第六話【さらっと人のことを気持ち悪いとか言ったらダメ!】
■第五話のおさらい。
「人に向かって石を投げたら危険!」
―翌日 異世界探検部 部室館 円卓の間
部屋の中心に置かれた巨大な丸いテーブルに向かって、松本監督と井出副監督(副顧問)、そして12名の部員たちが座っていた。
「えー、まず初めに遠征に言っていた8人はご苦労様。まだ疲れも残っている人もいるだろうけど、皆に伝えたい事があった故に集まってもらいました。」
「ハーイ♪」
「ベッキーどうした?」
「伝えたい事って松本先生が御堂ちゃんにセクハラした件についてですかー♪」
「え?セクハラって…。」
部員の女子メンバーは全員身を引きながら冷ややかな目で松本監督を見ていた。
「セクハラなんてしてないよ!あれは御堂くんが私を陥れようと!!」
「哀…」
「先生はそんな人じゃないって信じてたのに!!」
「もういい加減にしてくれ!昨日もいらぬ誤解で学園長に呼び出されたんだから!」
「そうだ。ミスター松本は我々が着ていた服を脱がせ、新しい装備着させてくれただけだ。」
「我々って金剛寺先輩まで…松本先生あなたって人は女子だけにとどまらず男子までも…。」
女子メンバーだけでなく、今度は男子メンバーも身を引き気味にしながら冷ややかな目で松本監督を見ていた。ただ一人、昨日更衣室に入ってきた浅黒い肌の大柄の男だけは目をキラキラさせながら松本監督の事を見ていた。
松本監督の横に座っていた井出副監督が立ち上がり、手を≪パンパン!≫と鳴らした。
「はいはい!松本先生をからかうのはそのぐらいにして、本日の本題に入ります。」
松本監督は≪シュン≫としながら座っていた。
「2年ぶりに我が異世界探検部に新入部員が入りました。星野君、自己紹介してくれるかな。」
俺は立ち上がり、深く息を吸い込んだ。
「新垣実業から編入してきた二年生の星野タクマです!特技は野球選手のモノマネと、歴代の野球選手のプロフィールを暗記する事です。新垣実業では野球部に所属しておりました。将来の夢はもちろんプロ野球選手です。この異世界探検部で様々な技能を習得し、将来プロ野球選手になれるように頑張ります!」
「はい、ありがとう。」
「えっとプロ野球選手になるのが夢なのに異世界探検部に入ったの?それだったら普通野球部じゃない?」
「はい!以前通っていた新垣実業では野球部に所属していました。しかし、先輩方の熱い闘志に場外でも火が点いてしまい、新垣実業は全国高等学校野球選手権大会に三年間の出場停止を受けまして、甲子園に出ないかと松本監督に言われ、この勇野学園に編入しました。しかし、実際に入部させられたのはこの異世界探検部でした。あ、決して異世界探検部を侮辱している訳ではありません。俺の将来の夢はプロ野球選手になることですし、古田選手のように社会人からプロ野球選手になった人もいますし、異世界探検部で経験を積みたいと考えています。」
「松本先生騙して入部させたってひどくない!」
「え…それはその…。」
「いえ、最初は騙され―と感じましたが、今は逆に松本監督には感謝してるんです。今まで野球一筋の人生でしたし、こうして野球から少し距離を置くことで、改めて野球のすばらしさを実感する事もできました。それに、何をしていようともやはり野球に集約していくのだという事も分かりました。だから本当に感謝してるんです。」
「すごく良い子。痛いぐらいに良い子…。そんな良い子を松本先生は…。」
「仕方ないじゃないかー!俺だって預言で星野君を連れてこいって言われてたんだもん!」
「あ、人のせいにしてる。」
「サイテー!このセクハラ教師!」
「セクハラは違うだろ!」
またまた松本監督は≪シュン≫としていた。今後は部屋の隅で体育座りしながら。
松本監督の座っていた席の隣の席の好青年が立ち上がった。昨日林田くんとの模擬戦の時に見かけた人だ。
「改めて自己紹介する。異世界探検部部長兼、チームフェニックスリーダーの白鳥ソラ、三年生だ。昨日の林田との戦いは見事な物だったよ。林田も相当な手練れだというのにね。」
白鳥先輩は他の部員の事を次々に紹介してくれた。紹介内容は以下の通りだ。
▼チームフェニックス所属
・姫川アンナ 高等部三年
【クラス=ソーサラー(魔術師)】
個人的な印象「セクシーお姉さん系」
・海原セカイ 高等部一年
【クラス=ヒーラー(回復系魔術師)】
個人的な印象「前髪で顔半分が隠れた暗い感じの青年」
・立花ミノル 中等部二年
【クラス=ウォーリアー(戦士)】
個人的な印象「目がキラキラしてて、純粋そうな落ち着きのない少年」
▼チームベヒーモス所属
・玉木ヴィクトリア 高等部二年
【クラス=アーチャー(弓使い)】
個人的な印象「常にスマイル全開の明るい少女」
・高柳ハルカ 中等部三年
【クラス=ヒーラー(回復系魔術師)、テイマー(魔物使い)】
個人的な印象「左目と右目で瞳の色が違うオッドアイで、物静かで恥ずかしがり屋な少女」
・林田シュン 高等部二年
【クラス=アサシン(暗殺者)】
個人的な印象「いちいち発言が鼻に付く嫌な奴」
・ジョー黒岩 高等部一年
【クラス=ランサー(槍使い)】
個人的な印象「更衣室で着替えている時に何度も目があった浅黒マッチョ」
▼チームタイタン所属
・金剛寺テツオ 高等部三年
【クラス=モンク(破戒僧)】
個人的な印象「常にタンクトップで汗だくなマッチョ」
・荒井 流星 高等部一年
【クラス=ファイター(格闘家)】
個人的な印象「見た目の割に馴れ馴れしい金髪ツンツンヘアー男」
・御堂陽菜 高等部二年
【クラス=フェンサー(剣士)】
個人的な印象「鼻と唇にピアスを付けたパンク系サムライガール」
▼教員
・松本タケシ
【クラス=ソーサラー(魔術師)】
個人的な印象「監督」
・井出コウイチ
【クラス=フェンサー(剣士)】
個人的な印象「副監督」
「以上が異世界探検部のメンバーだ。」
「あの…ピーちゃんの紹介忘れてます…。」
「ああ、それとハルカくんが抱っこしてる黄色いネズミみたいなのがピカ獣の“ピーちゃん”だ。」
「え?ピカ〇ュウ?」
「ピカ〇ュウではなくて、ピカ獣のピーちゃんだ。」
「ピ〇ュウのピーちゃん?」
「ピ〇ュウではないぞ。」
「とりあえず二人とも、色々と話がグレーゾーンに入りつつあるからやめようか。」
部のメンバーの紹介が終わった頃に、俺は疑問に思っている事を質問してみた。
「今更なのですが、異世界探検部って活動内容はなんなんですか?」
部のメンバーは俺の方へ注目しながら、目を丸くしていた。そして、次の瞬間部屋の隅で≪シュン≫としている松本監督を睨みつけた。
メンバーに睨まれ松本監督がおろおろしていると、白鳥先輩が再び立ち上がった。
「その名の通り異世界を探検する部だよ。もちろん、単純に探検するだけって訳ではない。アナザーバースには現世と同じように国も存在するし、多くの人種が存在する。そして魔物や魔族と呼ばれる存在もね。それに現世では信じられないような魔法が付与された道具なんか宝等が存在したりする。そう言った物を探したり、現地の人々と交流したりするのが異世界探検部さ。」
「なるほど。それはつまり遠征試合先での現地のファンとの交流的なヤツですかね?」
「うん。よく分からないけどそれでいいよ。」
「僕たちチームフェニックスやベッキーのチームベヒーモスは昨日まで一週間遠征してたんだ。僕たちはアルフォト山脈の奥地にあるダンジョンに、ベッキーたちはメルタニア王国へと親善交流の為にね。」
白鳥先輩は急に険しい表情になった。
「ただ、アナザーバースはさっきも言ったように魔物や魔族が存在する世界。だからその分危険な場所でもある。話しを聞く限りに君もその洗礼を既に受けたみたいだね。」
俺は初日にあった巨大な牙を持ったネコ科の化け物に襲われた時の事を思い出した。
「はい…。」
「前回はたまたま生き残る事ができたけど、これからもその幸運が続くとは限らない。だから自分の身を守るためにもしっかり修行したり、アナザーバースの知識を勉強してくれ。」
「はい!!」
その日の部活は遠征の翌日という事もあり、メンバーの紹介だけで解散した。
そして学校からの帰り道、金剛寺先輩と最寄りの駅に歩いている時、一つだけ気になっていた事を聞いた。
「そういえば、白鳥先輩のクラスだけ教えてもらえてなかったのですが…。」
「ああ、白鳥のクラスは“スレイブ”だよ。」
「スレイブ?」
「スレイブっていうのは“奴隷”って意味さ。」
「ど、奴隷ですか!」
「ああ、全クラス中最弱のクラス。人よりもステータスの上昇も遅いし、魔法の習得に時間も掛かる。何よりもスレイブのEXスキル(エクストラスキル)が“絶対服従”というマスターとなる者の命令に絶対に従わないとならないという悲惨なクラスさ。だが、白鳥はそんな境遇から努力一つで学園トップにまで上り詰めたんだ。リンカーネイターですらないっていうのに本当にすごい男だよ。彼に才能があるとしたら、それは努力の才能だろうね。」
金剛寺先輩はまるで俺がプロ野球選手に間近で会った時の写真に写っていたような表情を浮かべていた。
少し気持ち悪いと感じてしまった。
■続く…
■みんなの異世界探検部のコーナー■
・ダンジョン 遺跡や洞窟など、霊的な力が強い場所に魔物が集まりダンジョン化する。
・EXスキル(エクストラスキル) クラス毎にある特殊効果のようなもの。
・ピカ獣のピーちゃん ハルカちゃんがテイムしている黄色いネズミ。ホッペがピカっと光る。特に電気が使えるとかはない。