報告書01 機械の巨人
美少女たちが旅する話とパワードスーツを書きたくて投稿しました。よろしくお願いします
子供の頃はヒーローを夢見てた。ヒーローならば、周りの者を全て守れると思ったから。ヒーローになれば、自分で解決できると思ったから。
長女に産まれたリスティールが、弟たちを守りたいなどと、子供ながらに思っていたことが原因なのだろう。まさかそのままヒーローになることはなかったが、国境警備隊の隊員になることへ迷いはなかった。過去に夢想していたようなヒーローではないけれど、誰かを守れる仕事になりたいと。
しかし初めて目にしたヒーローといえる存在は、鉄で出来た醜い《機械》だった。
「が、ぁ、うぁ……」
――ヒーロー、だなどと、もう口が裂けても言えないけれど。自らの原点を走馬灯のように感じながら、リスティールは意識を取り戻した。全身が今にも崩れてしまいそうな痛みに襲われつつ、めまいをはねのけながら、とにかく自分が今どうなっているかを把握する。冷たい、鉄の床に投げ出されているようだが、誰かが介抱してくれたのだろうか。なら、介抱してくれたのは誰だろうか。
「まだ生きてる?」
「どう、にか」
女の声。まだ少女らしいリスティールと違った大人びた女性の声が、ゆっくりと脳内に染み渡っていく。頭を抑えながらなんとか起き上がると、隣に声からしたイメージ通りの女性が立っていることに気づく。ただ絹のように白い肌が露出しているのは顔だけで、身体全体は黒くぴっちりとした服で覆われていたけれど。
「わたしは、リスティー、ル。こ、こは……?」
「話は後。逃げるよ!」
そうして辺りを見渡してみれば、廃墟と化した工場のようで。もう数十年、数百年と稼働していないであろう錆びた鉄屑と、荒れ果てた壁や穴の空いた天井――に、へばりついた四足の《機械》。それらと視線があった瞬間に、リスティールは今までのことを全て思い出す。
巡回警備中、人類の敵である《機械》――金属製の生命体の総称――に敗れ、この廃工場に連れられてきたのだと。
女性がリスティールの肩を組んで走り出すのと、天井にへばりついていた《機械》たちが床に落下してきたのは、まったくの同時だった。女性もその細身のどこから力が出ているのか、覚醒してきたリスティールの頭で問いたくなるほどの速度だったが、四足歩行タイプの機械――《蜘蛛》のように例えられるソレは彼女以上に速い。女性がいくら健脚であろうとも、リスティールという荷物を背負って逃げられる可能性はない。
「置いていって……ください。あなたまで……!」
「大丈夫大丈夫! それよりあなたも力いれてこ!」
死ぬのが、怖くないわけではないけれど。見ず知らずの者を道連れにするくらいなら、というリスティールの提案は、言い終わる前に断られた。まるで一緒に学校に遅刻するかのような軽い言い方からは、死への恐怖などといったものは、女性にまるで感じられずに。虚ろだったリスティールの視界いっぱいに、彼女のサムズアップが映し出される。
「……はい! ってちょっと、あのその、ええと……!」
「ああ、そういえば自己紹介してなかったわね」
元気づけられたというべきか、リスティールも走る足に力を込めたものの、眼前は行き止まりの袋小路。老朽化から薄くはなっているようだが、まさか女性二人の力で壁を破ることは出来るわけもなく。涙目になりながら女性の方を見たリスティールに、彼女は会ったときから変わらぬ柔和な微笑みを携えていて。
そんな微笑みに騙されて、彼女の名前を聞いていなかったな、などと。背後に迫る《蜘蛛型》という絶対的な死が近づいている状況にも関わらず、まったく場の空気にそぐわないことをリスティールまで考えてしまっていた。そんなリスティールの視線に気づいたのか、女性はキョロキョロと辺りを見渡した後、リスティールと向き合いながらそう口に出した。
「私の名前はマキナ。舌、噛まないようにね!」
「え? あ、はい、よろしぃ――!?」
生きるか死ぬかの瀬戸際だというのに、とにかくマイペースな自己紹介だった。もはや彼女が――マキナがそういう人間だということは、この短い間でも嫌というほど分からされたが。知らず知らずのうちにリスティールもそのペースに巻き込まれていたらしく、《蜘蛛型》のことなど忘れて自己紹介をしようとした瞬間、二人の身体は中空に浮かんでいた。
「よっと! ……よろしく」
「よろしく、って……?」
マキナが、腕部につけていた装置から発射したワイヤーを高所の残骸に絡みつけ、リスティールごとワイヤーを引き戻して高所へと跳躍したのだ。ただし追跡型とも称される《蜘蛛型》には時間稼ぎでしかなく、どんな悪路だろうと天井にすらへばりつく四足で突破し、目にした人間が生命活動を停止するまで逃がすことはない。
むしろ高所に逃げるのは人間たちが自ら退路を絶つことと同義だったが、構わず高所に避難したマキナは、彼女の腕に向かって話しだす。それは何かの合図だろうか、自分に話しかけられたかと勘違いしたリスティールが辺りを見渡している間に、その合図が何を指しているのかは、すぐに分かることとなった。
「はわっ!?」
工場の老朽化した壁をぶち破りながら、マキナたちや《蜘蛛型》とは比べ物にならない巨大な機械――リスティールも知識だけあった《大型四輪》が、無遠慮に《蜘蛛型》たちを轢き潰していった。……少々危ないところではあったものの、マキナとリスティールがいた場所を除いては。
「ひ、ひぃ……」
「大丈夫? 緊張が抜けちゃった? ……えっと、名前なんだっけ?」
始めて眼前に収める大型機械の姿は、リスティールの腰を抜けさせることなど容易かった。リスティールにとって《機械》とは、ただ人類の敵でしかなかったものなのだから。そんな心境など知ったことではないだろうが、まったく見当違いなことを問いかけながらマキナが手を伸ばしてきて。
「……リスティール。長いのでリスティ、でいいです」
そうして取った手は、じんわりと温かいのと同時に、どこか堅く感じられた。
「リスティね、よろしく~。すごい物音たてちゃったし、さっさと逃げましょ」
「は、はい……でもこの機械、あなたのですか?」
適当に挨拶しながら高所から降りると、マキナは迷いなく《大型四輪》へと向かっていく。ついでに押し潰した《蜘蛛型》の残骸を拾っていく余裕もあるらしく、大型の機械に足がすくんでしまうリスティール――リスティとは何から何まで対照的だ。
ただ、リスティがいた《内地》では、機械はただ人を殺す敵でしかない。故に、リスティのような警備隊が存在しているのだから――とはいえ、リスティを助けてくれたのは、マキナの指示を受けたあの大型機械であり、アレに乗ればここから逃げ出すことも可能だろう。それでも二の足を踏んでしまうリスティに、マキナは安心させるように笑いかけてくる。
「ああうん、私の乗り物。こっちではたまに使う人もいるけど、《内地》じゃ珍しいんだっけ?」
「《機械》は……敵です」
「そんな難しく考えないで。私のだからさ」
「機械じゃなくて私を信じて。なんて情熱的なこと言っても、私も初対面だけどね」
「いえ……それなら、信じられます」
「ふふ。情熱的な告白に応える少女……私に惚れちゃわない?」
機械ではなくそれを操るマキナを信じる。たかが心構えの問題だが、どうにかリスティにも決心がついた。どうせマキナがいなければ死んでいた命で、ここに残っても行く宛もないと、マキナを信じることにする。何を言っているかはよく分からないけれど。
大型四輪が突き破った壁から見える建物の外は、どこまでも旧文明の遺産である廃墟ビルとコンクリートブロックの地平線が広がっていた。この世界では当たり前の光景に、リスティは知らず知らずのうちにホッとしてしまう。
「……というか、《内地》との警備隊がどうしてこんなところに?」
「ええ、巡回中に不覚をとって、気づけばここに……っそうだ! 他の隊員はいませんでしたか!?」
少し不満げに口を尖らせながらも、マキナは大型四輪の背面にある扉を開きつつ――そこが生活スペースになっているようだ――リスティの警備隊制服について問うてくる。マキナの口振りからするに、この廃工場はリスティがいた《内地》からは随分と離れているようで。どうしてそんな手間がかかることを、とまで考えたところに、リスティはようやく仲間のことを思い出す。
「ああもう、どうして気づかなかったんだろ……仲間ももしかしたら、ここまで連れてこられて……!」
「いえ……あなたを初めて見つけたわ。他にもいるの?」
「それは……その」
「ごめんなさい。分からないわよね」
リスティと同じ警備小隊の隊員たち。ともに巡回任務に就いてはいたが、どうなったかは知るよしもない……リスティが最初に捕らえられたためだ。よしんば仲間たちも同様に捕らえられたとしても、この工場に連れられてきた保証もない。ただしもしも……万が一、この場で助けを求めているならばと思えば、リスティは一人で逃げられる人間ではなかった。
そのままリスティールは自らの身体のことも確認する。色気のかけらもない警備隊員服が覆う肌には目立った怪我はなく、ひとまず自分自身には心配はなさそうだった。ただ、警備隊員としての標準装備である、光の刃を発生させる機械柄だけは見当たらず、愛刀なく丸腰の状態だったが。それでもと、リスティが工場に戻ろうとすると。
「……ありがとうございました、マキナさん。わたしは、仲間を探しに――」
――結果から言えば、リスティは仲間を探しに行くことはなかった。その言葉を口に出しきるまでに、ドアを開く音ともに、数名の闖入者がその空間に乱入してきたからだ。
「リス……ティ」
「レナード! ……みんなも!」
リスティが所属する警備隊の小隊長、巨漢のレナードとともに、同じく小隊の仲間たち。自分を除いた全員がそこにおり、多少ながら負傷はしているものの、五体満足でそこに立っていた。たまらずリスティはそちらに駆け寄ると、特にひどい怪我をしていた同性の友人、ナールを支えていく。
「リ、ス、ティ」
「ナール、大丈夫!?」
「リスティ、リスティ」
そうして近づいたからこそ分かる。分かってしまう。腹部から血が出ていたと思っていた友人は、実際には血が出ているどころか穴が開いていた。内臓からポタポタと垂れる血と、向こう側の景色が見えるほどの穴は、一目で致命傷だと分かるほどだった。
「リスティ、リスティ、リスティ、リスティ」
焦点の合わない瞳に、壊れた人形のように延々と名前を呼び続ける友人の姿に、リスティは一つの記憶が電撃的に蘇ってきていた。人間の脳に巣くい、たとえ死体だろうと操る《寄生型》の機械のことが。つまり、目の前にいるのはもはや仲間だった時の彼女ではなく――
「死ネ」
――そうまで理解が及んだ頃にはもう遅く。肩を組んでいたリスティを信じられない力で突き飛ばし、腰に携えていた柄を乱暴に引き抜くと、そこから生成された光の刃が倒れたリスティに上段からの追撃を放った。避けられない一撃に死を覚悟したリスティだったが、次の瞬間に視界に映ったのは、黒くて女性的な背中だった。
「マキナさん!」
マキナが間に入ってくれたのだ――とリスティは理解した瞬間に、起き上がりながら彼女の手を引っ張った。それが功を奏しナールだったものの追撃を避け、そのまま待機していた大型四輪へと飛び込んでいく。
「出して!」
背面の大きな扉から飛び乗るとともに、マキナの声に反応して大型四輪が動き出していく。先ほど突き破った壁から脱出すると、走るより遥かに速い速度で走行し始めるが、リスティにそれを驚いている暇はなかった。
「マキナさん! マキナさん! 大丈夫ですか!」
工場周辺は過去の遺産か舗装されており、ただし過去の遺産がゆえにあちこちがひび割れ、とても走るのに向いた大地ではなく、すぐさまここを離れられるほどのスピードは大型四輪にない。脳に巣くう《機械》に操られているのか、人間を越える力を無理やりに発揮させられ、身体が自壊しながら追いすがってくる仲間たち。
そんな文字通り生ける屍となった仲間たちを、リスティは苦々しげに横目にしつつ、庇ってくれたマキナの状態を確かめると。
「あ、うんうん大丈夫。リスティこそ、助けてくれてありがとね」
「なんでっ……なんでそんなになってまで助けてくれたんですか! なんでそんなになって平気なんですか! なんで……なんで……」
ナールだったものの光刃は顔面を切り裂いたのか、マキナは顔半分を抑えながらも、残る半分の顔で分かるほどに笑っていた。もはやマイペースなどといったものではなく、狂気的とも言っていい態度を見せつけられて。そんな彼女のことが理解できずに、リスティは自らのふがいなさもあって感情を爆発させてしまうが、マキナはやはり不思議そうに首をかしげた。
「なんでって……人を助けるって当然のことじゃない?」
「っつ……」
「……もういいです。はやく手当てしないと」
「うーん、それは後でかな。あの三人を何とかしないと」
――短い付き合いなどと言うのもおこがましい程の僅かだったが。それだけの付き合いとその言葉に、リスティは目の前にいるナニカを二度と理解できないモノだと確信した。
それでも恩人は恩人だと、リスティが手当てしようとする手も振り切って、マキナは傷ついた顔半分が見えないように立ち上がる。あの三人、とは十中八九リスティの仲間たちのことであり、もしや仲間たちのことを《機械》から救えるのかと。リスティが希望とともに顔をあげると。
「はやく殺さなきゃね。他の人間に迷惑がかかる前に」
「あ、え、いや……その、殺す、って、どうやって……」
まさか、そんなことはありえない、とばかりに、残酷な現実がマキナの言葉となってのしかかった。それに今さら《機械》から救う手段があったとしても、もはや仲間たちは人間としては死んでいた。アレはもうただの機械なのだとリスティは自分に言い聞かせると、逃げるしかなかった今までのことを考えて、マキナに手段を問えば。
「まさか、またこの四輪で轢くんですか?」
「それじゃ当たらないかな。まあ、リスティは休んでてよ」
「いえ、わたしにもなにかッ――!?」
仲間たちの鎮魂のための戦い。それをただ黙って見ていられる筈もなく、何か手伝わせてくれとマキナの正面に立ったリスティは、その先の言葉を紡ぐことは出来なかった。尻餅をついて出来るだけマキナから離れながら、震えた指で切り裂かれたはずの顔面を指差すと。
「マキナ、さん、そ、それは」
「ああごめんなさい、驚かせちゃって」
マキナの顔面は確かに切り裂かれていた。顔の右半分はもう肌色はなく、機械的な灰色が占めていたのだから。そう、ただ人形の機械に人間の皮を貼りつけたような、機械仕掛けの骸骨のような、目の前にいた女性はそんな生き物だったのだ。ニッコリと女性的に笑う左半分と、まるで動かない機械そのままな右半分に、リスティは生理的な嫌悪感を感じざるを得なかった。
そんなことは気にもしていないように、マキナは生活スペースの中に埋もれていた衣装棚を開けると、中にあったものは女性らしいお洒落なものではなく。
大型機械の両手足と、見るからに堅牢な装甲だった。ただし機械の部品が打ち捨てられているのみで、肝心な本体はどこにも見当たらず――とまで思ったところで、リスティは直感してしまう。
目の前にいる命の恩人が、あの打ち捨てられた部品の中枢なのだと。
「よろしく」
彼女の言葉とともに衣装棚の内部から飛来したマジックハンドが、彼女の両手足を拘束するとともに、それら四肢を服ごと引きちぎった。そう表現したのはリスティが人間だからであり、恐らくマキナからすれば両手足というパーツを入れ換えたに過ぎないのだろうと、リスティの予想は正しかった。
すぐさま衣装棚に置いてあった大型機械の両手足がマキナに『装着』され、華奢な彼女の身体からすれば明らかに不釣り合いなものとなった。
ただし装備は両手足だけではなく、辛うじて今までのマキナと同じモノだと判断できていた部分も、大型機械に似つかわしい装甲が装備されていく。最後にマキナが自らの手で仮面を装着すると、それが自動で頭全体を覆いつくし、マキナという女性は消え去った。
もうそこに立っていたのは、人間を一回り大きくしたような、全身を甲冑に包んだ騎士――などというかっこいいものではない。
例えるならば、機械の巨人。
「マキナ……さん?」
震えながら彼女の名前を呼んだリスティに、目の前の機械巨人は何も言ってくれることはなかった。ただ大丈夫だとでも言わんばかりに、まだマキナだった時と同じサムズアップをしてみせて、機械巨人は大型四輪の開かれたままの扉から勢いよく飛び降りた。追いすがってきていた隊員たちの進路を阻むように着地しつつ、同時に大型四輪から発射されていたらしい機械仕掛けの槍を掴む。
表現だけを聞けば、かつてリスティが憧れていたヒーローそのもののようだったものの。身体からオイルを溢れさせた、機械が剥き出しの部分もある鉄塊の姿は、どうしようもなく醜かった。
「っ!」
戦いの合図というよりは偶然だろうが、大型四輪が急停車するとともに、機械巨人と隊員たちの屍の戦いが始まった。隊員たちの屍が眼前の機械巨人が敵か否かを判断していたその刹那、機械巨人が敵の心臓をその機械槍で貫いた。
ただしその一撃はなんら屍に意味をなさず、ただお前たちの敵だと示す宣戦布告にしかすぎなかった。何故なら屍にとって活動していたかも分からぬ心臓など意味はなく、槍が突き刺さろうと構わず突進して来る屍に、むしろ機械槍が実質的に使用不能となってしまうのみだ。
槍に突き刺さりながらも突進してきた屍が持つ光刃が機械巨人に振り下ろされる寸前、機械巨人は槍自体を中空に放り投げた。機械槍の中腹まで突き刺さっていた屍も同様であり、行き場を失った屍の光刃が空中で振られていた。
「囲まれてます! ……えっ?」
一体を半ば無効化したものの、その時間は武器を失った機械巨人を隊員たちの屍が取り囲む時間に使われていた。その陣形は生前の隊員たちが使っていたものであり、三方向からの同時攻撃に、見覚えのあるリスティはたまらず警告の声を発する。それと同時に、自らの頬を掠めて飛来していく物体への疑問をも。
「あっ……」
先の機械槍と同様に、大型四輪から射出された機械仕掛けの鉄槌が、背後から屍の頭を潰す。四肢がもげようと動いていた屍は、寄生していた《機械》がいた頭が潰されたが故にその機能が停止する。そうして機械巨人は素早く鉄槌を手に取ると、その勢いのまま振りかぶり、近づいてきていた屍の頭をさらにもう一体潰してみせた。
残る隊員の屍は二体――いや、今しがた機械槍とともに落下してきた屍の頭を作業的に踏みつけたため、残るは一体のみとなった。
《機械》といえども恐怖の感情はあるのか、それともただ自らでは眼前の巨人に勝てないという試算を弾き出したのか、同時攻撃が失敗した時点で残る屍は逃走していた。廃工場へと逃げようと必死なその後ろ姿は、機械巨人よりよっぽど人間らしい姿だったものの。機械巨人から投げられた、屍から引き抜いた機械槍が胴体とともに地面まで貫通し、地面に縫いつけられたように動かなくなってしまう。
いくら屍といえども動かなければどうしようもなく。バタバタとみっともなく抵抗し、貫かれた機械槍を引き抜こうとするものの、それは叶わぬ願いだった。
「……ふうっ!」
地面に縫いつけた最後の屍を鉄槌で潰し、残るは一仕事終えたとばかりに、頭装備を脱いで一息つくマキナの姿だけだった。
頭を潰したかつて隊員だった屍をひょいとつまみ上げて、大型四輪へと戻ってくるその姿は、リスティに圧倒的な恐怖感を与えさせる。それでも震える足を無理やり動かして、リスティは大型四輪から降りて機械巨人の前に立った。
「リスティ、だったよね? どうしたの?」
「わ、わたしの命を助けてくれただけでなく……仲間の仇を、取ってくれて……ありがとうございました!」
「え……」
恐怖を隠しながら礼をするリスティに、マキナが初めて呆気にとられた表情を見せた。生まれてこの方そんなことを言われた試しがなかった、かのような。思いもよらないことを言われてポカンとした、という表現がまったくもって正しいだろう。
「困っちゃうなぁ……それより、埋めるの手伝ってくれない?」
「あ、はい!」
確かに眼前にいるのは今までリスティが戦ってきた《機械》でしかなかったが、同時に命の恩人である《マキナさん》でもあった。恐ろしく慈悲のない機械巨人ではあるが、その仮面の下は仲間を弔って埋めようとしてくれているマキナさんなのだと。彼女は自分たちが戦ってきた、物言わぬ殺戮機械とは違うのだと、リスティは半ば言い聞かせるようにしながら、死んでいった仲間たちに手を合わせた。
「これからどうするの?」
「場所もわかりませんが……わたしは国に戻らないといけません」
「ならさ――」
自分自身はこのざまで仲間たちも死んでしまっているけれど、リスティはまだ国を守るための警備隊員だ。国に残してきた弟や妹たちのためにも、必ずや国に帰らなくてはならない。とはいえ具体的にどうしたものかと問われると、リスティには何の策もなかったが。そんなリスティを見かねてか、理由は分からないが――マキナは少女隊員に手を差しのべた。
「私が送ってあげようか?」
書いてるうちにパワードスーツってよりサイボーグみたいになりましたが。基本的には初期平成ライ○ーやキ○の旅をリスペクトしていきたい感じです。