第五話【感じの悪い人間はどこにでもいるもんだ。気にするなw】
■第四話のおさらい。
「ハマの大魔神」
―モンゲアナ大平原
俺たちはディミトロヴァ神殿を出て、学園に戻るためにポータルを目指していた。
「それで結局の所、ブレイ・バーって何なんですか?新しい助っ人外国人選手ですか?」
「ブレイバーとはつまりは勇者ってことさ。」
「その勇者っていうのが良く分かりません。」
「簡単に言うとみんなのヒーローって感じかな。」
「それは九回裏ツーアウトの状況からの満塁ホームランを打った打者のような感じでしょうか?」
「どっちかというと九回裏ノーアウト満塁状態で登場して連続スリーアウトを勝ち取るリリーフ投手の事かしら。攻めというよりも守備って感じかしらね。」
「なるほど!理解しました!」
「たまちゃんスゲーな!話通じてるじゃんw」
「流石ミスリリアンヌですな。」
「尊敬、リリアンヌ。」
「その名前で呼ぶな…。」
リリアンヌ先生…もとい、玉木先生は俺の人生で見たこともない形相と低い声で二人を威嚇した。
―異世界探検部 部室館
「玉木先生お手間をお掛けしてすみませんでした。」
「いえいえ、久しぶりにヴァンゲリヤ様の顔を見る事もできましたし、このぐらいの事。」
「今度是非お食事でも。」
「セクハラ…。」
パンクサムライガールこと御堂さんが松本先生の事を睨んでいた。
「いや、冗談です。今の話は忘れて下さい。」
―部室館 更衣室
「じゃあこんちゃん、たっちゃんお疲れっすー。」
「はい、お疲れ様。」
「お疲れ様です!」
俺たちは制服に着替え、帰り支度をしていた時、更衣室に二人の見知らぬ男が入ってきた。
一人は金剛寺先輩と同じぐらいに背が高く、ガッチリとした身体つきの浅黒い肌をした鎧を着た男。もう一人は色白で目つきが悪い黒い長髪の男だった。
「お!万年補欠の金剛寺先輩じゃないっすかw」
目つきの悪い男が金剛寺先輩に対してそういい放った。
「万年補欠とは手厳しいな、ミスター林田は、ハッハッハー!でも今年はその汚名も返上できそうだぞ。」
「ん?もしかしてカルテット(四人編成)揃ったんっすか?」
「ああ、ここにいるミスター星野を入れて丁度四人だよ。」
「君、新人君か。見たところいい体しているみたいだけど、何かスポーツとかやってたの?」
「はい!俺は野球一筋17年です!」
「あ、野球なんだ…俺野球は全然知らないんだよね。」
林田くんは怪訝な顔をしていた。
「まあ頑張ってよ。死なない程度にw」
「はい!頑張ります!」
「あ、うん…。」
着替え終え、松本監督と玉木先生に挨拶するために監督室(ギルドマスターの間)の扉をノックしようとすると、中から談笑しているであろう笑い声が聞こえてきた。
俺は扉をノックし、監督室(ギルドマスターの間)に入った。
そこには松本監督と玉木先生と二人の若い女性とがいた。
「君が噂の新入部員くんだね♪」
薄い赤毛でツインテールの女の子が明るく俺に話し掛けてきた。
「は、初めまして!新垣実業から編入してきた星野タクマ、二年生です!」
「同じ二年の玉木ヴィクトリアだよ。みんなはベッキーって呼んでるよ♪よろしくね♪ちなみにこのリリーちゃんは私のお姉ちゃん。」
「玉木先生の妹さんですか!でも姉妹で雰囲気が違うものですね。特に髪の色とか。」
「私の場合は地毛で、お姉ちゃんはわざと黒く染めてるのよ。」
「そうだったんですか!」
「まあ一応教員だし、多少はね。」
「それとこっちの子が高柳ハルカちゃん。中等部の三年生だよ♪と言っても私もだけど、初等部から異世界探検部に所属してるから結構古株かな。」
「よ…よろしくお願いします。」
「こちらこそ!」
この異世界探検部というのは高等部だけではなく、初等部から入る事ができるらしい。そもそもこの学園に初等部なんてあったことが初耳だ。
「お!新人君ここにいた!」
監督室の扉を勢いよく開け、先程の目つきの悪い林田くんが入ってきた。
「お前のクラスブレイバーなんだってなw」
「え!ブレイバーって勇者様ってこと♪」
「ブレイバーなんて天上先生以来20年ぶりぐらいだろ!」
正直みんながはしゃいでいる理由がよく分からなかったが、ブレイバーという物がすごい物なんだなということは理解した。
「なあ、少し付き合ってくれよ。」
「何をですか?」
「模擬戦だよ。も・ぎ・せ・ん。」
「もぎせん?」
「星野君はまだクラス診断を受けたばかりで何も戦闘についての訓練を受けていない状態だ。それに君たちもアナザーバースでの一週間の遠征から戻ったばかりだろう。後日にしたらどうだ。」
「ギルドマスター、ちょっと相手してもらうだけだからよ。それに荒井と御堂は模擬戦やったんでしょ。俺だけできないとかズルイぜ。」
「模擬戦ってあれのことですか…。」
「安心しな。手加減してやるからよ。」
よく分からないが、異世界探検部の先輩に対して無理に断るのは今後のチームワークに影響を与えかねんと思い、申し出を受ける事にした。
―部室館 プラクティクスルーム
「ルールは簡単だ。体の三か所にあるマーキングのどれか一つでも壊された方が負け。壊した方の勝ちって訳だ。」
俺は頭と胸と背中に薄い皿のようなものがあるプロテクターを装着した。
林田くんも俺と同様にプロテクターを装備していた。両手には短剣の形をした模造刀を持っていた。
俺はというと、とりあえずという事で木刀を渡された。正直バットは握りなれているが、バット以外の物を握るのは落ち着かない。
「では試合開始!」
松本監督がそういうと、林田くんの姿が消えた。この光景はどこかで見たぞと思いながら、周囲を見渡した。
しかし、荒井くんの時とは違い、気配を感じる事が出来なかった。これは手品の類なのだろうか。それとも消える魔球的な?
そうこう考えていると、背後で気配がしたので木刀と振り回してみた。
「おっと!アサシンの俺の気配に気付けるなんてさすが勇者様って感じだなwでもまだまだこれからだぜ!」
林田くんがそういうと、また姿が消えた。一体これはどういう原理で姿を消しているのだろうか。プラクティスルームは平均的な体育館程の空間で、特に隠れるような場所はなかった。それなのに突如として林田くんの姿が消える。これは一体どういう事なのだろうか。林田くんはイリュージョニストなのだろうか。
再び背後に気配を感じ、振り向くとそこに林田くんはいなかった。
「そっちは囮だよw」
「!!?」
林田くんは正面の下段から突き上げるように俺の胸にあるマーキングを狙ってきた。俺は何とか状態を反らしてその攻撃を避けた。
「マジかwそんな態勢から俺の攻撃よけちゃうかwどんな反射神経してんだよw」
俺は一旦林田くんから距離を置いた。
俺は変な緊張感を得ていた。この緊張感はランナー満塁状態で一球でも打たれたら終わりという状況と似ていた。
林田くんはニヤニヤしながら再び姿を消した。
正直、今自分が置かれている状況がどういう物なのか理解できないが、ただ一つハッキリしている事は…“負けたくない!”という意志だった。
今まで野球以外でこんな気持ちになったのは初めてだ。
これは中学時代の地区大会2回戦の時のような気持ちだ。絶対に負けられない!そんな熱い闘志が胸の奥底から溢れてきている!
しかし、俺が姿を消す生粋のイリュージョニストの林田くんに勝つにはどうすればいいのだろうか?
姿を消されていては攻撃もできない…。
ん?待てよ…どうして林田くんはわざわざ攻撃の時に姿を現すんだ?
姿を現さずに背後から攻撃した方が確実にヒットできるのに…。つまりは攻撃と姿を消すことは同時にできない?
となれば俺に残された攻撃のチャンスは一つだ!
『(林田の心の声)ブレイバーなんて言ってたからどんなにすごい奴かと思ったら、素人に少し毛が生えただけじゃねえかwまあ俺様の攻撃を二回も避けたのは称賛に値するが、次で最後だw』
と林田くんが考えている時、俺はただ周囲の気配に意識を集中していた。それはまるで二塁にいるランナーの盗塁に警戒するかのように、自分の後ろ等に目があるイメージで…。
「貰ったぁーw」
林田くんは正面から胸のマーキングを狙ってきた。俺は林田くんの右手に持った模造刀を左手で掴み受け止めた。
「!!?」
「秘儀!ピッチャー返し返し!!」
林田くんは右手の模造刀を話し、再び姿を消そうとするも、俺は深く踏み込み、右手に持った木刀で林田くんの頭にあるマーキングを狙った。
「唸れ!ミスティックエアー(神秘の風)!」
林田くんの周囲から急に突風が吹き、俺は吹き飛ばされてしまった。
「おいおい林田!星野君はまだ魔法が使えないんだぞ。」
「そんなの知ったことかよ!最初にルールの説明はしたぜw」
松本監督はやれやれといった表情を浮かべていた。
「さあもっと行くぜ!ファイヤーボール(火の玉)!!」
林田くんは突風の次は火の玉を投げてきた。
むむー。林田くんは色々なイリュージョンを持っているようだった。
俺も彼のように自分の得意分野で勝負できれば…。野球であれば決して負けないのに。そう野球ならば…。
そうか!と俺は閃いた!野球なら俺は彼に負ける事はないのだ!
―2時間前 モンゲアナ大平原
「魔法ですか?」
「ああ、魔法だ。」
「それは手品的な奴ですか?」
「確かにイリュージョンと言われればそうかもしれないが、違うともいえる。」
「難しいですね。」
「ミーは正直簡単な補助系しか使えんが、玉木先生から簡単な元素系魔法を教わってみてもいいんじゃないか。」
「元素系魔法?」
「元素系魔法とは四大元素となる、火、水、風、土の四つの元素を生み出し、操るのが元素系魔法というのだ。ブレイバーならば全ての魔法系統を操る事もできるだろうし、覚えておいて損はないだろうよ。」
―現在 部室館 プラクティクスルーム
てな感じで後付けっぽくはあるが、玉木先生に石の生成方法を学んでいたのだ。どうして石の生成方法かというと、ボールのように投げられるからだ。これならば野球一筋で生きてきた俺でも活用できる戦い方だ。
ただ石を投げる。単純明快だがそれが一番手っ取り早い。
「さあさあw次々行くぞ!」
林田くんは止まる事なく、火の玉を投げてきた。俺は火の玉を避けながらも、左手に野球のボールをイメージした。ちなみに硬式野球ボールだ。
「はあはあ…随分と粘るじゃねえか…。」
林田くんの動きが止まった。今がチャンスと思った俺は、左手で生成した硬式野球ボールそっくりな石を、林田くんの胸のマーキング目掛けて投げた。
「なんだよ!魔法使えんじゃねえかよ!でもそんな直線的な攻撃が当たるかよ!ミスティックエアー(神秘の風)!」
林田くんの周囲に再び突風が吹き、俺の投げた石は跳ね返された。
だが、俺は踏み込んでさっき投げた木刀を拾い上げた。
「秘儀!ピッチャー返しぃぃぃぃ!!」
俺は跳ね返された石を木刀で更に打ち返した。
打ち返した石は林田くんの胸のマーキングに当たり、マーキングは割れ、林田くんは石の当たった衝撃で倒れた。
「こ、こんな馬鹿げた勝負あるかよ…。」
「完全にお前の負けだな、林田。」
「白鳥先輩!」
気が付くと、松本監督と玉木先生たちの横に白髪の好青年が立っていた。
■続く…
■みんなの異世界探検部のコーナー■
・元素系魔法 四大元素、火、水、風、土を初め、様々な元素を生み出し、操る魔法系統。
・補助系魔法 主に回復、肉体強化を行う魔法系統。
・好青年 イケメン。見た目的にも性格的にも好感が持てる青年。