新しよ……って感じで更新。




