第二話【遠足は家に帰るまでが遠足です!】
■第一話のおさらい
「こうこその!」
もう嫌だ!早くお家に帰りたい!
帰ってママの温かいシチューを食べるんだい!
と現実逃避している場合ではないが、どうしてこんな精神状態になったのかというとあれは数時間前の事…。
―異世界探検部部室
「異世界探検部ってそもそもなんなんですか?ネットゲームをやる部活的なやつですか?」
「読んで字の如くだ。」
「えっとつまりは異世界を探検する部活って事ですか?ではオカルト的な部なんでしょうか?」
突然、全身汗だくで上半身裸で股間がもっこりしている筋肉マッチョが挙手した。
「はい、金剛寺くん。」
「ミスター松本。私の方から説明させてもらって宜しいでしょうか?」
「オーケー、では頼んだ。」
ジェシー松本先生がそう言うと、黒光り筋肉マッチョもとい、金剛寺は胸筋を前面に押し出し、ピクピクさせながら説明しだした。
「異世界探検部とは、ミーたちの住んでいる現世、つまりはこの世界とは異なる次元に存在する異世界を探索するのが目的の部だ。我が探検部には現在遠征中の部員を含め、11名所属している。」
これが世に言う中二病というヤツなのだろうか。言っている事がさっぱりわからない。
異世界?魔王?ゲームやライトノベールなるものの世界ですか?正直俺は野球一筋で生きてきた故にそれらの名称を野球部仲間の会話の中でしか聞いた事が無い。
「まあ百聞は一見に如かずというし、あれこれ説明を聞くよりも実際にその目で見た方が早いでしょう。」
ジェシー松本先生がそういうと、部室の地下にある巨大な扉の前まで案内された。
「ここは?」
「今度はオレが説明してやるよ。」
今度は金髪ツンツンヘアーの男が説明しだした。
「これは“ポータル”と言って、現世と異世界を繋ぐ扉さ。この扉を通ることで異世界に行くことができるのさ。」
ポータル?また聞きなれない名称が増えた。
「まさか?異世界とやらに今から行くんですか?」
「もちろん。丁度、四人一組パーティーのも組めてるし、問題ないさ。」
問題大ありなのだが。正直この時俺は無理にでも拒否するべきだった。この時ならまだ間に合った。俺は流されるがままこんな所に来なければ…。
と、そうこうしている間にジェシー松本先生が大きな扉の鍵を開け、扉を開くと、その先には青い大空と大草原が広がっていた。
あれ?ここって地下だったよね?っと頭の中がこんがらがりながらも、筋肉マッチョが俺の手を引いてきた。手はヌルっとしていた。
大きな扉を潜ると、緑の匂いがしだした。そよぐ風が心地いい。ふと後ろに振り替えると、巨大な扉の縁だけがポツンと大草原のど真ん中にあった。
「こここ、これはどういう状況なんですか?」
「これがポータルさ。この扉が現世とこの異世界アナザーバースを繋いでるってわけさ。」
「とりあえず一旦帰りましょう。」
「え?今来たばかりなのに?」
「否、それは許されない。」
「当然このまま探索するっしょ!」
「久々のこちらだ。堪能したいものだな。」
訳が分からない。急にこんな得体の知れない所に連れて来られて探索?アリえない!アリえないってぇぇぇぇ!!
と俺は心の中で叫びながら、茫然と立ち尽くしていた。
「ほら、置いていくぞ!」
「え?ああ俺帰りますんでどうぞうどうぞ!」
そういいながら俺が180度周り右し、大きな扉の方を見ると、扉は閉じていた。
扉は押しても引いてもびくともしなかった。
「ポータルは鍵が無いと開かないよ。」
俺はしぶしぶ他の四人についていくことにした。
そして、フラフラと歩くこと30分、見慣れない木々が生い茂る森に到着した。
「ここは迷いの森と言って…まあ迷う森だ。」
説明下手か!もっといろいろと重要な事があるだろうに!とまあ心の中で一人ツッコミを入れながらフラフラと歩いていると…。四人とはぐれてしまった。
見渡す限り“木”“木”“木”“化け物”“木”…。ん?化け物?
俺の目の前に巨大な牙を持つ虎のような動物が喉を唸らせながらこちらを睨みつけている。
俺はじっとその化け物の目を見つめた。
どれほどの時間が経過しただろうか。と言いつつも、実際は数秒に満たないごくわずかな時間だが、俺には2イニングぐらいに感じた。
俺は化け物の目を見ながらゆっくりと後退していった。と同時に、化け物もジリジリと俺に間合いを詰めてきた。
こんな所で死ぬわけにはいかない。
俺は将来プロ野球選手になるんだ!生きていれば甲子園に行けなくたってプロ野球選手になれるんだ!
過去三度も三冠王に輝いた落合監督も社会人からプロ野球選手になったんだ。
だから生きていればまだプロ野球選手になれるチャンスはある!
≪ガサッ!≫
化け物の後ろの方で何か音がした。化け物はその音の方に振り向いた。俺はその好機を見逃さなかった。中学時代は怪盗ルパンの異名を付けられる程に盗塁を成功させてきた。その技術を今この状況で最大限発揮させる!
俺は来るっと方向転換すると、そのまま全力で走りだした。
やはり森の中ということもあり多少の走りにくさはあるが快調な走り出しだ。と思っていたのだが人間が獣に勝てるわけもなく、あっけなく追いつかれた。
化け物は俺の後ろから飛び掛かろうとしていたが、俺は間一髪の所で避けた。と思ったが、右足に化け物の爪が少しかすったようで、血がタラタラと流れてきた。
もう嫌だ!早くお家に帰りたい!
帰ってママの温かいシチューを食べるんだい!
なんて現実逃避していると、右手に固くて太いバットのようなモノが当たった。俺はどうにかこの状況を打破する為にその棒を握った。すると、頭の中で何かがフラッシュバックしてきた。
これは記憶?俺が何かと戦っている。それも今目の前にしている化け物よりも巨大な何かと…。
ふと気が付くと俺は保健室で横たわっていた。
「夢?」
「否、すべて現実。」
俺の横にはサムライガールが座っていた。
「夢じゃないってっことは君が俺の事を助けてくれたのか?」
「否、陽菜は貴公を助けていない。」
「じゃあ誰が?」
ベットの横にあるカーテンが勢いよく開いた。
「俺たちがユーを見つけた時にはサーベルタイガーは既に息絶えていたよ。」
「それってどういう?」
「これで君がサーベルタイガーを倒したって事さ。」
「それは…!」
ジェシー松本先生が手に持っていたのは古びた西洋の剣だった。
「俺があの化け物を倒した?うっそだー。」
「本当さ。まあ正確には前世の記憶がってとこかな。」
「前世の記憶?」
「ああ、君やここにいる全員がリンカーネイター、つまりアナザーバースからこの現世に転生した者なのさ。」
俺はその場にいる全員の顔を見渡した。
何故か金髪ツンツンヘアーの男だけ変顔していた…。
■続く…
■みんなの異世界探検部のコーナー。
・アナザーバース 現世とは違う次元にある世界。詳細については今後の物語上で。
・ポータル 現世と異世界を繋ぐ扉。開くためには鍵が必要。
・リンカーネイター(転生者) 異世界で命を落とした英雄の魂が現世で生まれ変わった者たちの事。