報告書03 偽りの神
装備にバイク欲しいなぁと私の中の何かがずっと囁いている
「おお! マントちゃんホントに来てくれたのかよ!」
「……マントちゃん? あ、ええ、はい、まあ……」
『集落内に入ります』
集落の門前まで大型四輪を走らせると、見知った顔が車両に近づいてきているとイユから報告を受け、リスティが車両から顔を外に出して簡単な挨拶をすると。すっかりマントが記憶に残っていたのか、サングラス男がまさかのマントちゃん呼ばわりで走ってきていた。集落内に誘導してくれているようなので、そのままサングラス男に従う形でイユは大型四輪を走らせていく。
「《機械》にどうして襲われないのか聞いて、出来れば一晩休ませてもらう……で、いいですか? マキナさん」
「うんうん。夜は若いお二人で!」
「……マキナさん何歳なんですか。というか恋ばなに関してのその妙なテンションはなんですか」
イユとの連絡用の腕部アクセサリー、亡き友人の機械柄、それらと警備隊員服を隠すマントを羽織って外に出ていく準備を終わらせると、リスティはニヤニヤと笑うマキナに肩を叩かれて、思ったより恋ばな的な話が好きらしい恩人に少し引き気味になりつつ、大型四輪の外へと降り立った。
「いやあ、来てくれてありがとう! 言ってた通り、見事なもんだろ?」
「ええ、とても綺麗な……ですが、こんなに目立っていては《機械》に狙われてしまうのでは?」
大型四輪の外にはすぐサングラス男が待っていてくれて、感動に打ち震え握手して上下にブンブンと振るっていた。集落の中はやはり《機械》に怯えている様子はなく、祭りらしく出店などまで出ている様子だった。幾つもあるあばら屋の屋根には銀色に光る大小様々なプレートが置かれており、あれらがオーロラの発生源であるとともに機械のエネルギー源であるらしい。
「はは、この村には《機械》なんて来ないよ! ほら、あの中央にある祠の神様が、《機械》なんて寄せ付けないのさ!」
しかしサングラス男はリスティの警告に対し、まるで流行りのジョークを聞いたとばかりに笑い飛ばした。そうして男が指さした方向には確かに祠……というよりは、旧文明の頃から残っていたような、巨大な倉庫を騙し騙し修理して使っているようなものがあった。あの中にいる『神様』とやらが、《機械》を寄せ付けないらしいが、あいにくリスティはそれを信じることは出来なかった。彼女も無神論者という訳ではないが、神が全て解決してくれるというほど夢想家ではないからだ。
「あ、疑ってるな? ならここにいればいいよ、すぐ分かるからさ!」
「……わかりました。一晩、休ませてもらっていいですか?」
「えっ……マジ? いいよいいよ、一晩とは言わずずっと――」
「――コラ」
それでも本当に《機械》を寄せ付けない何かがあるのなら、リスティにとってもやぶさかではない。サングラス男の申し出を図らずとも受け入れることととなり、興奮しだした男の首を後ろから初老の男性が引っ張った。
「失礼。儂はこのバカの父で、今夜の門番の担当をしているオンドルマール。集落に滞在なら、受付と……武器を車にしまっていただけますかな」
「……わかりました」
オンドルマールと名乗った初老の男性はサングラス男の父親らしく――よく考えれば、まだ彼の名前すら聞いていない――集落に一時滞在する外部の者への対応をしているらしい。後ろから首を引っ張った息子を適当に転がしながらも、マントの下に隠してあるはずの機械柄を見抜いたらしく、どこかただ者ではない気配を醸し出していた。とはいえ考えてみれば、外部の者が武器を持ってうろつくなどあり得る話ではなく、大型四輪の中に置こうとするとイユにマジックハンドでキャッチされた。
「受付は私がやるよー」
「では、こちらへ」
「……後は頑張ってね!」
イユの心遣いにはありがたいが、機械そのものなマジックハンドが見えたら事なのではないかと、リスティが車内が他人に見えないように気揉みしている隙に、早々と話をまとめたマキナが受付とやらをするらしく、リスティの耳元で囁きながらそう呟いていく。
「何をがんばれっていうんですかぁ!」
出会って間もないリスティが言う話でもないが、相変わらず、マキナはよく分からない相手だった――そもそも、リスティはマキナのことを何一つ知ってはいないのだけれど。どんな存在なのか、今まで何をしていたのか、どうしてか聞くことがはばかられて。そんなことをリスティがふと考えていると、適当に転がされていたサングラス男が、口を呟きながら立ち上がった。
「ったくあの親父……あ、マントちゃんごめんごめーん! 祭りの案内するよ!」
「あー……はい、お願いします。妹さんはいらっしゃらないんですか?」
「ああ、妹なら今日の主役だからな! ……そういえば、自己紹介がまだだっけ。俺の名前はカイ、今日からよろしく!」
「リスティール。長いのでリスティでいいです……妹さんが主役とは?」
ようやくお互いに自己紹介を果たしたサングラス男――カイからのハイテンションなアプローチを、リスティは無意識にスルーしながら。故郷に弟妹たちを残しているからか、先に出会った時に妹がカイとセットの印象だったからか、どこにもいない少女のことが気になって。
「主役のことなら、お、ちょうどいい……ああいうことだよ」
カイの指差す先には、オーロラの間からそれらと同じ白銀の色の、身を覆い隠すほどのふわりとした服を着た一団と、リスティたちと同様に、夜をふかすついでに祭りの見物に来たような人々が祭りを練り歩いていた。その無作為に選ばれたような集団の中に、確かに彼の妹の姿も見受けられた。ただし快活な印象を受けた以前とは違い、衣装やその一団の雰囲気から厳かなものが感じられた。
「あれは……?」
「ああした衣装を着て、旅人さんと一緒に祭りを歩いてさ、最後には神様の祠に入って挨拶してくるんだよ。これからも無事で入れますようにって」
「あ! おねえちゃん!」
口ではぞんざいに扱っていようとも、確かに祭りの主役と言ってもおかしくないような役割を果たす妹が誇らしいのか、どこか嬉しそうに語るカイに姉として親近感を覚えていると、当の妹がリスティの姿を発見して、驚いてこちらに駆け寄ってきた。
「ほんとに来てくれたんだ!」
「コラ! 祭りの途中だろ!」
「だって……そうだ、おねえちゃんも一緒にかみさまにお願いしてこようよ!」
「えっ……いいの?」
駆け寄ってきた少女は、以前に出会った時とは少し雰囲気が異なって、どこか甘えん坊になっていた。少女からの突然の申し出にカイは怒りだすものの、リスティからすれば渡りに船といったところだった。これまで《機械》を寄せ付けなかったというあの祠、その内部にいる神様とやらに挨拶がしたいという気持ちはあったからだ。
「他の人もいるもん、いいよね、おにいちゃん?」
「それは……その、リスティさんが、いいなら……」
「わたしならいいですよ。こっちからお願いしたいくらいです」
「やったぁ! じゃあ行こう!」
カイが苦い顔をしながら認めるや否や、少女はリスティの手を引っ張ってすぐ祠に向かっていく。ターミナルではカイのことをこうして引っ張っていたが、それと頷けるほどの力が込められていた。少女の細腕のどこからこんな力が出てくるのか、鍛えているはずのリスティすらも、抵抗できずに引っ張られていた。
「い、妹ちゃん、力、強いね!」
「そんなことないよー」
そんなことはある――と思うと同時に、兄であるカイと同様に少女の名前を聞いていないことに気づいたが、どうやら聞いている暇はなさそうだ。他の旅行者と大多数の集落民は先に祠の中に行ってしまったようで、一部の集落民のみがリスティと少女を待っていたらしく、「早くしろ」といった様子の雰囲気を醸し出していたからだ。リスティがすっと頭を下げると、特に何も言われることもなく祠へと歩を進めていくと、祠の入口たる鉄の門が仰々しく開かれた。内部は真っ暗な状態であり、外はオーロラで光輝く状態であるにもかかわらず、不思議と内部を見ることは出来なかった。
しかしこの祠の中にあるかもしれないのだ。本当に《機械》を寄せ付けない何かならば、リスティはそれを知る必要がある。
「わたし、こんな格好で大丈夫かな?」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
「……イユさん。わたし、祠の中に行ってきますので。マキナさんに伝えておいてください」
小声でイユにそう伝えるのが限界で、リスティは少女たちとともに祠の中へ入っていく。そうして全員が中に入るとともに、鉄の門はまたしても仰々しく閉ざされた。とはいえ内部に入って扉まで閉ざされてはなおさら暗く、その神様とやらの姿はまったく拝めないでいた。
「……妹ちゃん、神様は――」
――その言葉を最後まで告げることはなく、リスティの頬にピチャリと液体が付着した。最初は水かとも思ったものの、その液体は妙に生暖かいもので、鉄臭い匂いがリスティの鼻孔をくすぐった。
「――ッ!」
顔面にかかった液体が血であることに気づくのと、《機械》の駆動音を暗闇の中に聞いたのは同時だった。服の中にしまっていた機械柄から、光の刃を抜き放つ――ことは、没収されていたために出来ず、そもそも出来たとしてもこの暗闇ではろくに動けもしない。《機械》の駆動音が近づいてくる前に、手首からイユとの連絡用アクセサリーを取ると、外観から塞がれていた窓らしき上部にぶん投げた。
「マキナさん! 《機械》です!」
古びていた窓をアクセサリーはどうにか打ち破り、塞がれていた一部分からオーロラと月光が祠の中を照らした。そこにいたのはリスティの予想通りに《機械》ではあったが、そのスケールは大きく想像を越えていた。
まず目を引くのは二対の巨大な腕部。それらは掘削のためか先端がスコップ状になっているが、あの質量でぶつかればどの道ぺしゃんこだろう。腕部の中央には頭脳部らしき顔と、そこを守るためのサブアームがやはり二対。それらを支えるキャタピラ脚部と、その《機械》に圧殺されたであろう先に入った人たちの残骸。
「危ない!」
《重機型》とでも呼べばいいのだろうか、とにかくその《機械》にあっけにとられていたのか、《重機型》の正面から逃げようともしない者を突き飛ばした。突き飛ばした勢いのままリスティも転がっていき、直前まで二人がいた場所に巨腕が叩き込まれ大地がへこむ。
「大丈夫ですか、すぐ外に――」
「――邪魔をするな!」
その一撃の威力に戦慄しながらも、とにかくリスティは人々を守ろうと、突き飛ばした者と立ち尽くした人々に激を飛ばす――ものの。今度はリスティが突き飛ばされる番だった。もちろん《重機型》の攻撃から庇われた、などというわけではなく、突き飛ばされたリスティに向けられた感情は怒りでしかなく。
「神にこの身を捧げるチャンスを! どうして邪魔するのだ!」
「え、神って、これ、機械……え?」
どうして怒りをぶつけられたのか理解することが出来ずに、リスティがしどろもどろに言い訳のような何かをしている間にも、突き飛ばした男を含めた一団は《重機型》へわざと向かっていく。まるで殺してほしいかのようなその動きと、神にこの身を捧げる――という男の言葉から、リスティはこの場で起きていることが何か悟ってしまう。
この集落はこの《重機型》を神として崇め、奴に殺されることこそが幸せだと信じているのだ。他の《機械》が来ない理由というのも、ただこの大型《機械》の縄張りとなっているからにすぎない。そしてリスティを含めた旅人たちは、足りない数の生け贄とされているのだと。
「っそうだ、妹ちゃん、妹ちゃんは……」
神とやらの真実とともに、入るまでは隣にいた少女のことに気づきその姿を探すものの、生き残った集団の中にはもちろん、この祠の中にその姿は見えなかった。ならばもしや、リスティの頬に跳ね返った温かい血液の正体は――
「あ……あああああ!」
――名前も知らない、会話を交わしたのも数えるほどすらない関係だったけれど。祠の中には神様がいると信じていたような少女の死に、リスティは叫んで近くにあった他の旅人が隠し持っていたのであろう、小ぶりの鉄パイプを握って《重機型》に駆けた。
集落の人々にその巨腕を振り下ろそうとしていた《重機型》は、向かってくるリスティの存在に気づいて振り向くものの、一直線に中心部まで駆け抜けたリスティの方が早い。巨腕が振れない中心部にたどり着くと、その核へと鉄パイプを振りかぶる。
「っ!」
ただしその一撃は、サブアームの正確な動作によって阻止された。そしてガッチリと固定された鉄パイプは、もはやリスティの筋力では使うことは出来ず、返す鉄パイプの一撃が腹部に直撃し中心部から軽々と弾き飛ばされた。みっともなく転がったリスティへ、狙い済ましたように巨腕の追撃が迫る。
瞬間、轟音とともに機械槍が巨腕を弾いた。外部からの攻撃とリスティが分かったのは、いつぞやの時と同じく自身の前に機械巨人が立ちはだかっていたからだ。イユへの連絡は届いていたようで、大型四輪の発射装置から射出されてきたのだろう。
「……マキナさん」
リスティの言葉に機械巨人は振り向いたものの何も言うことはなく、月明かりに照らされながら《重機型》と対峙する。巨腕を弾いて地に落ちていた機械槍を拾うと、ゆっくりと偽りの神に向けた。
「……《機械》だ!」
ただしその姿は、なまじ月光に照らされたために、リスティ以外の者の目にも触れて。《重機型》に怒りを抱き、マキナに助けられて安堵したリスティとは真逆に、突如として現れた機械巨人に恐れおののき、助けて欲しいとひざまずいていた。どちらも正反対の感情こそ抱いているものの、その感情を向けられた先はお互いにただの機械でしかなかった。
先手は機械巨人。機械槍を巨腕へと放つものの、腕の正面、削岩機の部分を貫通させることは出来ずに――先のリスティを助けるための一撃も、機械槍であるにもかかわらず、突き刺さったのではなく弾くのが精一杯だったのだ――そのまま前進した《重機型》の勢いに、機械巨人は馬力で押されてしまう。ならばと巨腕を機械槍で側面から弾き、中心部へと入り込もうとするものの、左の巨腕の一撃を受けて機械巨人は後退する。
「マキナさん!」
さらに追撃してくる《重機型》に対して、機械巨人は腕部から上空にワイヤーを射出する。ただしワイヤーは何を掴むでもなく空を切り、無駄な行動に終わった――かと思いきや、そのワイヤーを目印にしたように、新たな武器である片手斧が飛来する。恐らく外もこの異常事態に気づいており、集落の人々が大型四輪を取り囲んでイユの身動きが取れず、こうした合図を使って武器の飛来地点を決めているのだろう。
機械巨人が這っていた大地ではなく空からの攻撃に、《重機型》はやむなく攻撃に使っていた巨腕を防御へと転換した。飛来した二対の片手斧は、どちらも先の機械槍のようにダメージを与えられず弾かれてしまうが、片手斧が落ちていく前に機械巨人はそれを受けとるように跳んだ。
「斧……!?」
するとなんと、片手斧の切っ先を機械槍に合体させ、ガチャリという音とともに槍を両手斧として一瞬に変形させた。その姿は罪人の首を狩る処刑人のようで、空中にいる間を狙った《重機型》の巨腕を一回転することで避けると、その勢いのまま両手斧を巨腕に叩きつけた。
まったく意味のない仮定ではあるが、《重機型》がもし人間だったのならば、悲鳴を集落中に響かせていただろう。肩口から無理やり叩き落とされたような大破壊が巻き起こるとともに、叩き落とした巨腕を足場に中心部へと走り抜ける。もちろん《重機型》も阻止しようと残る巨腕を向けるが、そちらに投げた両手斧によって、ついでのように中ほどから両断された。
いや、両断されて落下した巨腕を合図に利用したのか、さらなる武器が外から飛来した。ちょうど素手となっていた機械巨人が駆け抜けつつキャッチしたソレは、一見すると槍のようであったものの、月光に照らされて露になったその武器は、槍より複雑な機構だと一目で分かるほど大型で。
中心部へと接近されたと分かった《重機型》がサブアームでの迎撃を図るが、槍のような武器はサブアームより遥かに長いリーチを誇っていた。妨害しようとするサブアームをくぐり抜け、《重機型》のコア部分へと槍の先端がたどり着いたかと思えば、突き刺すのではなく先端が分離しコア部分に吸着し固定される。
そうして機械巨人が槍を殴ると、その勢いのままに、固定される外側の槍部分をレールのようにして槍の内部から新たな細長い槍――というよりも杭が射出され、的確に《重機型》のコアのみを貫いた。
そうしてようやくリスティは、あの槍らしき武器が杭打ち機であることを理解するとともに、今の一撃が《重機型》を爆発させないための処置であることに気づいた。神様と呼ばれるにはあまりにも静かに、そしてあっけなく《重機型》は活動を停止した。
「終わった……?」
ピクリとも動かない《重機型》と、投げ捨てた武器を回収しようとする機械巨人の姿から、ようやくリスティはそう自覚することが出来た。やはり《機械》に襲われないようにするなどと、神がいようと出来ないのだと、守ることの出来なかった少女のことを思いながら拳を握ると、仰々しい音をたてながら祠の扉が開きだした。生き残った、もしくは神にその身を捧げられなかった者たちが、内部から扉を開けたようだ。
「何を……何をしてるんだ!」
「神が……」
「……見ての通りです」
外部からも何かが起きていることぐらいは分かったのだろう、集落の人々が扉の外に集結していた。全体が暗闇に覆われていた祠の全体が光に包まれ、大破した《重機型》に人々が次々に驚愕の面持ちを見せる。偽りだったとはいえ、自分たちの信じる神の化身が大破したところを見ているのだから、それも当然だろう。
「あなた方の信じる神は、ただの《機械》でした。今までの人々は、ただ《機械》に殺されていたんです!」
「……そんなこと、知ってるに決まってるだろう」
「……え?」
しかして真実を伝えたにもかかわらず、リスティが想像していた反応とは違っていた。むしろ人々は、ただリスティへと怒り、憎しみを込めた感情――共に祠の中に入った集落の人々を助けた時と、まったく同様の怨嗟がこもった感情だった。
「で、ですが、ここには《機械》がいて……」
「知ってるって言ってるだろ! どうしてくれるんだ!」
底抜けに人がいい、産まれ育った場所すら彼らとは違うリスティには、想像すらできていなかった。彼女が予想した、この集落が襲われないのは、大型機械がこの場に鎮座しているから、というまでは正しく、集落の人々もそれを知って利用している――などと。こうして責められて、初めてリスティはそこまで思い至ったのだ。
「それに《機械》だって言うなら、あんただって連れてるじゃないか!」
「それ、は……」
リスティを守るように祠へと突入した機械巨人。ここで「マキナさんは人間を守っているのだから普通の《機械》とは違う」などと言うことだけは簡単だったが、それは彼らにとって『神様』も同様の存在だったのだ。生け贄を与える神などと古典的にもすぎる言い分だろうと、集落の人々は神を支えに生きていたのだから。
「……これからどうやって生きていけば……」
「殺してやりたい……」
「あいつのせいでもうおしまいだ」
口々に聞こえてくる憎しみの呪詛に、リスティはただ言葉を失うしかなかった。何をどう言い繕おうと、リスティは彼らから生きる希望を奪ったのだ。
「……出ていってくれるよな」
「……はい」
そしてリスティが未だ襲われない理由は、隣に機械巨人たるマキナがいるからであろう。糾弾したばかりの集落の人々と、まったくもって変わらないやり方で身を守っているリスティ。彼女に出来ることは、集落にいる人すべての怨嗟を浴びながら、カイに従ってこの集落を逃げるように出ていくことだけだった。
「お疲れさま~」
大型四輪に乗って集落から走り去ったリスティたちだったものの、夜で方向も分からないために上手く進めず、それでも集落からは出来る限り離れないといけないために、夜の闇の中をゆっくりと駆けていた。そうして一仕事を終えたように、普段通りの格好に戻ったマキナが衣装棚から出てくると、リスティはどうしても苦笑いしてしまう。
「……マキナさんは、何も思わないんですか。彼らから生きる希望を奪って」
その台詞を口にした瞬間、リスティはどうしようもない自己嫌悪にさらされる。本当はこんなことを言いたいんじゃない、助けてくれた礼をしたいのに……普段通りすぎるマキナの態度を見ていると、そう聞かざるを得なかったのだ。
「すいま――」
「――うん、何とも思わないよ? だってみんな生きてるし!」
「……どういうことです?」
どういうことって聞かれてもなぁ――とマキナは少し考え込むような動作を挟んだ後に、当然のこととばかりに答えだした。
「アレを倒さないと、えと、あなたは死んでたけど、倒しても今すぐあの人たちが死ぬわけじゃないでしょ? 生きてればなんとかなるって!」
「そうだと……いいんですが……」
「……ほら、疲れてるんだから。早く寝ちゃいなさい」
『どうぞ、毛布です』
「……ありがとう……ございます……」
張りつめていた空気がマキナと会話することで途切れたのか、肉体的な疲労もあって急激な眠気をリスティが襲った。昨日も使わせてもらった毛布がイユから手渡され、リスティはその温もりに抗えずゆっくりと横たわる。
「でも……わたしはそういう考えはできません……」
あそこで止めに入らなければリスティは死ぬが、あの《機械》を壊そうが集落の人々が今すぐ死ぬわけではない――というマキナの言うことが正しいのは分かるが、もしリスティの弟妹という生きる希望が殺されたのならば、リスティも集落の人々と同じ反応をしたであろうと思うと。
「あと、リスティ、です……わたしの、なまえ……」
なんにせよ、今晩の夢見も悪いだろう。
あの~作者ですけど、ほのぼの旅まーだ時間がかかりそうですかね~?