#2 亀みたいな神
「さて。やるか」
学校鞄を家に置き、傷の手当も程々に俺は学生服のまま庭にある自作の模型部屋にダッシュで篭る。
『専用の模型部屋なんか持ってるなんて、おぼっちゃまか?』 なんて思われるかもしれないが。そんなことは全くないごく一般的な中流家庭 (それも繰り上げた状態) で金持ちの類いではない。
この模型部屋も金がないから知恵と工夫で使わなくなった古い物置小屋を改造して作った物。
つまりは涙ぐましい努力の賜物。
それもこれも模型が好きだからできた。そのせいで自分の部屋を模型で埋め尽くしてしまったんだけどね。
まあ説明はこのぐらいにしてそろそろプラモを作るか。
模型部屋は畳三畳程の小さな部屋。
部屋の中には棚が一体化された机と裸電球一つ。後は自作した模型が棚にずらり。
「どれ作ろっかな」
机につくと引き出しに複数ある開封前のプラモをの見詰め、どれを作るか吟味。こうやってプラモを選ぶ瞬間は実に楽しい。
「よし! これに決めた」
二分程悩んだ末、戦艦の食玩のプラモ (所謂簡易模型) を選択。こいつはコストパフォーマンスに優れて組みやすいから初心者にも優しい仕様。俺の一番作るプラモのジャンルだ。
食玩プラモと言っても最近のは組み立てに一時間以上かかる手の込んだ商品もあるから、マジで食玩だと思わないほうが良いです。
と言うものの。俺が食玩プラモを推す最大の理由は値段の安さ。悲しきかな俺のこづかいづが少ないんだ。
さて。なんやかんやでプラモを作ろうとしたその時である。
「んっ!」
突然目の前でスタングレネードみたいな閃光に包まれる。あまりの眩しさに目を瞑る。
十数秒後、もう大丈夫かと目を開くと……。
「でんやなぁ~まんがなぁ~」
机の上で身長二メートルはあろうかという亀が真っ直ぐに立って、腕振りしながら踊ってた。
よく見るとこの亀。亀のくせに姿勢が直立二足歩行のそれと同じで、特撮作品に出て来る怪獣や怪人の着ぐるみみたいにも見える。
「おい亀! お前は何者なにもんだ?」
けれどもそんなことはどうでもよい。今重要なのはこの亀が何者であるかだ。
「わいか?」
自らの顔を指差す亀。
「そうだ」
それに反応してワタルは頷く。
「わいの名前はトトイス。神様でやんす」
「神様だと!?」
信じ難いことだがこの亀は神様だと言う。
けれどもワタルは一瞬驚くものの、疑いの眼を向ける。
当然だ。神様とは神々しい存在で、信仰の対象として尊崇・畏怖されるもの。ところがこのトトイスにそれは微塵も感じられない。彼のひょうきんな顔がそれを物語る。
また神というと厳格で近寄りがたいイメージもあるが。裏返ったみたいなコミカルな声に加え、口調も軽く、人格面でも神とは言い難い。ワタルが疑うのもさして不思議なことではない。
「疑ってるようやな。んならわいの力見せてやるでやんす」
「ちょっ!? お前」
机から降りるとトトイスはワタルの手を引き、四の五の言わさず模型部屋から出る。
はたしてトトイスは何をする気なのでしょうか?