第三話【リサイクルって大変!】
■第二話のおさらい
「異世界って怖い!」
一回の表が始まり九回の表なり裏なりもしくはコールドゲーム、もしくは延長戦をしたとしてもいずれ試合は終わる。
何事にも無限に続く事はないのだ。どんな天才プレイヤーであってもいつかは引退する時が来る。
かと言っても選手として引退してもそれで人生が終わる訳ではないし、その先もコーチになるなり、監督になるなり、タレントになるなりと色々と続いていく。
とまあここまでは全く関係の無い話なのだが、つまりは世の中の物は全て有限であり、無限ではないと言いたいのだ。
って全然意味違うって?仕方ないだろ。
俺は野球だけに人生を捧げてきた俗にいう野球バカってやつなんだから。文学的な的を得た例えなどできるはずが無い。
というわけで、まあ人の魂と物も無限ではないらしく、次元を超えてリサイクルされるらしい。
詳しくはジェシー松本先生に任せよう。
「という訳で、肉体が死滅すると魂はソースへと帰り、記憶や経験もそこですべて溶け合いリセットされて新しい肉体に宿る。厳密に言えば生きとし生けるものは全てリンカーネイター(転生者)という事になるが、我々が呼ぶリンカーネイター(転生者)とは生前に驚異的な力を持ったり、知識を持ったり、偉業を成し遂げた者たちの事をいう。そうした者たちの魂は他の魂とは違い、魂が溶けにくく、それ故に再び新しい肉体に入っても前世の記憶の一部や能力を持ち合わせているのだ。」
「へーそうだったんだ。」
俺以上に金髪ツンツンヘアー男が関心を示していた。
俺はというと早く帰りたいという気持ちでいっぱいである。
「ようやくお目覚めのようね。」
ジェシー松本先生の背後から、黒髪で切れ長の目をしたアジアンビューティーな白衣を纏った美女が現れた。
「本当に助かりました玉木先生。」
「いえ、養護教諭として生徒の治療は当然の事ですので。」
「結婚して下さい!」
突然金髪ツンツンヘアーが叫んだ。
「いつもありがとう。でも私フィアンセがいるからごめんなさい。っていつも言ってるわよね。」
「俺の魅力で玉木先生を振り向かせて見せます!」
「じゃあもっと勉強も頑張らないとね。荒井君の去年の年度末試験の結果私知ってるのよ。」
金髪ツンツンヘアーの男は荒井という名のようだ。それに成績が残念らしい。と言っても俺も人の事は言えないが…。
「うう…、今から勉強頑張ってきまーーーすぅぅぅ!!!」
荒井は保健室を走って飛び出して行った。
「さ、もうこんな時間だし、みんなも早く帰りなさい。星野君ももう歩けるでしょ。」
さっき得体の知れない化け物に襲われ、足を怪我した人間に向けての発言とは思えないと思ったが…。
「あれ?怪我が無い?」
「足のケガはヒールの魔法で直しておいたわ。それ以外は特に外傷はないみたいだったし、普通に歩けるわよ。」
“ヒール”の魔法?
魔法とはなんだ?
そんな疑問が頭に過った時、ジェシー松本先生が説明しだした。
「魔法とはダークマターを要素とし、元素生成、元素変換、元素操作を行う技術だ。古くはメソポタミア文明時代にシュメール人が―」
「はいはい、とりあえず今日は帰ってゆっくりお休みなさい。」
俺は多くの疑問を抱えながら家路に着いた。
その夜、俺は眠る事が出来なかった。
あの大きな牙を持った巨大なネコ科の化け物に襲われた時の光景が頭に浮かんでしまうからだ。死んでしまうとも思った。当然あの状況ではそう思うのも無理もないだろう。
まさに九回の裏ツーアウト状態である。
それに、転生とはいったい?確か今までも変な夢を見たりはしてきたが…。
まあ考えるのは苦手だし、寝付けない時の必殺アイテム、秘蔵の動画コレクションでも観て頭スッキリさせますか。
「オホ!これは何とも!」
「何一人でニヤケ顔してるのよ…。」
「お!おわ!!ヒトミ!」
ベッドに寝転がりながら動画を観ていた俺を冷めた目で見下ろすように二つ歳の離れた妹が立っていた。
「まーた過去の名勝負集でも観てたんでしょ!」
「そ、そうだけど。動画を観ると言ったら名勝負以外に何を観ろと!」
「他にも色々あるでしょうに…。」
「それよりこんな時間に何の用だよ?」
「べ、別に!ただ、夕食の時に暗い顔してたから気になっただけよ。」
「ああ…顔に出てたか。」
「顔だけじゃなくて“明日学校行きたくないなー”って言葉にも出てたわよ。」
そういえば、正直さが俺の長所であり短所でもあると中学校の時の監督に言われた事があったな。
「何か悩みがあるなら聞いてあげるわよ。」
野球部に入部するつもりが“異世界探検部”なる得体の知れない部活に入部させられ、狂暴な化け物が生息している危険な場所に連れてかれて、転生やら魔法やらとファンタジーな事を説明されたとはヒトミには口が裂けても言えない。
「転生?魔法?異世界探検部?何それ?」
どうやら口に出ていたようだ。
「つ、つまりだな…。」
俺は今日あった事を洗いざらいヒトミに話した。
「え?つまりお兄ちゃんの前世はその異世界ってところの住人で、その事を買われて勇野学園にスカウトされたって事?」
「まあそういうことだな。つまり俺は甲子園を目指す事が出来なくなった訳だ…。」
「ふーん。でも別に野球ができなくなる訳じゃないでしょ。それにあの三冠王を三度達成した落合監督だって社会人からプロ野球選手になってるし。」
「もちろん。プロ野球選手になる事を諦めた訳じゃないさ。ただ…勇野学園は偏差値が全国でもトップクラスの学園だろ。スポーツ推薦無しでは俺の学力では残る事は無理だろう。」
「だったら取り合えず異世界探検部で活動してればいいんじゃない?」
「だがそれだと命の保証が…。」
「何言ってるのよ!オリックスの山崎選手だって中学の時に小児延髄上衣腫という生存率10%と呼ばれる大病を克服してプロになったんだよ!命の保証が何よ!」
「確かに!阪神の岩田選手も高校二年の冬にウイルス感染が原因の1型糖尿病を発症したのち、インスリン注射を打ちながら生活し、関西大学時代には故障にも悩まされながらも、ドラフト希望枠で阪神に入団して活躍してるもんな!」
「そうよ!一見遠回りに見える道でも、それはお兄ちゃんがプロ野球選手になるための道なのよ!」
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!燃えてきたぜー!!!」
「私も応援するよ!」
「ちょっと走り込みしてくる!!」
興奮が冷めやまない俺は夜の住宅街を雄たけびを上げながら走っていると、警察に補導された…。
―異世界探検部 部室館
「改めてこれからお世話になる新垣実業から編入してきた2年生、星野タクマです!異世界探検は未経験ではありますが、野球で培った技能を生かして頑張りますので、宜しくお願い致します!!」
「こちらこそ宜しく。ミーは三年の金剛寺テツオ。クラスはモンクだ。」
「オレは1年の荒井 流星っす!クラスはファイターっす。」
「御堂陽菜、二年生。フェンサー。」
「私は顧問兼ギルドマスターのジェシー松本だ。クラスはソーサラーだ。」
俺のプロ選手になるための異世界探検部での生活が今始まった。
■続く…
■みんなの異世界探検部のコーナー■
ソース 魂の帰る場所。高次元に存在するとされている。
クラス 魂に刻まれた素質によって与えられた役職。
ダークマター 宇宙全体に存在する目に見えない未知の要素。
魔法 ダークマターを要素とし、元素生成、元素変換、元素操作を行う技術。