134
地味なミスしたああああ!
正解は後書きで
「大きい奴でも出せるように、一番広い場所を用意してやったぞ」
確かに広い。銀ちゃんを呼んでもいいくらいの広さだ。
「アユム様、この広さならば……」
シヴィーの言葉にオレは頷く。ミリアじゃなくて銀ちゃんだな。
「ヒュッツァーベル様、一つ進言をよろしいでしょうか」
「む? なんだ? というか誰だ」
銀髪のイケメンが前に出て来た……確かあの男は。
「失礼、ダンジョンマスターのロードボードに御座います。此度の戦いにおいて、一つだけ進言というか、ご忠告をしたく参上致しました」
「そうか、言ってみろ。手短にな」
胡散臭い物を見る目になってますよヒュッツァーベル様。
「有難うございます。此度の戦いにおいて、ダンジョンより強力な魔物を呼び出さないようにするべきかと。こちらの浮島にいる魔物でのみ対応させるべきです」
なんですと?
「根拠を言ってみよ」
「はっ。こちらの戦闘に構い過ぎて、自身のダンジョンを失うのは本末転倒。防衛機構から外れている戦力同士で争うべきかと愚考致します」
「ふむ、一理あるな。お前達、それでいいな!」
共に聞いていたオオグラム様が声を上げた。
「おい!」
反論をしようとするのはヒュッツァーベル様。
「コヤツの言う通りであろう? 古参連中はダンジョンの場所を教えるだけ、そちらの新人も従者を失うだけ。ダンジョンを失う事と比べれば些細な事」
「早く呼ぶがいい。我らは既に決めている」
向こうさんのマスター達は、それぞれ端末を操作し魔物を召喚している。
浮島から移動してきた時と同じような魔法陣が闘技場のリングの上に現れて、それぞれの魔法陣から魔物が呼び出されている。
「ふむ、良い面構えの魔物達ですな。お館様、少しだけ心が踊ります」
そんな事を言いだすジョージの視線の先には5体の魔物。
10mくらいありそうな超巨体の熊。目が血走ってる。
熊ほど大きくは無いが、巨大な岩石のゴーレム? 肩の先や肘、膝の角が鋭角になっているイメージを受ける魔物。一番強そう。
その横には、2m程度の大きさはある巨大なスライム。床が溶けてるよ?
全身の関節部分から青い炎が湧き出てくる鎧の魔物、炎のマスターの魔物だろうか。一つ目の瞳が見えるから、うちのリビングアーマーとは別のタイプの魔物だろう。
空を飛ぶ魔物も1匹いる。あれは蜂だろうか? でかいし堅そうだし、槍を4本持ってる。
「コア、ミリアとチムに完全装備で準備させて」
『了解だ。すぐに準備させる』
「コア様、シエルとコロもこちらに呼んで頂けますか? アユム様の防御が手薄になってしまいますので」
『わかった』
「どうした! 臆したか!? 早く魔物を出すがいいっ!」
その言葉を無視して、シヴィーは神々の元へと歩いていく。
「シヴィー?」
「少し時間を稼いできます」
いつもの柔らかい笑みを浮かべて、シヴィーは神々の前へと立つ。そして優雅に礼をし、滑らかな動作で跪いた。
「神々よ、直答をお許しください」
「従者の魔物がか? 面白い、許そう」
ラグラック様が代表して答える。
「まず、先ほどの彼らマスター達の本拠地の情報。確実に頂けるのでしょうか?」
「無論だ。ナラヴィー様がそちらのコアに直接送られるだろう」
「有難う御座います。それともう一つ、賭けの対象たる従者はいかがすればよろしいでしょうか?」
「? 何を言っておる?」
「いえ、賭けの対象たる従者を神々に一度ご提出すべきかと思いまして」
「賭けの対象はお前であろう」
「いえ、彼らは愚かな従者と言っておりましたが私と指定はしておりません。ですので、彼らの言う愚かな従者を一度神々へ提出しようかと思いまして」
シヴィーはそう言って黒い靄を手のひらから地面へと放出。
靄が人の大きさまで広がると、倒れた男が一人。
気を失っているようで、地面に転がってピクりとも動かない。
そこにいたのはデミヴァンパイアの『ビッグス』だ。
その従者が飛び出した瞬間に、向こうサイドのマスターの何人かの顔色が変わった。
顔色は良くわからない奴もいるけど。
「こやつはナラヴィー様の下僕たるミニバッフォの執事達を、監禁し吸血行為をした愚か者に御座います。他所のマスターの従者でしたが、危険と判断し捕らえておきました。ダンジョンマスターに無礼を働いたと彼らが主張する私よりも、よほど愚か者だと思いませんか?」
「ほう……確かに、愚か者であるなぁ。教育すべきだ」
シヴィーの提案に乗っかるヒュッツァーベル様。
「お前たちは愚かなる従者に教育したいと言っていたなぁ。こやつでいいか? いいよなぁ?」
シヴィーを慰み者にしたいという魂胆を持つ連中の驚愕する顔を見て喜ぶヒュツァーベル様。
まあ女神様、つまり女性だもんね。嫌悪感があるのはしょうがない……かな?
さっきも愚図だとか下種とか言ってたし。
ビッグスをよくよく見ると、真新しい首輪が付けられてる。さっきシヴィーに出してくれと言われた隷属の首輪だ。
いつの間に。
「そのような男、教育するまでもなく処分すべきでしょう」
魔族の男が低い声を出す。
「では処分されるべきかどうか……本人を起こして聞いてみましょうか?」
シヴィーがビッグスに手を伸ばす。
「ま、待てっ! いい! そいつでいい!」
「然り、然り」
「ああ、そやつにこそ教育が必要だな」
「何ヲ言ッテイルンダ!? ソンナ男ドウデモイインダ!」
「女、のが、美味そう」
突然意見の分かれだすマスター連中。
その姿を見たシヴィーがこちらにウィンクを飛ばす。なるほど、上手い。
戦女神ヒュッツァーベル様の名前がヒュツァーベルになってる箇所が何か所かあるとかないとか。




