『外科医の先生も大変なのです・・・ えっ? 例えばですか?』
中々、その判断というのが難しい事なのですけども
体調に異常がある場合は、速やかに病院に行き
診て貰うのが良い。
と言うのは、誰しも分かっているのでしょうが・・・(汗)
ふにぃ・・・(難)
私は、こう見えて外科医なのですけど・・・
やっぱり、重要な事を伝える時は
幾度の経験を経たとしても緊張するものです(汗)
「それでは、精密検査の結果ですが」
「はい・・・」
「脳に腫瘍が見つかりました」
「脳にですかっ!?」
「はい」
「よ、余命は・・・ 僕の余命はどのくらいですか!?」
この患者さんは、朝は何とも無かったらしいのですが
お昼近くになってから酷い頭痛がした為
自力で来院されたそうですがその判断は正しかったです。
「今は、頭痛も落ち着きましたか?」
「はい・・・」
「では、今回見つかった腫瘍ですが」
「僕は・・・ 後どのくらい生きられるのでしょうか・・・(泣)」
「それはですね・・・」
「・・・もしかして1時間くらいですか!?」
1時間っ!?
もし、そこまでの緊急を要する事態なら
診察室で会話なんてしておりません。
患者さんも、かなり動揺しているのでしょうか・・・
「では、落ち着いて聞いて下さい」
「はい・・・」
「余命に関しては1時間とかではありません」
「それって・・・ 数日と言う事ですかっ!?」
えっと・・・
一応、落ち着いて話を聞くように言いましたが
やっぱり、かなり動揺しているのでしょうか・・・
「あの、落ち着いて聞いて下さいね?」
「はい・・・」
「余命に関しては短くはありません」
「短くない・・・ 数年程度と言う事ですか!?」
えっと・・・
私の言い方が悪かったのでしょう。
動揺していると判っている患者に対しては
もっと具体的な事を伝えた方が良いようです。
「安心して聞いて下さいね?」
「はい・・・」
「余命に関しては、あまり深く考える必要はありません」
「それって・・・ もう、手の施しようが無いと言う事ですか!?」
えっと・・・(汗)
この患者さん・・・
動揺しすぎなのでしょうか?
それとも、元々の性格なのでしょうか???
「大丈夫ですから、落ち着いて下さい・・・(汗)」
「はい・・・」
「えっとですね・・・ 順番にお伝えしますね」
「は、はい・・・」
殆どの脳腫瘍で見られる初期症状が頭痛なのですが
この患者の場合、市販の頭痛薬や鎮痛剤で我慢せず
すぐに病院へ来た為、痛みのある時に検査出来た事が
早期発見に繋がったのですけども。
「確かに、いつもと違う酷い頭痛で来院して」
「はい・・・」
「精密検査をしたら急に腫瘍と診断されて」
「はい・・・(泣)」
「かなり動揺されていると想いますがお気を確かに」
「わ、分かりました・・・(涙)」
考えてみれば、朝まで何とも無かったのに
午後になって酷い頭痛がして病院に来てみたら
脳に腫瘍があると告げられたら誰だって・・・
「それではですね・・・(汗)」
「は、はい・・・」
「余命については、今は心配いりません」
「はい・・・」
「では最初に、ご家族の方へご連絡をして頂きます」
「えっ・・・(驚) もう・・・ 僕は・・・(真っ白)」
あ、あれ???
もしかして・・・
この患者さん、ちょっと勘違いしている???
「あ、あのっ! お気を確かに!」
「は、はぁ・・・(涙)」
「ご家族への連絡は今後の方針についての相談です!」
「はい?」
「なので、落ち着いて下さいね?」
「は、はい・・・」
先程よりは冷静に話を聞いてくれる状態に戻ったようです。
まぁ、こう言う時であれば仕方ありませんけどね。
「始めに、現状の簡単なご説明を致します」
「はい・・・」
「脳腫瘍の悪性度はグレードⅠ~Ⅳまでの段階あるのですが」
「はい・・・」
「今回のグレードはⅠになります」
「それって・・・ 一番悪い状態っ!?」
えっと・・・
確かに一番悪いからⅠとも考えられますが
地震でも1より4の方が酷い様に
このグレードも数が大きい方が悪いのですけども・・・
「いいえ、グレードはⅣが一番悪いです」
「そ、そうなんですか・・・」
「今日の検査で早期発見出来たのが幸いでした」
「はい」
「では、説明の続きをしますね」
「お、お願いします・・・(汗)」
出来れば、説明はご家族と一緒の時に説明した方が良いのですけど
この患者さんの場合・・・
最初に簡単な説明をしておいた方が
今後、家族との話し合いの時も円滑になると想うので。
「まず、もしこのまま放置した場合ですが」
「はい・・・」
「ろれつが回らなくなったりします」
「あ、あのっ!」
この患者さん・・・
何か心当たりでもあるのでしょうか?
急に、症状について過敏になりましたけど。
「どうかしましたか?」
「僕・・・ よく噛むんですけど・・・」
「それは、喋る時の事ですか?」
「はい・・・ カミカミなんです・・・」
この患者さん・・・
どうやら、ろれつが回らなくなるのと
普段から喋るのがカミカミである事の区別が
ついていないっぽいです。
「えっとですね・・・ カミカミは腫瘍とは別です」
「そうなんですか?」
「はい、なので・・・ 声トレをお勧め致します」
「わ、分かりました」
声トレ。
ボイストレーニングですけども、1日数十秒のものから
セミナーやレッスンを受けるのまで色々とあるようですし
まずは出来るトレーニングから初めて見ると良いのかもです。
「他の症状では、よく聞く事があると想いますが」
「はい・・・」
「手先がしびれたりします」
「あ、あのっ!」
先程もでしたが、この患者さん・・・
手先のしびれにも何か心当たりでもあるのでしょうか?
「どうかしましたか?」
「僕・・・ あまり手先が器用ではないのですが・・・」
「それは、細かい作業的な事がですか?」
「はい・・・ プルプルなんですが・・・」
この患者さん・・・
どうやら、手先のしびれと
細かい作業が苦手である事の区別が
ついていないっぽいです。
「えっとですね・・・ プルプルは腫瘍とは別です」
「そうなんですか?」
「はい、なので・・・ 深呼吸をしてリラックスして下さい」
「わ、分かりました」
手先の器用さ・・・
生まれつきと言ってしまえばそれまでですが
気分を落ち着かせる為、深呼吸をしてリラックスすると
案外、安定したりするものです。
それに一時的な場面であれば息を止めるとブレや揺れを
極力抑える事もできますが。
「あと、他の症状ですが」
「はい・・・」
「記憶障害が起こる事もあります」
「あ、あのっ!」
先程もでしたが、この患者さん・・・
今度は記憶障害にも何か心当たりでもあるのでしょうか?
「どうかしましたか?」
「僕・・・ あまり記憶力がよくないのですが・・・」
「それは、忘れっぽいと言う事ですか?」
「はい・・・ 桁数の多い数字やコードとかが・・・」
この患者さん・・・
どうやら、記憶障害と暗記が苦手である事の
区別がついていないっぽいです。
「えっとですね・・・ 元々の記憶力と腫瘍は別です」
「そうなんですか?」
「はい、なので・・・ 脳トレとかしてみて下さい」
「わ、分かりました」
脳トレ・・・
確かに、一瞬で円周率を数十桁も覚えられる人も居ますが
それはそれとして、色々な種類の脳トレもありますし
ゲームのような楽しめるものから、ピンポイントで
鍛えたい脳トレメニューとかもあるようなので
それらを実践してみるのも良いかもですね。
「その他の症状ですと」
「はい・・・」
「朝方に激しく嘔吐する事もあります」
「あ、あのっ!」
この患者さん・・・
朝方の嘔吐にも何か心当たりでもあるのでしょうか?
「どうかしましたか?」
「僕・・・ 偶にですけど朝方に吐く事が・・・」
「そうなんですか? 血とかは混じっていたりしますか?」
「いいえ、そういうのはありません・・・」
「その症状はどんな時に起こったか覚えていますか?」
「飲み会が有った次の日の朝とかです・・・」
この患者さん・・・
病的な嘔吐と、酒飲み酔っ払い飲み過ぎでの嘔吐との
区別がついていないっぽいです。
「えっとですね・・・ その嘔吐は腫瘍とは別です」
「そうなんですか?」
「はい、なので・・・ 吐くまで飲まない様にして下さい」
「わ、分かりました」
飲み過ぎて朝方に吐くって・・・
これ、お酒を飲みに行って飲まれてくるタイプ!?
駄目なタイプっ!!!
それも寝ている時に吐いたりしたら窒息死とか
もの凄く危険なのですけどっ!(泣)
「他には、精神運動発作とかもあります」
「はい・・・」
「何処か一点を凝視した状態で反応が消失したりです」
「あ、あのっ!」
この患者さん・・・
精神運動発作にも何か心当たりでもあるのでしょうか?
「どうかしましたか?」
「僕・・・ 窓から外を眺めたままで居る事があるのですが」
「それは、仕事中と言う事ですか?」
「はい・・・」
この患者さん・・・
どうやら、精神運動発作と黄昏?
の区別がついていないっぽいです。
「えっとですね・・・ 黄昏と腫瘍は別です」
「そうなんですか?」
「はい、なので・・・ 適度な息抜きを」
「わ、分かりました」
黄昏・・・
と言うか、ただ単に社会生活に疲れているだけなのでは!?
って・・・ 私も人の事言えませんけどね・・・(泣)
「ただ、今回は早期発見が出来ました」
「はい・・・」
「それに、腫瘍の場所も複雑な部分ではありませんでした」
「はい」
「今の所、緊急手術の必要性は低いですが」
「はい・・・」
「万一、急変する可能性もゼロではありませんので」
「はい」
「何か体調に異常があれば直ぐに救急車を呼んで下さい」
「わ、分かりました」
あとは今後の方針として、腫瘍細胞のサンプルを採り
病理組織診断を元に最終的な確定診断をして治療方針を
決めなくてはなりません。
「それでは来週、検査入院や今後の詳しいご説明を致しますので」
「あ、あの・・・」
「はい? どうかしましたか?」
「僕の・・・ 僕の生き方が不器用なのって・・・」
「えっと・・・ それも腫瘍とは全く関係ありませんねっ♪」
「そ、そうなんですか・・・」
「はい、微塵の因果関係もありませんっ♪」
「わ、分かりました・・・(汗)」
ホント・・・
勿論、患者さんも大変なのですが
こう見えて外科医の先生だって
それなりに色々とあるのですよ?
あぁ・・・
私もCTとかMRIとか撮ってみようかな?
レントゲン技師の先生居ませんか?
「ぱたりっ!」
最後まで読んで頂き
ありがとうございました♪
この患者さん♪
無事、心配の種は全て取り除かれ
今は退院して、元の生活に戻っております♪
やっぱり、何事も早期発見って大事ですね。
それと・・・
あ、あのっ!!
一応、こう見えて私は
やっぱり外科医の先生ではありませんので・・・
(ふえ? 知ってます???)
もし、重大な誤りがありましたら
お手数ですが御指摘頂けると
すごく助かります・・・(泣)
何卒、宜しくお願い致します(汗)