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3 フェリクスの傷






 ”高圧的かつ粗暴”というキクナー王国フェリクス国王の評判は、国内のみならず大陸中に知れ渡っている。クリスティーヌの噂のように意図的に立てられた場合は別として、大抵の場合「火のない所に煙は立たぬ」ものである。けれどフェリクスに纏わる噂が ”真実” かと問われれば、少なくとも彼の身近にいる者たちは簡単に頷くことは出来なかった。




 現在26歳の国王フェリクスがキクナー王国の第1王子として誕生し、物心ついた頃には、彼の母親である王妃は既に第2王子にかかりきりであった。王妃にしてみれば、生まれつき病弱だった第2王子が心配でならなかったのであろうが、弟ばかりを溺愛し、たった一つしか違わないフェリクスを蔑ろにする母の態度は、幼いフェリクスの心を酷く傷付けた。

 父である国王は息子二人を等しく愛していたが、男親故の不器用な愛情表現しか出来ぬ上に非常に忙しい立場にあり、フェリクスに関わる時間はさほど取れない。そして幼いフェリクス自身も威厳ある国王である父に無邪気に甘えることは難しかった――


 もともと活発でやんちゃな気質だったフェリクスは、とにかく母の気を引きたくて悪さばかりした。王妃はそんなフェリクスの気持ちを汲むことなく、逆に彼を疎むようになる。母に厭われていると気付いた、幼いフェリクスの心は荒れ狂った。言動も行動も粗野になっていくばかりのフェリクス。

 やがて思春期を迎えると、彼は周囲に対して、あからさまに高圧的な態度を取り、王太子になるのは自分だと声高に主張するようになった。母とその親族が第2王子を立太子させようと画策している事を知ったからだ。この頃のフェリクスは、母に愛されることを諦め、もはや彼女を憎むようにさえなっていた。幼い頃からずっと ”愛されたい” と、もがき続けた末、不安定な思春期に、ついにその思いは憎しみへと変わってしまったのだ。


 フェリクスが14歳の時、第2王子派の貴族が差し向けた刺客がフェリクスを襲うという事件が起きた。

 フェリクスは、その刺客を自ら剣で返り討ちにした。この時、刺客が王宮の使用人に扮していた所為で「フェリクス王子は気に入らない使用人を手打ちになさる」という噂が立ち、あっという間に広まってしまった。フェリクス自身は、真実とかけ離れたその噂を「バカバカしい」と一笑に付した。当時14歳だったフェリクスは、まさかその噂が後々、自らの縁談にまで影響を及ぼすなどとは思ってもいなかった。


 国王は、この暗殺未遂事件の直後に、これ以上の争いを防く為、フェリクスを次期王位継承者として正式に指名し、国内外に発表した。もともと、病弱な第2王子を王太子に推していたのは王妃と彼女の親族、及びその周辺貴族のみだった故に、これにて物騒な後継者争いは収束した。

 そして第1王子フェリクスが ”立太子の儀” を経て「王太子」に納まると、母である王妃は王都郊外の離宮に移り、第2王子は地方で療養することとなった。




 それから7年後、フェリクスが21歳の時に、父である国王が病で亡くなり、王太子フェリクスはキクナー王国の「国王」となった。今から5年前のことである。

 

 国王に即位してからのフェリクスは、脇目も振らず仕事に邁進してきた。

 現在26歳の彼は、才気あふれる快活な王であり、臣下からの信頼も厚い。そんなフェリクスに、いつまでも「高圧的で粗暴」という評判が付き纏う事に、彼に近しい臣下たちは歯噛みする思いであった――

 

 

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