142
新しいマスターが登場するとかしないとかの回
『コンコン』
「あら? 誰かしら?」
お互いの魔物を後日交換することで話が付いたオレとシエンタ様は、契約を無事終了させたのでそのまま寛いでいた。
シエンタ様、意外と話好きだ。仮面は取ってくれないけど。
「確認してまいります」
オレに随行してきた執事長のリグレブの顔色を伺いながら、シエンタ様のところのミニバッフォが対応をする。
「シエンタ様、アクエリアス様がご面会に参りたいとおっしゃっております。いかがいたしますか?」
「……そうね、いいかしら?」
「オレは構わないよ。てかオレはもう帰った方がいい?」
顔をこちらに向けて聞いてきたので、答える。
「お待ちしているわと伝えて。新人のマスター斎川もいるから、追い出しておくか、会うかも確認を」
「畏まりました」
恭しくミニバッフォが頭を下げて返事をする。
てか追い出すって……。
「アクエリアスは好戦的な魔物じゃないから平気だろうけど、一応ね」
「まあオレは新人だからね」
なんかもう色々あってその辺どうでも良くなってきたけど。
「お話中失礼いたします。ミニバッフォより連絡が参りました。斎川様もご同席で問題ないようです、直ぐにいらっしゃるとの事です」
「そういえば、部屋はすぐそこね」
『コンコン』
「どうぞ」
シエンタ様が答える。
「失礼いたします。アクエリアス様をお連れ致しました」
「シエンタ、ひさしぶり」
「いらっしゃい、アクエリアス」
そこにいたのは丸い水の玉。え? これも生き物なの?
浮かんだ水の玉が空中を音もなく動き部屋へと入ってきた。
二人の人型の従者を連れている。
「いつもかいじょうからさがるのがはやい」
「変な魔物に囲まれるのは嫌なのよ」
水玉の水面が震えると、声がどこからともなく聞こえてくる。
「そちらが、いまわだいのダンジョンマスター?」
「お初にお目にかかります、アクエリアス様。斎川歩と申します」
相手はダンジョンマスターの上位者だ。どんな相手であれ、ある程度敬意を払う必要が出てくる。
オレは立ち上がり、頭を下げ挨拶をした。
「はじめましてしんじんさん」
そう言いながらオレの前で静止するアクエリアス様。
「斎川さん、水の魔法は使えるかしら?」
「え? はい」
シエンタ様に聞かれる。
「じゃあ魔法で水を作ってアクエリアスに与えて? それでアクエリアスは相手を判断するから」
「はあ……」
水の魔法は、比較的得意だ。何せ週一ペースで雨を降らせてるからね。
掌に野球ボールくらいの水の玉を生み出し、それをアクエリアス様に近づける。
「いただく」
オレの手のひらから水の魔法が移動し、アクエリアス様に吸い込まれていく。
「……おどろいた、うみのいちぞくなのか」
「ああ、なんかそうらしいです。良くわからないのですが」
コアも、うちのダンジョンの魔物達も知らないという種族だ。
神々に一方的に言われただけの、オレの種族。
「いついらいだろうか。うれしいやらかなしいやら、ふくざつだ」
「海の一族というのは、どういう種族なのでしょうか? オレの周りでは知っている人間がいないので」
「200ねん 300ねん? もっとまえかもしれない。そんなはなしだ。きょうみあるか?」
「ええ、自分が何者なのか、気になります」
「面白そうな話ね? 私みたいに人間の派生種族なのかしら?」
魔女のシエンタ様も興味があるらしい。
シエンタ様の視線を受け、オレは座る。
シエンタのもう一人の従者の用意した大きな壺が椅子におかれると、その中にアクエリアス様は収まって、顔? の部分だけを浮かび上がらせている。
「シエンタもしらぬか……」
アクエリアス様が語り始める、海の一族という者達のストーリーを。
 




