#18 怪獣出現
さて、ミカエルの裏切りがあってから二日。
今日のお話はここ名古屋のシンボルとしてよく知られる栄から、物語を始めよう。
「「「「キャーッ!! 助けてーーーー!」」」」
逃げ惑う人々。それと言うのも開始早々に全高三十八メートルもある怪獣が栄の町で暴れているからだ。
外見は 『これぞ怪獣!』 と思わせるオーソドックスな恐竜タイプ。
「聞け! 愚かなる人間共よ。俺はこの地球の支配者だ!」
またこの怪獣、人語を話すだけの知性も持ってる模様。
彼の名は和泉。だいたい予想できると思いますが、こいつも魔法の窯で模型と融合した人間である。
事の発端は昨日に遡る。
◇
「人数が減ってしまったから、二十人候補を連れて来た」
ミカエルによって仲間が減ったので、それを補うためにフリーダムは新たに二十人の男をワタルの家に連れて来る。
「また連れてきたのか……」
無駄に明るいフリーダムにワタルは呆れ顔。
昨日ミカエルの裏切りがあったばかりなのに、後先考えずに数だけなんとかしようとする有り様。全く空気を読んでない。
「オメエら全員さっさと帰えれ!」
案の定ワタルは否定的。ミカエルのせいで集団が内部崩壊しかかったので、人選に慎重になるのも当然と言えば当然。
二十人を全員追い返そうとしますが……。
「ワタル様、どうか私を女帝セミマルと融合させてください」
ブランド物のスーツを着こなした三十前後のやり手の企業戦士風の男が待ったをかける。
彼の名は宮部。所謂エリートサラリーマンだ。
「ダメだね!」
しかしワタルは聞く耳持たず。ぷいっとそっぽ向いてぷいっと拒否する。
「ちょっと待ってください。ワタル様にお渡ししたい物が」
拒否られたのも束の間。宮部は持っていた大きなアタッシュケースをワタルの目の前で開ける。
「これは!」
アタッシュケースの中には新作のプラモがずらり。
それを見るなりワタルの目の色が変わる。どこで知ったかは不明だが、宮部はワタルの趣味・思考を理解していた。
プラモが大好きなワタルですが、彼はあまりお金のないので欲しいもの全てを買うことができない。従って欲しい新作プラモが発売されてもいくつかは我慢しないといけない。
そして今月は新作プラモの発売ラッシュ。ワタルの欲しいプラモも数多く発売されたが、彼のお小遣いでは賄いきれないで止む無く我慢してる状況。
「これを俺に?」
そのような状況でそれを手にできる思いがけないチャンス。ワタルはそれがホントから半信半疑で話を聞く。
「はい」
宮部は笑顔でコクリと頷く。
「あんたいい奴だ。あんた一人だけやったげよう」
「ありがとうございます」
貰えると分かるとワタルは態度をコロッと変えて男の肩を持ち、魔法の窯のある方に連れて行こうとする。
「ちょっ! 待ってくださいよ」
「そいつ一人だけなんてずるい!」
無論このひいきを他の十九人が黙って見過ごす訳もなく、一斉に文句を言い出した。
そして、ワタルに講義した。
「他の人も融合させるべきですよ!」
で、口論が始まる。
「わぁった、わぁった! お前ら全員やったるよ!」
「「「「やったー!」」」」
長時間の口論の末にワタルが折れて、やっと話がまとまった。
そして二十人を望みの模型と融合させてあげた。
ワタルはホントにこれで大丈夫なのかと自信がなかったのだが。幸いなことにミカエルみたいにいきなり裏切るような者はいなかった。
で、全員の融合が終わると一時解散。エスポアの情報が入るまで自由行動とさせた。
◇
「……これで地球を俺の好きなようにできる」
その夜、怪獣のソフビ人形と融合した和泉は自宅で薄ら笑いしていた。
そう、彼は計画犯。ミカエル同様に力を手に入れるためにワタルと接触したのだ。
ただミカエルと異なり直ぐに行動すようなことはなかった。
翌日、彼は愛車で栄の町に行くと、人影もまばらな裏通りで巨大化し、地球侵略作戦を開始。
そして現在に至る。
またしても悪人を見抜くことができず、悪人に力を与えてしまったのだった……。