03
本日分、三話目。
昏井くん初遭遇の顛末はこんな感じで、実のある情報が得られたと同時に新たな疑問が生まれもした。
肝心のスカウトに関しては諸般の事情で保留。
彼があの後入院騒ぎになり、延期せざるをえなかったから。
そのあたりの詳細は特に記す必要は無いので省略。
というか、あの後のコ―ちゃんの詰問が本気で厳しかったので、もう思い出したくない。
結果的に彼を災難に合わせることになったので、午後の時間は探索は中止して入院中の彼のお見舞いに使った。
彼のおかげで大量のオーク肉も得られたことで、微妙に活動資金にも余裕ができたし建前に使った美容食の成果も出さないと、逆に不信に思われる可能性もあったから。
だれど、オーク肉を組みこんだ食生活をしてから自分の体力面が増強された実感はあるので、彼のスカウト云々は別にしても定期的なお肉の調達は考えておきたい。
だから……ちょっと欲の混じった気持ちだが、彼との関係が悪い方にはいかないように、せめて普通に友人と呼べるくらいには関係を深くしたい人物になった。
彼が復学したものの、わたし達との関係が急に近くなったかといえばそうでもない。
わたし達は、自分が学内でどういう印象を周囲に与えているかくらいは自覚している。
公認したつもりも無いし向こうからの接点も無いが、ファンクラブ的な集団がいるのも知っている。
そういう存在を大事したい使命感は無いけど、そういう存在が時に、わたし達の知人にとっての面倒な存在に化けるのくらいは認識している。
しかも大概、こちらが直接その面倒を治めようとすると変に拗れるのだ。
だから昏井くんへの頻繁な接触は彼にとっての面倒なトラブルに直結するという、わたしとコ―ちゃんとの統一見解が出たため、また少し時間を置いての対応が決まった。
……はずなのに、僅か数日後にはその決定が覆された。
コ―ちゃん情報によると、改めて現状の彼の交友関係をチェックしたのだとか。
それによると彼の交友関係は非常に狭い。クラス内には友人と呼べる男子は居ないし、もちろん異性の友人、彼女もいない。
どうやらクラス換え前の、高等一学年時代に作った関係しか維持してないという結論だった。
その内の幾人かがわたし達とも交友のある人物だったことには少し驚きだが、コ―ちゃんの指摘する部分は違った。
彼、昏井宙人という男子学生は、意外に同性よりも女子学生を含む異性との接点の方が多いという事実だった。『意外とギャルゲー体質だったんだ、あいつ』というコ―ちゃんの呟きは、聞き流してあげたけど忘れない。
今度絶対、からかう時のネタにしよう。
より調べてみれば、そういう相手の大半は探索行動における仕事上の相手なのだが、この時のコ―ちゃんにはわたしの指摘が理解されなかった。
いわく『将来的に親しいと言える関係への要素は、普段から多くの接点があること』らしい。例えそれが、素材買い取りの窓口越しで事務手続きの会話だけであっても、だ。『そういう相手と何処かのプライベートな場所であったら運命に感じる』という主張を、ちょっとウザい感じで力説された。
……ほんとにもう、コ―ちゃんに春が来たのは親友として本心から嬉しいけど、この手間のかけ方だけは面倒にも思う。
正直に言えば、彼が周囲の雑音をものともしない実力があれば簡単な問題だとも思う。けど現状で考えると、そうすると高い確率で彼に不幸なことが起きる。
わたし達をとり巻く面倒な存在の中に上級生や教師もいるせいだ。
教師の方は、彼が公式に良い実力を示せば大人しいだろう。一応教育者として存在するけど、結局のところその正体は現役探索者を辞めざるをえなかった挫折組なのだ。学生の大半は追い付かない実績と経験をもつ人も確かにいるけど、中には中等学生からすら嘲笑の対象になるクズもいる。しかしそんなクズが此処にいられる理由は、やはりそれなりに学内では強いものとして確かに存在するのだから下手に相手にするだけ此方に一方的に面倒なものが降りかかることになる。でもそれは社会にとっての将来への有望さを示せば封殺できるものでしかないから、問題無い。
本当に面倒なのは上級生の……極一部。
連中は実力で言えば有能の一言だ。学生限定とはいえ、攻略組としてダンジョン深部で活躍する実力と実績を持っている。
高くなった天狗の鼻が卒業後、現役探索者達にへし折られることは確実だろうけど、此処にいる間はそれもない王者の気分を味わえる立場だ。
幸いなのは、芯から下衆というクズはいないこと。
ただちょっと可愛いだけの女子学生を巡って暴れようとかな、本気の脳筋も陰湿なサイコパスも居ないことだろう。
ただ、自称の正義の味方は結構いたはずで。
もし、彼がわたし達との関係を深める流れで『悪役』という印象が流れようものなら、それこそわたし達の意思など無視して断罪を始める危機感は、ある。
だからコ―ちゃんも、もう少し、自然と彼がわたし達の仲間になるようなポーズを周囲にアピールしてほしいんだけど……無理なんだろうなあ。
そして結局。
彼が新たにスライムのドロップ品で話題を作ったのを機会に、わたし達のスカウト計画第二弾はスタートした。
結果は……。
ちょっとこれも封印指定、かな。
そして現状、あの冒頭の攻防に繋がる。
謝罪のこととか報酬分配のこととか、学内での処理つきの問題もいろいろあっての話したいためのアプローチなのだけど、ちょっと露骨に避けられる状況になってて頓挫中。
コ―ちゃんもわたしも意地になってる面があるので、周りにあまり良い印象を与えて無い自覚があるのだけど、ちょっと止まれない感じでもある。
これがさらに周囲にトラブルを広げないかは、運任せ?
今は、ほんの少しくらいなら昏井くんが悪い目みてもいい気持ちになってる部分もある。
だから早く、お縄についてほしいのです、昏井くん。