表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その英雄、機械仕掛けにつき  作者: 24
第一部 憎むべき隣人たち
6/28

報告書06 人間の証明

この話を書き上げたぐらいで初めて感想をいただきました。本当に嬉しいです。

 鳴り響く警報。集結する自警団と、それを踊るように蹂躙していく戦乙女たち。欠損した部品の一部を奪い返すつもりのように、素手で自警団の者たちの身体をもぎ取っていく。


 鳴り響き続ける警報にも劣らないほど、悲鳴と停止スイッチが通じないという恐怖の声が響き渡る。その中にはアイリの哄笑も含まれていたのだが、女性の断末魔とともにいつしか聞こえなくなっていた。


 自警団、技術者を問わず、ここにいる全ての者に襲いかかる戦乙女たちに、リスティは――戦っていた。


「せやっ!」


『敵は重力制御を使って飛翔しています。あなたの力では敵いません』


「でも逃げられません! ……あなた! わかりませんか!?」


 リスティの気合いとともに放たれた一閃は、文字通りに空を切る。敵となった戦乙女たち、その飛翔能力は修理中の者たちにも搭載されているようで、建物の中を自由自在に飛び回っていた。不幸中の幸いなのが建物の中だということだったが、それでもしっかりと修復の行き届いたこの建物の天井は広い。


 騒ぎの隙に取り戻したイユとの通信用アクセサリーから、リスティと戦乙女の戦力差という分かりきった忠告が届く。とはいえ、この建物の外に戦乙女を一体でも出してしまえば、矛先は関係のない市民にも牙を向くだろう。そうならば、リスティが逃げられるわけもない。


 そうして戦いながらも、相手も人間なのだからとリスティは戦乙女に呼びかけるものの、まったく応える様子はない。ただ命令通りに人間を殺していく様子は、生身であるにもかかわらず《機械》そのものだった。


「あなた方は……人間だったのに……!」


『重力制御反応あり。来ます』


「っ……ごめんなさい!」


 年齢もリスティとそう変わらない。両手足を機械部品に換装され、潰された顔半分を艶やかな黒髪が隠している。恐らく、顔半分は機械部品で修理するつもりだったのだろうと、リスティでも理解できる。


 もはや人間と呼べる部分は僅かしかない。それでもと呼びかけたリスティだったが、イユの警告に光刃を構え直して。戦乙女はリスティの死角たる直上に飛翔するとともに、急降下して首をねじ切ろうとしてきたものの。


 それを読んでいたリスティは、自ら頭上に跳躍して距離を詰めると、光刃を伸ばして戦乙女の胴体を薙いだ。機械部品ならば両断は不可能だっただろうが、その戦乙女の胴体はまだ少女本来のものだというのをリスティは見抜いていた。


 胴体部分を両断された戦乙女の一体は、飛翔していた勢いのまま床に叩きつけられて機能を停止する。血とも油とも取れる液体がぶちまけられ、光刃をしまいながらリスティはそちらに振り返って手を合わせる。


「……ごめんなさい」


『リスティ。奥の部屋にマキナの反応です。よろしければ向かってください』


「……はい!」


 故郷で警備隊員として働いていた頃にも、リスティは守るべき対象だった人間を斬ったことなどなかった。もちろん斬りたいなどと思ったこともないし、いざ斬るような事態になったとしても自分は手を出せないと思っていた。


 ただ目の前でピクリとも動かない戦乙女のことを、リスティは人間として見ていた筈なのに。斬る時は、ただの機械だとしか思わなかった。


 様々な気持ちがないまぜになりながら謝罪の言葉を残し、リスティはイユの言葉にしたがって通路の奥へと進んでいく。マキナを救うことが出来れば、この事態も解決するはずだと淡い希望を感じながら、閉ざされた扉にたどり着くと。


「せやっ!」


「……誰だ? 私の研究の邪魔をするな!」


「そんなことを言ってる場合ですか! あなた方のせいで戦乙女たちが暴走し、て……」


「ふん。こいつが完成すれば全て解決する! 黙って見ていろ!」


 閉ざされた扉を光刃で斬り裂いたリスティが中で見たものは、研究所とそこに立つ一人の男性――技術長の姿と、未起動の戦乙女が一体。マキナの姿を探してリスティは部屋を見回すものの、見知ったあの姿は見えなかった。


 先ほど会った時の態度はあれでも猫を被っていたのか、高慢そのものといった様子で怒鳴り散らす技術長は、リスティの方を一瞥したのみで作業を再開していく。どうやらまだ目覚めていない、アイリの破壊命令が届いていない戦乙女を修理か改装しているようだ。


 とはいえ戦乙女を一体だけ味方として起動したところで、戦況が変わるともリスティには思えない。そんなことをしている暇があるなら、暴走した戦乙女たちを停止させるべきだと、リスティが技術長に詰め寄ろうとした、その時。


 リスティは身体を強ばらせた。何故なら、机の上から衝撃で部品が落下し、雑多な研究所の床に落ちたのだが――それがマキナの生首だったからだ。


「マキナさっ……マキナさん!」


「うるさい! 気が散るだろう!」


「あなた……あなたは! マキナさんに何をしたんですか!」


「マキナ……? ああ、いい部品だったよ。抵抗もなくバラされてな!」


「あなたは……人間なんかじゃない……!」


「ふん、人間だよ。機械を自らの手足のように扱うのが、古来は人間の証だったのだからな!」


 技術長の怒号などもはやリスティの耳には届かない。拾って確かめようとも、確かにそれは先まで笑っていてくれたマキナそのものであるが、もう表情を浮かべることすらなくて。リスティは力を失って膝から崩れ落ちながら、ただマキナの生首を抱き抱えて泣く他なかった。


 それでも自慢げに語る技術長の言葉から、一応の顛末は理解できる。人間を守ることを使命としているが故に、人間に抵抗しなかったのだろうマキナを解体し、その部品を使って戦乙女の一人を改造しているのだ。マキナの部品を使って改造された戦乙女は、もはや生身の部分が外側からは見て分からないほどで。


 マキナも戦乙女となった少女たちも、人間を守るために機械の身体ながら戦っているというのに。リスティの目の前の男は、自らの興味のためだけに彼女らを犠牲にして、自分は安全圏で高みの見物をして。機械の身体など関係ない、どちらが人間に相応しいというのか。


 そんなリスティの言葉を何でもないように吐き捨てながら、技術長は戦乙女の改造を終える。改造を終えた戦乙女はもはや人間だったことを忘れたような姿であり、人と同じ姿をした機械人形といった方が正しいほどだった。


「さあ起きろ! 不良品どもを蹴散らしてこい!」


『リスティ。30秒後、マキナを抱えて伏せてください』


「イユさん……そうですね、マキナさんの分までみんなを守らないと……!」


『……古来では機械を操るのが人間の証、というのは面白い話ですね。今が現在なのを忘れてしまっているようで』


「……え?」


「最高傑作の起動だ……!」


 うつむくリスティを現実に引き戻したのは、イユから届いた通信の言葉だった。そう、まだ何も終わったわけではないとリスティは涙をふいたが、イユの興味は技術長の言葉にあったようだ。


 30秒後。リスティの耳にもイユの大型四輪の駆動音が聞こえてきて、いつだかと同じく壁を破って合流するつもりだということが分かり、マキナの首を庇うように身を伏せる。


 それと同時に改造戦乙女は起動し、辺りの状況を確認するように首をグルリと回す。最高傑作がしっかりと起動したことが分かった技術長は、満面の笑みを浮かべることとなって。


 その表情から二度と変わることはなかった。


 断末魔をあげる暇もない。戦乙女の腕に心臓を抉りとられた技術長は、満面の笑みのまま殺されていた。まったく苦しみもなく死んだ様子を見て、リスティはイユが語っていた先程の言葉を思い出した。


 ――古来では機械を操るのが人間の証、というのは面白い話ですね。今が現在なのを忘れてしまっているようで――


 そう、古来ではどうだったか知らないが、今は現在である。人間に操られるのが古来での機械ならば、今の機械は人間を殺戮する敵でしかない。元が人間であろうと全てが機械になるように改造してしまった時点で、彼女は人間を殺戮するのが目的の《機械》となってしまったのだ。


『お待たせしました。お乗りください』


「……いえ! 《機械》を町に出すわけにはいきません!」


『……この町の人間は、あなたには無関係なはずでは? リスティ』


「人を助けるのに理由なんていりません! マキナさんをお願いします!」


『そうですか』


「はい、今まで……ありがとうございました! ……せやぁぁっ!」


 戦乙女――いや、《戦乙女型》が次の目標をリスティに捉えると同時に、イユの大型四輪が窓を破りながら研究所に突入してきて。そのまま反転して後方の入り口を開けてくれるものの、ここでリスティが大型四輪に乗って逃げてしまえば、《戦乙女型》は町の外に解き放たれてしまう。


 それだけはさせる訳にはいかないと、リスティは立ち上がって光刃を展開する《戦乙女型》と相対する。マキナの亡骸をイユのマジックハンドに託して、多分もう言う機会はないだろうと今までの感謝を告げる。


 機械巨人に換装する前とはいえ、目の前の《戦乙女型》がマキナと同じ身体能力を発揮するのならば、リスティに勝ち目は薄い。先の戦乙女のように両断できる生身の部分も見当たらず、それでもリスティに退くという選択肢はない。


 そんな弱気を吹き飛ばすように気合いを叫びながら、《戦乙女型》の元に一足跳びで駆けると展開した光刃を振りかざした。しかしてやはりその一撃は空を斬り、《戦乙女型》は宙に浮いてリスティを見下していた。マキナの身体を使ったとはいえ飛翔能力は残っていたらしく、後退しようとしたリスティの顔面を蹴りが襲う。


「……っあ!」


『…………』


「ま……待ちなさい!」


 後退が間に合わずにリスティは頬を蹴り飛ばされ、研究所の机を巻き込みながらゴロゴロと転がっていく。そんなリスティを戦力外とでも見なしたのか、《戦乙女型》は外に向かおうとして窓があった方を向く。


 やはり勝ち目は薄い――と実感しながらも、それでも人を守らなくては、という義務感だけでリスティは立ち上がる。


 そこで《戦乙女型》は外を目指したがっていた訳ではなく、リスティを戦力外として見逃した訳でもないことに気づく。《戦乙女型》が見る方向、かつて窓があって今は大型四輪が鎮座するその場所に、新たな機械が立っていたからだ。


「マキナさん……?」


 機械巨人が大型四輪から発進するとともに、リスティの信じられないように呟いた言葉に応えるように頷いて。大型四輪から撃ち出された両手斧を掴むと、何も言うことなく《戦乙女型》に向かっていく。


 その行動で《戦乙女型》は機械巨人を敵と見なしたらしく、迎撃に近くに転がっていた大型机を放り投げた。それ自体は容易く両断してみせたものの、その破片に隠れて《戦乙女型》は機械巨人の死角へと飛んでいた。


 両手斧を振りかぶった反対側からの一撃。機械巨人の装甲の隙間と隙間を狙ったような貫手が炸裂し、《戦乙女型》の左手が機械巨人に突き刺さった。致命傷間違いなしの一撃ではあったものの、それは相手が今しがた殺した技術長のような人間であったら、の話だった。


 機械巨人もダメージは受けたものの、むしろそれが狙いだったように待ち構えていた。攻撃した瞬間という最大の隙を狙い、《戦乙女型》のに胴体に痛烈な殴打を喰らわせた。


 衝撃音。馬力ならば機械巨人は圧倒的であり、火花とともに《戦乙女型》が吹き飛びながらも飛翔して体勢を整える。機械巨人は追撃に持っていた両手斧を投げつけたものの、空中を自在に飛翔する《戦乙女型》に当たるわけもない――が、それは囮。


 予知のように回避地点に発射されていた腕部ワイヤーが、《戦乙女型》の足にがっしりと巻きついて。人間相手であればそれだけで足が細切れになっていただろうが、《戦乙女型》の足部はマキナの部品を使って改造された。巻き取られるワイヤーに引っ張られ、《戦乙女型》は再び機械巨人の懐に戻ってきた。


 そこからの戦いは一方的で単純なものだった。機械巨人がワイヤーに巻き取られた《戦乙女型》を掴んで大地に叩きつけた後、胴体を踏みつけて逃げられないようにした後は殴打の嵐。いくらマキナの部品を使って改造されたとはいえ、パワーは比較するまでもなく機械巨人の方が上。


 《戦乙女型》の特技だった飛翔を封じられた上に、あとは零距離の乱打戦ともなれば、衝撃音とともに《戦乙女型》の肉体が破砕されていくのみだ。


「マキナさん……もう」


「やめてくれ!」


「団長……?」


「やめてくれ……大事な、大事な娘なんだ……私の……」


 そうして《戦乙女型》が高層建築から落下したような状態になり、完全に機能を停止するまで機械巨人の殴打は続いて。リスティの言葉に従うように機械巨人が動きを止めるとともに、研究所だった部屋に団長が走ってきていた。


 今までの冷静沈着といった様子はどこにもない、負傷とともに汗だくで取り乱しており、もはや原型を留めていない《戦乙女型》に駆け寄った。うわ言を呟きながら壊れた部品を拾い集めていくが、どうしたらいいか分からない様子でオロオロと辺りを見渡している。


「ああ、こんな風になって……また動けるように直してもらうからな……」


「あの……」


「大丈夫、お父さんに任せろ……機械はすごいんだ、お前も動けるようになる……」


「………………」


『事態は収束したようです。厄介事に巻き込まれる前に行きましょう』


「……そう、ですね……」


 戦乙女に改造されてしまった少女たちも、元々は普通に生きていた少女だったのだろう。いや、もしくは機械の補助があってようやく普通に生きることが出来ていたのかもしれない。目の前の団長を見ていると、リスティは改めてそう思わざるを得なかった。


 なんて言葉をかけてもいいかも分からなかったが、それでもバラバラになった娘の部品を拾い集める団長に、リスティは話しかけようとしたものの。あいにく団長からはリスティや機械巨人のことは見えていないらしく、父親らしい言葉をずっと壊れた部品に向けて語っていた。


 どうしたらいいか分からず団長のことを見ていたリスティの意識を、無機質なイユの言葉が引き戻していく。確かにそんな団長の呟きが聞こえるほどに町は静寂が包んでおり、どうやら戦乙女の暴走は町に被害が出ることなく収まったようだ。とはいえここにいては何に巻き込まれるか分かったものではなく、リスティはイユの言葉に従って大型四輪に乗り込んで。


 そうしてリスティたちは、戦乙女の町を立ち去った。町を守る自警団の隊員、それらを治す技術者たち、対外的には英雄だった戦乙女。それら全ての数を減じたこの町がどうなるかは、リスティには分からないことだった。



「いやー、大変な目にあったね。でも無事でよかった!」


「はい。マキナさんも無事で……無事なんですか?」


「……ま、あれぐらいなら大丈夫かな。あんまり見せびらかしたくはないけど」


『あいにく物資には限度もあります。あまり大破されると困るのですが』


「ボディがない相手には分からないわよ、イーユー」


 戦乙女の町を抜け、再び大型四輪はあてどない逃避行を再開することとなって。駆ける大型四輪の中でリスティが一休みしていると、何事もなかったかのように普段通りのマキナが衣装棚から出てきていた。


 戦乙女たちがツギハギの修理をなされていたように、マキナも肉体はあくまで機械の部品でしかないらしく。機械巨人の整備や修理と同様に、イユが再びマキナの肉体を再構成したようだ。


 詳しいことはリスティには理解できない。それでも、とにかくお互いに無事だったことを喜びあったものの、マキナは珍しく笑みを苦笑いに留めていて。


「マキナさん、何か身体の調子が?」


「んー……ううん、それは大丈夫。ありがと。いやね……怖がらせちゃったでしょう? 生首から元通りなんて」


「いえ。少しビックリしたのは確かですけど……マキナさんは人間ですから!」


「へ、え?」


『おっしゃっていることが少し……いえ、まったく理解できないのですが』


 戦乙女の町で見たものから、リスティは一つの結論を見つけていた。かつて生身だったものの、機械に改造されて命令を待つのみの戦乙女たち。完全に生身であるにもかかわらず、少女たちを実験材料としか見ていなかった技術者たち。身体を一部だけとはいえ機械に改造したものの、多くは人間を守るために戦っている自警団たち。


 ……そして全て機械の身体であるにもかかわらず、人間を守ることを使命にしたマキナ。


 それらの違いは、人間の心を持っているかだ。誰かを守るためという人間の心を持っていれば、それが機械の身体であれ生身の身体であれ、リスティは人間だと思うことにした。


 厳正な定義など知ったことではない。マキナたちの人間じゃないという意見も聞かない。そんなまことに自分勝手な気持ちからの、マキナは人間だという答え。もちろん肝心の二人には理解されないのは当然で。


「あ、えーとですね、何があろうと、やっぱりわたしにとってマキナさんは優しい人間っていうか……ちょっと言語化が難しいんですが!」


「……ふふっ。あははは! ……もしかして笑いを取りにきてる?」


「違いますって!」


「んー。じゃあさ、一つ質問させてもらいたいんだけど、いいかな?」


「え? ええ、わたしに答えられることなら……」


「私が人間を守るのは、それしか知らないから。じゃあリスティは、なんで他人を守れるの? 今回の町の人たちなんて、あなたには何も関係ないのに」


 そんな自分なりの人間の定義を決めたリスティだったものの。説明が難しくてわたわたとよく分からないことを口走るリスティに、マキナは腹を抱えて笑いだして生活スペースをゴロゴロと転がりだして。


 ひとしきり笑った後にニコリと微笑みながら、寝転んだマキナがリスティに一つ質問を問いかける。


 人間を守る。それはリスティにとってもマキナにとっても同様の目的だが、マキナはそれ以外のことを知らないからだ。リスティが優しいと感じたことも、あくまで人間のふりをしているに過ぎない。何もないマキナと違って、リスティは何を思って無関係な他人までを守れるのか。


「人間が好きだからです。わたしは、好きで人間を守っています」


 ただその問いの答えは、リスティにとっては愚問だった。人間が好きだから、守れる余裕のある人間を自分の好きで守っている――そう、先程とはまったく違った確固たる様子で、当然のように答えをだした。


「……そっか! 私なんかより、ずっと凄いじゃない」


「いえ、口だけで……」


「んーん。私は力だけあっても、中身は空っぽだもの。その証拠に、あなたに今朝聞かれたことも、まだ答えがでない……」


「マキナさん……」


 そんなリスティの答えにマキナは、一瞬だけ何かを考え込むような動作を見せたものの、すぐに普段の微笑みへと戻ってしまう。


 ――何を目的に旅をしているんですか?


 そんなリスティの興味本意だった問いかけは、予想以上にマキナの心を抉ってしまったらしく。自分だってただ口だけだと苦笑するリスティに、マキナは座り直して手を差し出した。


 その差し出された手が握手だということに、リスティが気づくのは少し遅れてからだった。


「え?」


「何もない私だけど、あなたを見てるとうらやましいから。だから、これから私に色々教えてくれないかな?」


「……わたしが教えられることで、よければ」


「よろしくね、リスティ!」


「はい、マキナさん!」


「ふふふ~。どんな話を聞こうかしら?」


 握手とともに、リスティの手のひらにずっしりと重い力が込められる。最初はマキナの意図が分からず困惑していたリスティも、初めてマキナがしっかりと名前を呼んでくれたことに、知らず知らずのうちに顔をほころばせた。


 そんなリスティの心のうちを知ってか知らずか、マキナはリスティの話を聞こうと目を輝かせていて。


「マキナさん、やっとわたしの名前覚えてくれたんですね?」


「え? な、なに言ってるの。前から名前ぐらい呼んでたでしょ? それよりリスティのこと、ほら聞かせてよ!」


「わ、わたしのことなんて別に話すことも……弟や妹のことぐらいしか……」


「いいのいいの。……思えば、初めてリスティの話を聞くかも」


「確かに……そうですね、わたしが聞くばかりで。では、わたしが憧れていたのは、いわゆるヒーローという存在で――」


「いわゆるヒーローという存在で――」から


――その英雄、機械仕掛けにつき。などと書いたら完結する勢いでした

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ