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未確認な探索者っぽい物体のレポート  作者: うんしょっ、こらしょう
その2
5/18

02 デジャヴな女難

本日分、その2


「「コラーゲン祭りと聞きまして!」」


「……え?」




それは土曜の昼下がりの教室にて。


午前中の授業のコマとしての探索を一通り終え。肉祭り継続中の弁当も片付け。土曜は半ドンのため午後は自主活動としてダンジョンに潜り、また換金効率のいい魔物を求め新規開拓という気分だった俺の前に、女子が二人が謎の言葉と共に登場した。




「「昏井宙人(ぐれい・そらと)主催のコラーゲン祭りと聞きまして!!」」


「いや、聞こえなかったわけじゃなくて、ね」




その言動が理解ではなかったのである。




この女子二人は、学内でも有名な美少女同士でチームを組み活動している探索者にしてクラスメイトの、赤重(あかしげ)コーラと青杜(あおもり)ファンナの両名である。


本来ならモブ枠の俺とはクラス内カースト的に接点の無い存在なのだが、つい先日、とあるイベントを経て友人枠という対象に昇格した。


ただし、彼女らと一定距離に居ると俺の幸運数値が激減するらしく、その後かなりの確率で不運な出来事が降りかかる。


具体的には体育館裏への呼び出しとか。


なので、男子的な感性としては嬉しいものの、正直余り話しかけてほしくないなー……な感じの両名でもあるわけだ。




「いえ先日、昏井君がスライム乱獲をスタートしたという噂を聞きまして」


「すらいむ? らんかく?」




噂には多少なり火種となるものがあるが、俺自身にスライムを狩りまくったという記憶が無い以上、そんなデマ誰が流しやがったという感じなのだ。


が、どうやら俺のこの反応で、多少なり俺との接点の深い青杜さんは察したらしい。実に古典的な『よおぅし、解った』と自分の掌にもう一方の手を握り拳にしてポンと落とすジェスチャーをすると




「説明しましょう、昏井君」




と、暗に聞かないと許さんという表情つきで宣言した。




「あ、はい。お願いします」




そう答える以外に俺に選択肢は無し。


もう、なんとなく悟ってしまってる俺。




で、青杜さんのウンチクコーナーである。




さて噂の原因は、俺の先日のヌルヌル納品を指していた。


ゼラチンは別名コラーゲンともいい、それは女性にとっては美容と直結するキラーワードに等しい言葉になる。


俺の印象としては健康食品なんだが、それは健康食品の『け』を言いかけた時点で黙殺されたので言わないが花な感じで。


で、『ダンジョンゼラチン』は先日の説明を参照すれば分るように、需要無限の万年品薄素材。しかも一部国家機密が絡むもんだから、如何に美容に燃える女性が私利私欲を全開にしようとしても、ただの学生が簡単に絡んでいい業界では無いのだそうだ。




……あれ?


なんかこの展開、妙なデジャヴを感じるぞ?




「そして、ラージスライムの素材ドロップは確実ですけど、そもそも倒す手段が限定的過ぎて、学生に厳しい相手って認識……無かったですよね、昏井君?」


「あ、はい。眼からウロコの真事実っス。はい」




午後の予定はこの時この瞬間に決定した。




……さあ、スライム狩るぞう……。












さてダンジョン地下六階層。


五階層の最初のボスを倒して来るこの階層からは雑魚の魔物も全体的強くなり、出るスライム系の魔物は全てラージスライムになる。


ただ、今回は別に一階層ごと律義に下りてきたわけではない。ダンジョンは基本、そのスタートから自分が到達している最下層まで転移が可能なのだ。なので俺たち三人は最初から六階層へ転移しての探索となる。彼女らの到達階層は42階だそうで、一応は俺たちの学年内の準攻略組という立ち位置とのこと。


換金優先で活動する俺とは、気構えからして違うエリートなんだなあ、と感心する。




「というか、いまさらだけどここの魔物、二人の敵じゃないんじゃ?」




この言葉にも激しくデジャヴ。だが言わずにはいられない。


なんせ今回に限って言うなら、ドロップ率は関係無いが故に俺が要る必要も無いのだから。




「昏井くん、ラージスライムって回避率が半端無いってのも知らないらしいね」


「そうみたいです」




あれ、なんか二人に呆れられたぞ。


で、またも始まる青杜教室。


実のところ、スライムは魔物としての回避率は素早いという部類になる。ただし、その回避率が適用するのは核に限定される。


不定形の体内を核は自在に移動し、探索者の攻撃を躱すのだ。物理攻撃無効の身体にいくら武器を当てても意味無し。なので見た目的には攻撃を当てても当ててもダメージを与え難い絵面になり、『スライムはタフ』という勘違いの印象を強くする。


普通のスライムの場合は全体的な体積が小さいからまだ核にも攻撃が当りやすい。だがラージスライムとなると、平均2m範囲の球状内を立体機動で核が回避するのである。確かにそう聞くと、実に倒し難そうな印象に思えてきた俺だった。


でも少しは抵抗しとかないとと、同じ学生としてのプライドから言ってみた。




「けど、魔法のダメージなら普通に通るよね。青杜さんの氷とかよく効きそうだし。場合によっては赤重さんの火でも、燃やせないまでも茹でるとか?」


「スライムは凍らないです。不凍能力もってますから。あと茹でるは確か効きますけど、そうして倒した場合は例外的にゼラチンが出ないんです」


「あ、そうなんだ」




知って驚く意外な事実。




「わたしの氷の槍は、結局は核を破壊して倒すのと同じなんですよね。確か無差別にダメージ効果を与えれるのは聖光と雷の魔術だけですよ」




聖属性と聞いたら一応はヒーラーと呼ばれる存在に注目するわけで、自然、俺と青杜さんは赤重さんに視線を向けるわけだが、まったく同じタンミングで視線を反らす当人である。




「……私ってばさ、基本自己回復が得意だから……さ」




うん。深くは聞くまい。


まあ、聖属性で攻撃系って結構レアだった記憶もあるし。別に赤重がポンコツというわけでは無いのだろう。おそらく。




この二人にしても、結局スライムは物理で倒すのだったら討伐効率は良いとは言えないわけだ。回避率に関しては若干、自分の知る経験との差異があるが、たぶん世間的な常識としては彼女らの方が正しい気もするし。




「あ、あと念ために言いますけど、緑色のスライムはアルカリ性、赤色のスライムは酸性の個体ですから、武器によってはさらに難易度が変わるんですよ?」


「……へ?」




虚を突かれる感じで言われた内容に、つい素で無知まるだしの反応をしてしまった俺。途端に頭痛でも感じたのか眉間を押さえた彼女たち。


ちなみに、アルカリ性に対しては金属武器はほぼ問題無く振るえるが、代わりに動物型の生物の身体には深刻な溶解作用がある。酸性はもっと単純に多くの金属を腐食させ溶かすし人体に対しても火傷に似た炎症を与える溶かすように崩壊させる。


この違いを無視していると無駄に武器の消耗を速めることになるわけで、探索者には基本的な知識として覚えておくものとなっている。




……いやだってさ、仕方ないじゃん。


俺、ずっとそういうのと無縁で活動してたんだから……さあ。












スライムの常識、というか基本情報を共有したということで探索を開始した。


で、最初は彼女たちの戦闘スタイルが見たかったので俺の役目はラージスライムへの効率的化ガイド役となった。


特に説明はしてないが、青杜さんを通して彼女らの中では、俺が魔物を探知できるスキル持ちという認知になってるっぽい。


それを聞いてこないということは公言するつもりが無いという解釈でいいのだろうから、俺も特に気にしない風で普通に案内するだけだ。


まあ、実際数分歩くだけで目的地に到着な流れには驚かれる表情が出ていたが。




「じゃ、いきますか!」


「倉井君、一応援護の準備はお願いしますね」


「はいはいー」




発見したラージスライムは緑色というよりは青に近い色の個体。


リトマス紙よろしく酸性とアルカリ性の比率で色が変化するそうなので、この個体は弱アルカリ性な感じの体質なのだろうと推測。




コ―ちゃん(コーラ)、直接皮膚に触れるのだけは厳禁で!」


「りょーかい! [聖域]使った!!」




慣れた感じのスタートで始まる戦闘。青杜さんの忠告に赤重さんが応え、彼女の全身が薄っすらと白い光で縁取られる。


後になって聞いたところ、これは聖属性魔力のバリアのようなもので、状態異常を伴うダメージの無効化と、もしダメージを受けても徐々に身体再生(リジェネート)するタイプの回復効果があるのだそうだ。


スライムから受けるダメージは纏わりつかれての窒息、または圧殺と記憶してた俺にしてみれば、触れることで起きる溶解作用への注意とか、それが状態異常攻撃な解釈になるってとこが実に新鮮なものだったりした。


いや勉強になるわー。


チームでの戦闘ってこんなにもボッチとは違うんだなあ……。




赤重さんはその状態でラージスライムの正面(?)に立ち[壁役]として背後の青杜さんをガードする。ラージスライムの攻撃は体表を広げ赤重さんを呑みこもうとするものなので、真っ向正面から攻撃を防ぐというより半歩の横移動な最小の回避で避ける感じに。そして時折、構えたバトルメイスを核に向けて突き込む感じで反撃するが、今度はスライムが同じ感じでの回避で避ける。




なるほど、なんとなく互いの攻防が拮抗した感じのものになるんだと納得した。




その間に青杜さんは攻撃の準備をしている。


今回の武器はショットガン型のエアガンで、一発で20個のBB弾が飛び出す仕様とのこと。なんだか射撃の位置取りが気になる感じで、撃つ姿勢のまま赤重さんのガードの後ろで前後左右に微妙な移動をしている。そして発砲。




「ああ、なるほど」




BB弾は綺麗にラージスライムの半身に散らばり命中する。そして体表に触れた瞬間に、弾を起点にその数だけの氷の槍が発生した。


核は回避しようとしたが、その槍の範囲からの逃れきれずに数本に刺され、あっさりと崩壊。流石にレベルの違いから命中さえすれば一撃必殺となるようだ。




「ふう、やっぱ疲労無しだと問題は無いね」


「むしろ気構えしきる前での遭遇で照準がブレました~」




難しい相手だと言ってた割に、二人が要した時間は3分にもなっていない。


魔石生成やドロップ品出現の時間を含めても、戦闘時間は4分そこらだろう。


……って、あれ?




「出たダンジョンゼラチンって、それか?」


「? うん。そうだよ」




位置取りからラージスライムの魔石は青杜さんが、ゼラチンは赤重さんが拾う。その拾われたダンジョンゼラチンの大きさが、よく見慣れた感じのバレーボール大な普通のスライムなサイズだったのである。




「小さくない?」


「「は?」」




つい、うっかり言ってしまった俺だった。


今までゲットしてはたダンジョンゼラチンに比べて、余りに小さいソレにホント、つい、うっかり。先日コクピットを埋め尽くされたのも記憶の隅にあったせいだろう。実に迂闊なひと言だった。


そんな発言をすれば当然『じゃあ俺がゲットするモノの大きさは?』と聞かれるし、それに正直に応えても誤魔化しても、『じゃあ実際のモノを確認しよう』という話になる。


そしてまあ……。




“ぽにょん”




“ぽにょんぽにょんぽにょんぽにょん……”




「「ななっ、なになになにっ!? なにこれぇぇぇーーー!!」」




……とまあ、実演してみてまた驚かれるという惨事に、当然のように収束するのである。




今回放った[謎の怪光線]はラージスライムの真下からなので、グレイシップ本体自体は見られていない。また怪光線自体も床から直接スライムの体内へと浸透してるので、随分と注意してなければ気づかれないと思う。


けども、ダンジョン内に響くこの異音だけは隠しようもなく、しかもそれに合わせて断末魔の痙攣に震えるラージスライムという絵面は理解不能の状況を二人に与え、ちょっとしたパニックに導いてしまった感があるわけだ。




なんつーか、如何にも攻撃してます的な効果音なら良かったんだけどねえ。


この間抜け感は逆に意味不明過ぎて、受け入れれる常識から完全に外れたんだろうなあ。


15階層のボスほど耐久力の無い普通のラージスライムは、30秒と経たずに死んで魔素の塵と化す。魔石生成への何時もの行程と少し違うのは、ゲットしたダンジョンゼラチンが自動的にグレイシップの船内へ行ったことだろう。


ただこれの対応は対策済みで、魔素が散りきらないで視界が怪しい内に床面ぎりぎりに配置した搭乗口からの強制排出を試みた。


昔、まだ得た肉から血の噴水が出まくってた頃の真っ赤な床上浸水をどうにかしようと苦労した末に獲得した小技である。これを使えば船内のドロップ品は余さず船外に放出される。ただし俺も含めて。今は最初から俺が船外に居るので問題無し。また今回のドロップ品以外に中に置いたものも無いので、余計な物まで出す心配も無い。


そして実際、それは成功した。ベストなタイミングで、如何にも此処にドロップしましたーな感じでダンジョンゼラチンが湧き出したのだから。




……まるで、ラージスライムがその場で再誕したかの如くな……ボリュームで。




「……あれゑ?」


「「………………」」









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