175
剣が一本あればいい!
『ドミニク、偉い騒ぎだなこりゃぁ』
『ジェスト殿、わざわざあんたが来たのか』
ドミニク達はギルマスの事をジェストと呼ぶ。オレ以外をマスターと呼ぶことに抵抗があるようだ。普通に呼んでもいいのに。
ギルマスが到着する頃には、遠目で見ていた街の冒険者達も少し集まっていた。
確かに騒がしい。
『ああ。この辺りも確か魔物が消える地点だったよな』
『獲物を買い取ってくれるなら確認で出すが?』
ドミニクの持つ魔法の袋からウサギの死体を出す。
『随分と小物を取ってんだな? お前達らしくない』
『メシにするつもりだったんだよ。で、いくらだ?』
『そんな小物、銅貨3枚にもならんだろうに。お前らもっと稼げるんだからタダで提供しろよ』
嫌そうな顔をするギルマス。
『こちらで買い取ろう。地面に置いてくれ』
『まいどあり』
ドレッドが所持していたお金を見せる。その言葉にドミニクが頷いてウサギを洞窟の前に落とす。
しばらくすると、ウサギは半透明になって消えていった。
その間にドミニクはお金を貰う。
この行為も意味がある。ドミニク達は街に来て間もないが、冒険者らしいやりとりをしてもおかしくない程度には馴染んでると見せるポーズだ。
『ふむ。変わらずここも塔のダンジョンの範囲か。ならばこの洞窟も塔のダンジョンの主が作成したものか? 中はどうなっている?』
『不明だ』
『ほほう?』
ドミニクに視線が集中する。
『ま、一番手は主張するつもりだけどな。流石にこんな街の近くに出来てんだ。話通しておかねーとって思ってな。ちなみにそこらにいる兵士達も入ってねーぞ』
『ふん。まあいい判断だ、じゃあ入るか』
『そうだな。私も入ろう』
ギルマスの言葉に兵士長も続く。
『待て待て、今ヘレンに道具と人を一人連れて来させてる。洞窟に入るってのにお前らなんか準備してるのか?』
『『 剣があれば十分だろう? 』』
『十分な訳あるか! 洞窟入るんだから! どんだけ潜るかもわかんねーんだぞ!』
おかしい、ドミニクが一番常識人に見える。魔物なのに。
『ヘレンに水と食料、それと回復魔法が得意な仲間を連れて来させている。もう少し待ってくれ』
『早く入りたいなぁ!』
『早く入りたいですね、余計な人が来る前に』
そう言って兵士長が西門に目をやる。
『来ちまったなぁ』
『まあ来ますよね』
門から領主が海人族の冒険者と一緒にいた2人の冒険者と多数の兵士を連れて洞窟に向かってきた。
正面にいる3人は完全武装だ。
『うはは! 待ってたとは良い心掛けじゃないか!』
『お前を待ってた訳じゃない』
『はぁ、来ないで下さいよ』
冷たい言葉のギルマスと兵士長。
『君達が第一発見者か。俺達はAランク冒険者【黒剣の両腕】クロードだ。剣士をしている』
『同じく、魔法使いのドニーだ。依頼終わりだったんだろ。大丈夫か?』
『まあ身内の為に売れる物を物色した程度だから問題ない。こちらはまだチーム名を決めてはいないCランクの冒険者だ。ドミニクと言う』
『ジン、重剣士だ』
背中の斧と腰のメイスが存在感を発揮。大きな盾を左手に持っている。
『ケルブっす。獲物はコレっす』
ケルブは自分の背中に背負う弓を見せた。
ウチの下級魔族達とAランクの2人がお互いに自己紹介。
『チーム名は早めに決めておいた方がいいぞ?』
『まあおいおいな、と。来たな』
ヘレンがロッドを連れてそこに追い付いてきた。
『お待たせ』
『おお、噂の綺麗どころか』
『なに? キモいんだけど』
ヘレンはスタイルがいいし、赤髪で目を引く美人さんだ。
『まあ言うな。先輩だ』
『そう』
『お待たせしました皆さん』
ロッドが丁寧に伝える。
『ふむ、一人知らない顔がいるな』
『ワシは全員知らんが』
『オレ達の仲間だ。回復魔法が使える』
重鎮に囲まれるロッド。
『商人です。と言っても今はドミニク達の持ってきた獲物を高めに売っているだけですが』
『回復魔法が使えるなら冒険者になればよかろうに』
『それをいうなら神官では?』
そう言ってくるギルマスにロッドは苦笑いしながら軽口で返す。
『それで、領主は何をしにきたんだ?』
『領主様、まだ中は見てないので入れないですよ』
『馬鹿を言うな。お前たちじゃ後衛が足りないだろう?』
『こいつらの連れがいる』
前衛はギルマス、兵士長、A級のクロードに下級魔族のドミニクとジン。
後衛にA級のドニー、下級魔族のヘレン、ロッド。ケルブ。
結構な人数だ。
『ならば前衛を張るか』
『帰れっ』
『立場的にはお前だってそうじゃねーか!』
『こちとら元上級冒険者だっつーの!』
『もう、いいんじゃないですか? 全員で入りましょうよ』
A級のクロードはあきらめ気味に言う。
そろそろ飽きてきた。とっとと中に入って貰いたい。




