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未確認な探索者っぽい物体のレポート  作者: うんしょっ、こらしょう
その2
4/18

01 新たな金策への探索中

本日分その1。

全三話、01➡19:00. 02➡20:00. 03➡21:00になります。



俺の名は昏井宙人(ぐれい・そらと)、何処にでもいるような草臥れたモブ学生だ。今日も大衆の雑踏に紛れ、セコイ仕事で日銭を稼いでいる。




……んー、これは、ちょっと17の学生の自称にしては変かもしれない。


じゃあ……




俺の名は昏井宙人、変人の多い探索者の中では雑魚モブ空気な感じの常識人で、周囲の独特のノリに乗りきれず孤独なボッチ道の求道者として頑張っている。




……あれ、なんで視界がボヤけてきたのだろう?


まあ、なんかコレを追求したら二度と這いあがれない闇に落ちそうだから留まっておこう。せめて、今の断崖絶壁で。




というか、確かに探索者は身体が資本の体育会系って雰囲気が基本だが、うちのクラスはその傾向に偏り過ぎてる感じなんだよな。


ちょっとしたHRの内容もすぐ議論というよりは“拳で闘論”って感じになるし。








お、魔物の反応あり。反応照合……反応照合……。んー、これはマンティコアっぽいなあ。


確か、猿貌の頭部が錬金術系スキルの触媒で高額。サソリ尻尾の毒袋がダンジョン薬学の素材として、そこそこの価格。その他の部位ドロップはダンジョン農学の飼料にしかならないので捨て値……。


うん、パスだな。猿貌っていうか、ほぼ人面の獅子の頭部とか傍らに置いての探索とか恐ろしいわ。しかももし生首が突然話始めたりなんかしたらチビルわ。




マンティコアは獅子の身体に老人の顔というキメラで、魔物図鑑によると老境の魔術士が不老不死の探究の末に自らをキメラ化した結果の失敗作というものなのだとか。


魔獣の能力と魔術士としての知能と意識を兼ね備えた感じで、時には出会っても即戦闘にはならず、学識高めの問答試合になるとかならないとか。


もちろん、此方が負けたら喰いに来る。


勝ったら勝ったで、逆上して襲いかかってくるらしいが。


正に面倒くさい老害の権化。


そして魔法生物扱いなので、首だけのドロップ品になってても実は生きてた、なんて可能性も無きにも非ずというわけだ。


割と本気で相手にする気にならない。




次行こう、次。




俺は何時もの通り、自分のスキルにして専用の移動手段。次元潜行艇[グレイシップ]を駆りダンジョンの裏の次元を潜り進む。




俺のスキルはダンジョンとは接しつつも別の世界を行動するという反則じみたものなので、こうして戦闘回避に専念すれば一度も戦わずに次の階層連結の地点まで移動できる。


ただ、不思議と階層自体を無視しての行動とはいかない。必ず階層同士を繋ぐ階段状の連結ルートを使う必要はあるし、次の階層への移動条件に中ボス戦が必須なら、それを避けるわけにもいかない。




あくまで、このダンジョンに紐接いだ別の次元しか移動できないって感じなんだろうなあ。




で、そうこうしてる内に、その中ボス戦の部屋に到着だ。




学内ダンジョンの階層としては地下15階。14階から降りたらそのフロア全体がボス戦用の専用エリアとなる。




えーっと、ここのボスってなんだったっけ?


中ボス階って五階層ごとにあって、最近は八階のオークばかり相手にしてたからすっかり忘れてんだよな。




確か五階、最初のボスが『レッサーオーガ』。ゴブリンの上位種であるホブゴブリンをさらに1.5倍にした感じの魔物で、強さの評価は人類最強の格闘家な感じだったはず。体育会系探索者に換算するとLv4前後ってことで、中等二学年くらいで普通にボコれる。


俺のスキル・グレイシップとは世界の違う基準なので単なる記録としてしか覚えてないが、そんな感じ。


それでも人生最初のボスな魔物のためにか記憶には残っている。


問題は……次のボスだよな。


本気で、なんだったっけ?


人型……じゃなかったような? 二回続けては出ないもんな。だから順当に考えれば獣型か鳥型か虫型か……、あ、他の候補のほぼ全部じゃん。


これは、もう悩むだけ無駄だと思いだすのを諦めた。


まあ、たぶんだけど獣型にしとこう。他の二種は未熟な探索者には対応のキツイ特性もってるし。獣型が無難。うん無難。




結局、二番目三番目のボスは俺の記憶からスッポリ抜けたままだが問題無い。現状、俺の到達している階層は地下34階までになる。それを達成したのは一年近く前なので、よりスキルが強化された今じゃ負ける要素は無いのだから。






ああ、思い出した。


15階にて再び対面してだから、微妙な思い出し方だったが。




ここのボスは『ヘビースライム』。三階層あたりから登場する『ラージスライム』の特異個体になる。基本特性はスライムと変わらず、核以外への物理攻撃を無効化すること。バレーボールサイズの普通のスライムなら片手持ちの武器でも振れば当る位置に核があるが、ラージスライムは大きさが直径2m以上になるので両手持ちの武器を突くようにしないと有効な攻撃とはいえなくなる。ただそうすると核への命中率が激減するわけで、基本は魔法で丸ごと攻撃しての対応が普通になる相手だ。


で、その特異個体となるヘビースライムは、名前どおりラージサイズに見合う重量の……水銀の塊ような印象を持っている。


ぶっちゃけ、『メ○ルスライム』なのだ。しかも頭に『キング』とか付きそうな。


王冠被ってないだけまだ版権セーフであろう。仮に訴えるにしてもダンジョンの何処に対応窓口があるかは知らないが。




金属質ではあるが透明度のある姿なので核の位置は確認できる。


普通の探索者ならラージスライムへの対応と同じに接敵されない距離から一撃離脱の核狙いとなる。このボスの場合、下手に接敵されたら完全に潰されるので、そのあたりの緊張感が行動失敗の原因となるかせ注意……の相手らしい。




俺の場合、そこそこ強化した[キャトるさん]の本気の咬みつきで身体が千切れなかったという記憶がある相手だ。


もちろん今は大丈夫だろうが、ここは基本に立ち返って俺式正攻法で対応してみよう。




ということで展開したのは、グレイシップのオプション武装第二弾、『謎の怪光線』だ。


形状は潜行艇先端の上部からせり出るパラボラアンテナ。微妙にBSアンテナ感の方が強い気もするが、そこはノーコメントで。


これも[キャトるさん]同様に次元の境界を越えての攻撃が可能なので、相手に回避される危険の少ないものだ。ものなのだが……発射の瞬間に相手が予想外の反応をしやすいので、結果的に外れることも多い武器だったりする。




まあ、スライム相手なら外しようがないので、今回は気にしないでいいのだが。




[発射]の意識に反応し怪光線が飛び出して行く。


そう、飛び出して行くのだ。『ぽにゃん』とか謎の擬音を発生させつつ、光の輪っかという形状で。


見た感じの印象はアレだ。水族館でイルカが空気を輪っか状に出す『エンジェルリング』。


ピンクで縁取られた白光のリングが『ぽにゃんぽにゃん』と擬音を鳴らしつつ秒速1mな感じで進んでいく。そしてこの音がダンジョン側にも届いてるようで、発射直後から俺を中心にした周辺一帯は、突然起きた謎の現象に困惑する状況を生む。


なんというか、この緊迫感を削ぐ擬音のせいで妙な遣る瀬無さに苛まれるという精神ダメージが来るんだよなあ、この攻撃。




スライム相手に何だが、一応は死角からの攻撃ということで怪光線は斜め後ろ側からヘビースライムに命中する。怪光線は一瞬スライムの体表に阻まれる動きの後、ゆっくりとその中に沈んでいった。誘導弾といった性能は無いのだが、沈んだ光線が核に当り、輪っかの性質で絞めあげるように絡まったのは伝わる感覚で分った。


これが、この怪光線の機能になる。


半分物理特性をもつ高熱の光の輪。命中すれば絡まり、場合によってはバインド効果も発揮して高熱で対象を焼く。持続時間は大体二分か。効果からして火属性は持っているようで、対抗属性を相手にすると消滅する時間も速くなる。


実際、水属性を持つらしいスライムには一分も経たずに一発目が消滅した。




が、問題無い。




既に二発目三発目と怪光線の輪は連続してスライムに届いている。


輪っか状の怪光線がぽにゃんぽにゃん蛇腹のパイプのように飛ぶってのは古今東西19世紀の昔から続く常識なのだ。


次々と核に絡んだ光の輪は確実にダメージを蓄積させ、五分ほど続いた謎の戦闘は一方的な暴力として、俺の勝利に結んだ。




膨大な魔素が散り、その一部が魔石となって得られる定番の流れの後に座席の背後に“どちゃっ”と、ここ最近聞きなれてる水気の多い物体がたてる音が鳴る。


ここで血生臭さが続くとなれば、つい先日までの肉祭りなのだが今回は違う。


臭いはほぼ無い代わりに、座席の背もたれを越えて剥き出しの後頭部に直接ぺっとりと貼りつき押してくる圧迫感で正体が解る。


というか、これは前にここのボスを倒した時もあった現象なので、思い出した。




「やっべ、完全に忘れてた。ラージ系のスライムからは『ダンジョンゼラチン』が100%ドロップするんだった」




しかもこの圧迫感の反応は確実にボーナスドロップも乗った成果だ。


ほぼ空にしてたコクピットの空き空間を一発で満杯にしてくれたのだから、間違いない。




『ダンジョンゼラチン』は現状、日本が世界一活用しているダンジョン素材といわれている。


基本の性質はその名のとおりゼラチンの代替品としての利用となる。動物性たんぱく質が原料の都合上、漁業減少、食品輸入のルートが断たれた現在は、日本で使うゼラチンのほぼ100%がこれで賄われているとかだったと思う。


だがこれには他の活用法も開発されていて、高品質生化プラスチック用の素材としても既に完成して技術として利用されているのだ。


なんでも俺が生まれる前の大昔に、自然分解しないブラスチックによる環境汚染がもの凄く問題視されたのだとか。それで作られたものが、自然素材を利用した生化プラスチックなのだが、一定期間で分解する構造から元々の耐久性は脆かったり、本来軽く強靭性を求める部品には耐久の時限性で使えなくなったりで、利用目的に本末転倒な問題を抱える欠陥素材と化したのだとか。それを払拭したのがダンジョンゼラチンから作られたダンジョンプラスチックだ。


なんせ元を糺せば根幹となるもの魔素なわけで、どんなに既存のプラスチックと同じ問題を抱える状況を生んだとしても、とある手順を踏みさえすれば、元の魔素へと瞬時に分解する構造を組みこんだのだとか。


その手順は国家機密ということで一般人には知ることはできない。なんせ今では、これで自動車の車体が作られてるのが普通だし、もちろんエンジンやモーターの中の部品としても組みこまれている。一般の家電も同様で、その機密が漏れてテロにでも利用されたら大問題な案件となるのだから。




と、いうことで、世間の暗い部分は置いといても今の社会じゃ需要は無限の当り素材と呼んでもいいモノなわけだ。


問題は、この素材状態の膨大な体積なわけだが。


実はこの状態の物はその八割が水分になる。買い取りはゼラチンの成分分のみとなるので、当然この見た目の二割分となる。


果して、この大きさの重量はどれ程なんだろかねえ?




というわけで、サイズの割には成果が微妙という結果もある素材なのである。




確か、一般の探索者の場合は水系か風系の属性魔術で乾燥させ嵩を稼ぐんだったかな。生活魔術の規模だと追い付かないから、攻撃魔術の使える人材が必須とかも聞いた気がする。


そのどちらも無い場合は、えっちらおっちらぽよんぽよんと、このまま戻る選択肢しか無いことになる。


つまり、今の俺みたいに。




一応補足として言っておくと、ダンジョン食材系の素材は時間経過による腐敗性の変化がほぼ無い。なので、このゼラチンにしても放置して乾燥するという変化は無い。誰かの魔術的か物現象的な乾燥加工を加えてのみでしか、嵩減らしはできないのである。


……実に悲しい。




結局、俺の探索は中止となり地上に戻ることとなる。


しかも狭いコクピットをほぼゼラチンで埋められた状況は、俺にその塊を自力で掻き分けて船内から出るという苦行を強いる。


結果、全身半透明のヌルヌルな格好で学内素材買い取り窓口に立つ俺は、非常に外聞の悪い記憶を周囲の連中に印象づけたのだった。







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