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ちゃーしゅー!!
「先日はどーも」
「うむ。我の忠告、聞いてくれたようだな」
改めて挨拶に向かう、そこにいるのは筋肉質のトド男、タキシードバージョンだ。すっげえ違和感。
そして、その違和感な存在の視線の先にはミルフィ。
「ふん、あたしだってドレスの1着や2着あるんだからね!」
「なかったよな?」
「無かったであろう?」
「今はあるの!」
その反応にオレとトド男が小さな笑いをこぼす。
「何よもう!」
「いや、すまんな。この間直接会ったときや、モニター越しで話した時とは雲泥の差だ。人族の美醜はわからんが、その衣装がお前に似合う事くらいは分かるつもりだ」
「え?」
「褒めてくれてるんだよ」
「そう? えへへ、似合うでしょ」
「ああ」
オレから少し離れて、衣装を見せるミルフィ。
「随分早い到着なんだな。オレ達よりも前に会場に入ってるとは思わなかった」
「ああ、正直もっと後に来るつもりだったんだが……少々面倒事があってな」
「ふーん? それは聞いていいこと?」
「同じタイミングで夜会に入らないかと魔族の男に言われてな。我に攻め込まれるのが嫌だったようだ」
「なに? どういう意味よ?」
「先日、奴は従者を2人ほど失っただろう? あの2匹のミノタウロスは、奴のダンジョンではそこそこ重要な戦闘員だ。奴がこちらに来ている以上、ダンジョンには戦闘員がしっかりと配置されているはずなんだが」
「わかんないわよ」
「あー、従者2人減ってる状態でかつマスターがいない時にダンジョンを攻められるのを嫌がったんだろ。それで、一番敵視している相手と一緒に夜会に入れば、少なくともダンジョンマスターと2人の従者を監視出来るって事」
「それで?」
「これでもわからぬか……そうだな。今、お前のダンジョンにお前とハーピィの2人はいないだろう?」
「そうね」
「その状態でダンジョンを攻められたいか?」
「嫌に決まってるじゃない」
「その嫌な事をやられたくないから、我と同じタイミングで夜会に参加したかったんだ」
「そうなのね! なんとなくわかったわ!」
なんとなくなのか。
「まあ、そういう訳でだ。向こうさんから共に出ようと誘われて来たわけだ。奴のビビる様を見れて満足だよ」
「断っても良かったんじゃない?」
「まあそれでも良かったが、下手に刺激するのもな」
ご近所ダンジョン同士の付き合いは難しいようだ。
そんな事を思ってると、トド男が首を回し別のマスターを見る。
それに倣い、オレも周りに目を向ける。
30組のマスターと従者が集まる夜会の会場は、まさに百鬼夜行。
様々な魔物や、人間なのか分からないが人間型のマスター達が広い会場に集まっている。
まだ全員集まってはいないらしいが、大半のマスターが集まっている。
獣型の魔物、獣人系? 人間型、植物、スライム? 悪魔? 見ただけでは種族が分からない連中も多い。
ついでにどれがマスターでどれが従者か分からない。多分真ん中の奴なんだろーなーとか、他のマスターと話してる奴なんだろーなーとかそんな程度。
「ほう、今年も来たか……【女帝セレスティアーネ】」
「女帝……? うわ」
「ひゃー、すごい存在感ね」
「うむ……相変わらず美しい」
「「 え!? 」」
オレ達の視線の先にいるのは、恰幅のとても良い女性型(?)のマスターだ。
こう言っちゃなんだけど、すっごい太ってる。
ずるずると何重にも重なったスカートを引きずり、頭には王冠、指には指の肉を圧迫するようにいくつもの指輪。ショッキングピンクの強いドレスを身にまとった、化粧の濃い……化粧のすごい濃い……。
.
「オーク、か?」
「うむ、エンプレス・オブ・オーキッシュローズのセレスティアーネ様だ。いつ見ても美しい」
「ごめん、全然わかんない」
「種族的な問題であろうな。あそこまで肥えられるのはエサを取るのが上手いか、エサを取らせるのが上手いメスだけ。素晴らしい才能だ。それにあのブクブクの面構え……そそる」
そこなんだ……。
「すっごいわねぇ。あたしもああいう衣装の方が良かったかしら」
「やめとけ、歩けなくなるぞ」
実際に、従者と思しきガタイのいいオークがスカートの端を握って後ろに付いている。
「あのオークもイケメン扱いか?」
「む? まあ引き締まった良い体だな。だがあの脂肪量では、極寒の荒波には耐えられまい」
「基準そこかー。種族の壁ってすごいなー」
「あんたもああいうのが好み?」
「そう見えるんなら医者を紹介してやる」
いくらなんでもひどい。
あとあのオークのせいで、後ろに渋滞が出来てる。
「あ、炎のマスターが来たな」
「ふ、あの骨のマスターは来れるかな?」
「骨? オレ達を襲撃してきたマスターの一人?」
「ああ、あいつ頭だけおいて盗み聞きしていたからな。頭を拾って浮島から外に捨ててやったんだ。ククク、頭を探して死苦八苦してたんじゃないか?」
ああ、なんか捨ててたね。あれ、マスターの頭だったのか……。頭蓋骨?
「砕いても良かったんだがな、捨てた方が嫌がらせになると思ったのだが」
「あー、多分まだ頭見つかってないと思うよ」
オレ達を嵌めようとしたマスターの部下情報だ。いつの段階の話だか分からないが。
「デュラハン状態で来るか、それとも来ないか……。来ないのはつまらんな」
「来ない人もいるの? 神からの招待なのに?」
「ああ、毎回呼ばれてるのに顔を出さないマスターもいる。手ごわい侵入者が来ていて顔を出さないマスターや、他のダンジョンと戦争状態のマスターも来ない事が多いな」
「マスターは多忙だなぁ」
「数が多いからな。いくら世界が広いとはいえ、どうしても近隣にダンジョンがある環境は発生してしまう」
ウチの近所にもあるしね。




