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ジョージは脳筋じゃないヨ?
お祭り騒ぎの武闘大会を終わらせて、勝ち残った魔物のリーダーに名を授けた。
ああ、こんな奴いたなぁ。って魔物が勝ち上がってきてちょっとびっくり。
丁度手も空いている魔物だったからそのまま全員の前で名付けを行う。
みんなに祝福されている時、その無骨な顔に付いた鋭い目から涙が流れ続ける様は、観客として来ていた他の魔物達に伝染し、みんなして泣いていた。
「よかったなぁ! ほんとよかったなぁ!」
「お前こそオレ達の星だ! マスターの力になってくれよな!」
「オレ達全員の意思を受け取ってくれ!」
「ホオオオオオオオオオオオオオオオン」
「おおん! 羨ましいぞおおお!」
「ホオオオオオオオオオオオオオオオン」
武闘大会に参加した筋肉共と涙と感動の別れをして、オレに再び忠誠を誓ってくれた。
確かに移動はするけどすぐ帰ってくるよ? 伝わってる?
その後、イービルドワーフによって全身鎧が作られ、その鎧がオロボスによって魔改造される事に。
結果、身長2mサイズの大柄の全身鎧がオレの横に付く。
ガチャガチャと煩い。
「というわけで、連れてきましたジョージです」
「ジョージだ。よろしく頼む」
低く、渋い声が鎧の中から聞こえてくる。
「ほっほっほっ、斎川様のところは中々に人材豊富ですな」
人ではないぞ、プチバッフォよ。
「ジョージはダンジョンを本格稼働させてから、結構早い段階で召喚した魔物なんだ。今までも文句言わずに一つの任務に集中してくれていた。オレを守るっていう意味でなら、こいつ以上の適任はいないかもしれない」
.
「お館様……」
涙もろい。
鎧の中、すごい事になってるんじゃない?
「武器は剣ですか、身長もあり体格もがっしりしている。良い威嚇になりますな」
「自分の本分はお館様の護衛だ、威嚇などして余計な敵を作るつもりはない」
今はダンジョンから浮島に戻り、庭に出てきている。
プチバッフォへのお披露目だ。戦闘能力を見てもらい、外で通用するか判定してもらう。
シヴィーの見立てでは、コロよりは強いがミリアには勝てないだろうとの事。
「ふっ!」
「ぬんっ!」
合図も無く、お互いが間合いを詰める。
ミリアの素早い細剣を左手の小手でうまく受けながらジョージが突く。ミリアは半身だけで回避
し、そのジョージの剣を持つ右手へと細剣を走らせる。
鋭い突きにジョージは手を引き、巨体に似合わぬ動きで後ろへと飛ぶ。
ミリアの追い討ち、だが今度はジョージの左手から風の魔法が放たれた。
殺傷能力は無く、ただミリアを吹き飛ばしただけだが距離が開けた。
「やりますわね」
「そちらこそ」
こんなでっかいのと切り結ぶミリアが凄い……というかジョージへの嫉妬で顔が怖い。
「では、これにも対応してみなさい」
ミリアは翼を広げ、空へと飛翔。飛び上がったその先で急激に方向を変えると、ジョージの右側から剣を突き出していた!
「くっ!」
たまらず後退するジョージ。
「まだまだっ!」
カカカカカカカカカカ!
ジョージの鎧にミリアの細剣が豪雨さながらに降り注がれる。
ミリアの訓練用の細剣ではジョージの鎧は貫けない……はずなんですけどお? ジョージの鎧にいくつも細かい切り傷が生まれ黒い鎧が白ずんでいく。
目にも止まらぬ細剣の連撃に、ついにジョージの剣が手を離れてしまう。
「ま、参った! ぶべっ!」
ジョージが片膝を付けたタイミングで、ミリアの右足がジョージの顔面を直撃。ナイスボレー。
後ろに弾き飛ばされたジョージが、浮島の屋敷の壁に直撃。
地面へと倒れ込み、ピクピクとしている。
「剣を手放しても戦意を無くしてはならないわ。剣がダメでも武器はあるでしょう?」
ジョージの腕輪は魔法の収納が付いている。その中にはスペアの剣や大槌、フレイルや弓などジョージが扱える武器が山ほど搭載されている。
「ミリア、ストップ。ジョージもお疲れ様」
顔面の兜にヒビを走らせたジョージが顔を押さえながら立ち上がる。
「シヴィー、どう?」
「問題ないかと。先日絡んできた程度の魔物やマスターなら軽くあしらえる実力はありますね」
「ほっほっほっ、これほどの実力者。普通のマスターでは切り札として秘匿するレベルですぞ」
「あ、そう?」
コロくらいがやっぱり丁度いいらしい。
「ですが、何故鎧なのですか? 動きが阻害されてしまいませんか?」
シヴィーの疑問。
「コロが鉄の魔物だからさ、同じ印象を与えておけばオレの属性をごまかせるんじゃないかなと思って」
「ほほう、深いですな。良い陽動になるかと思います」
持っている加護も隠した方がいいだろうし。
「お手合わせ有難うございました、ミリア様。ミリア様に代わり、必ずお館様をお守りします」
「当然です、しくじったらその首が飛ぶと知りなさい」
ミリア、涙が赤いよ。




