02
本日分、二話目。
昏井くんスカウト作戦最初の行動は観察。
彼の学生としての日常を記録する。
数日の記録を見返して……彼のボッチ率に……ちょっと引くわたし達。
それでも、僅かに接触のある人達を対象に情報収集した結論として、アプローチ役はわたしが担当ということになった。
……ええ。わたしって、そういう役が定番だもの。
好きで胸を大きくしたわけじゃないんだけどなあ。
まあ、形状方面での努力は普通にしてるけど。
作戦実効日。
昏井くんとの交渉手段はコ―ちゃんのドン引きで強引すぎる荒技が炸裂した。
昏井くんの顔を真っ赤にしての反応は、良い感じ70%情けなさ30%な感じかな。女性慣れしてないとこに好感は抱くけど、同時に何時暴走されるかな不安も感じる。
それを意識してしまったせいか、失敗した。
まさか、会話の流れでだったといえ自分からエッチい方へと誘ってしまうとは。
ただ、思い返してみたらあれは昏井くんにも非が無いわけじゃとも思う。
彼の常識はわたし達のそれとは、随分とかけ離れてるのだから。
昏井くんのスキルは『地魔術』という。
実際に見て抱いた印象では罠設置に特化した土魔術というものだった。
ダンジョンの床から鋭い牙が並んだ口が生え魔物を捕獲、固定する。どこにも回避できなくなった魔物は射撃系の魔術で簡単に倒せる的でしかなかった。
最初は確かにそういう印象だった。そこに違和感を覚えたのは……不肖、自分がやらかした大失敗の直後。
昏井くんのオークに関する情報は得られなかったが時間も結構使い、地上への帰還を考えなきゃな状況。探索としてはなんの成果も無いが、地上で待機してるコ―ちゃんとの合流も考えれば戻るしかない感じの時間。
でも何故か昏井くんは探索に成果無しという結果を嫌い、それまでのわたしと一歩引いた感じの態度を豹変させて強引になる。
それほど鍛えていないような見た目でも男子なせいか、意外に力強く手を引かれて半端無理矢理連れて歩かされる。わたしはもともと自分のペースじゃないと直ぐ動きのバランスが崩れるしで、強い拒絶の行動もとれずに彼のなすがまま引きずられる感じになってしまった。
いくら速足でも、このままのペースで移動しても、いい成果には繋がらないと思った。しかし僅か数分歩いただけでオークと対面した時は、そんな気持ちが揺らぐ。
さっき同じ工程で彼が魔物を固定、攻撃はわたしが、という流れを彼の真剣な声で指示され、素直に従った結果。オークはただの一撃で仕留めることができた。
そしてその結果、ありえない数のオーク肉がドロップするのをこの目で見てしまった。
ああ、コ―ちゃんの予想は本当だった。
ちょっとしたトラブル付きだが、わたし達の目的の一つが証明された。……と、その時は本気でそう思えた。
残る目的は彼のスカウトに関するもの。
ただ、これはちょっと、その時の時点では保留の気持ちしかなかった。あんな印象を与えた直後に仲間になってとか、絶対に言えないしっ。
今の昏井くんってば結構強い覇気のある顔をしてるのだ。興奮もしてそう。ここでそんな爆弾を告げたら、確実に襲われるとしか思えなかった。
だから、今は昏井くんが自然にクールダウンするまで待つしかないと思ったのだ。
けどこれが、新たな疑問と驚きのスタートだった。
移動の時間はまちまちだけど、基本10分以内にオークと遭遇する。ドロップ増加の異常は同じ。気になったのはルート選択の効率と、オーク以外の他の魔物が一切出てこないという異様さ。その答えの一つは確認できた。あの罠の魔術だ。
天井近くで小さく『キキキッ』という魔物の声を聞いた。確かサイレントバットという吸血蝙蝠の魔物のものだ。いつも天井の暗がりにいるし認識阻害の特殊能力もあるので、向こうから攻撃を一撃もらわないと対応のとれないという厄介さがある。
それがあの罠の魔術で仕留められていた。天井から咬みつかれ、そのまま完全に捕食されていたのだ。
この時、昏井くんの魔術の情報には嘘があると確信した。
少なくともあの罠の魔術はもっと強力で、そして設置ではなく移動くらいは可能ということ。場所も地面に限らない。おそらく土や石の場所なら何処でも発動する。この移動速度が証拠だろう。わたし達の移動に先行してあれが全部露払いしているのだ。
そしてそれは、昏井くんがある程度の範囲の魔物の位置を完全に把握している証拠でもある。
さっきのオーク戦まで移動した距離は……移動速度と経路からして直線で大体500m近くある。既存で知られる探知系スキルとは別格に高性能のものだった。また行き止まりやギミック開閉式で手間取るルートを避けての最短で迷い無く進むのだから、マップ情報的な確認ができるスキルもありそうだった。
この探知能力が駆使されてるのだとしたら、毎日のあの成果も納得するしかないものだと理解した。
そんな戦闘内容には半分関係無い考察をしつつの強行軍だったせいだろう。ただの一時間程度の探索にも関わらず、わたしの疲労の蓄積っぷりは限界を越えていた。
でも一言いうならば、普通の探索行動は緩急ついたバランスのいい行動が基本。一度戦闘したら小休止兼用の待機時間をとってからの移動、そしてまた戦闘と、なるだけ疲労を溜めないように動くのです。
あんな……移動戦闘移動戦闘を休み無しで分単位で繰り返す強行軍の方が異常なんです。
結局、長めに足を止めれたのって大量のオーク肉を運びやすく荷作りする時だけでしたし。
……そういえば、昏井くんが貸してくれたキャリーって、何処に携帯してたんでしょう? あと背負う用に準備してくれたロープとか。
確かにどれも学生が探索に持って行くツールですけど、その個数が変。
普通、独りで使う用に二個もキャリーを持っていきます?
ロープだって、あれだけで荷物としては立派に嵩む物量と思いますけど。