#17 後始末
「トトイス様、ここんとこはこんな風でいいですか?」
「適当でいいからさっさとやるでやんす」
ミカエルを殺した後にトトイスたちはぐちゃぐちゃになった庭の修復作業に追われていた。
魔法の窯で作ったシャベルやつるはしを使いやっている。
魔法の窯は生物に限らず道具の模型を入れれば実際のそれとして機能する道具に作り変えることもできるのだ。ただしこれも完成度によって性能が決まるので、銃なんかを粗雑に作った場合殺傷能力のないものになってしまう。
まあ、殺傷能力や破壊力などを気にしないシャベルやつるはし程度なら問題はないが。
◇
「え~と。これをこうして……」
トトイスが中心になって庭の修復作業をする中、ワタルは右腕のない宝塚風美女のミニスカポリスに、緑色の右腕をくっつけようとしている。
「いったい何をやってるの?」 とお思いになってる方も多いと思いますので説明します。
このミニスカポリス、名をリタと言うのだが、ミカエルとの戦闘で右腕を失ってしまったので緑の兵士の右腕を移植しようとしていた。
で、治療をワタルがやっているが訳なのだが。ワタルは医師免許を持たないばかりか医学の心得は全く持ち合わせていなかった。
ワタルは手先が器用で非常に工作技術が優れているものの、それが医療行為に役立つかは微妙なところ。
医師免許も麻酔も無しの治療など危険極まりない。それでもやっちゃうんだからぶっ飛んでるとしか言いようがない。そんな事する羽目になったのも軍団に医者がいなかったから。
「腕の具合はどうだ?」
とか言ってると治療が終わっている。ブ〇ック・ジャック顔負けの早業。それもプラモの修復や接ぎ木でもやるかのように簡単にやってのける。
これは元が模型だからできることなのか? それとも彼の元からあった才能が開花したのか? いずれにせよ大したもんだ。
「どれどれ」
くっつけた腕の具合を確かめるべくリタは両肩を軽く回してみる。
「左右のバランスがとりにくい以外は問題ねえ」
腕の長さの違いからリタは左右非対称な形状となった。並の女性程度の体格にがたいがいい男性兵の腕などくっつければ左右のバランスが悪いのも想像に難しくない。
けれども重心バランスも損なわれたことに目をつぶれば日常生活に問題はない。
「ま、こんなもんか……」
リタもそのことを察したらしく、それ以上は追及するようなことはしなかった。
◇
再び庭の修復具合を見てみよう。
「なんでボクが肉体労働なんてしないといけないんだ」
大体の者は庭を修復するよう言われると素直に従ったが、中には不満を漏らす者も。それは誰であろうフリーダムだった。
「フリーダム、他の奴らを見習って口動かさんで手を動かせ!」
無駄口ばかりのフリーダムにワタルは怒り、真面目に働く他の仲間を指差し文句言ったのは想像に難しくない。
「ボクには肉体労働なんて向かないよ。もっとクリエイチブな仕事が相応しいの」
けれどもフリーダムに反省の色は無く。ワタルの肩を掴むと嫌な顔でふてぶてしく反論。
「それが違えばミカエルみたいに強敵と出くわした時に颯爽と現れて戦うみたいな」
自らは危険を顧みず勇敢に戦う人物だとしてきた。フリーダムは猛アピールしてきた。
「勇敢? 嘘こけ! 俺見てたぞ、ミカエルが反乱を起こした時にフリーダムが真っ先に逃げ出しての」
しかし事の一部始終を見ていたワタルはフリーダムが言ってることが嘘であると見抜く。
「あれは腹が頭痛で足が腹痛で」
フリーダムは焦って言い訳するが言ってることがむちゃくちゃ。仮病なのは誰が聞いても明らか。
「言い訳言うならもうちょっとマシなこと言え!」
ワタルが怒るのももっとも。こんな症状が起こることなどあり得ないからだ。
「みんな、助けてよ」
「「「「……」」」」
他の仲間に助けを求めるも、フリーダムを見る仲間たちの視線も軽蔑したような冷ややかなもの。誰一人として弁護する者はいなかった。
「やれ!」
ワタルはフリーダムにシャベルを突きつける。
「……はい」
言い負かされたフリーダムは渋々従うのでした。
◇
「「うえーーん! うわ~~ん!」」
空き地で。大泣きながらシャベルで穴掘りする二人。名はタクとケッ。
パッチリお目目が印象的な茶系のセミショートカットの小柄な丸顔少女がタク。長い顔の砂色ショートカットのスレンダー少女がケッ。服装は二人共エジプトの民族衣装だった。
一見すると少女なのだが、実際の性別は男の娘である。
彼らがどうして穴など掘ってるかと言いますと。
「俺たちが掘ってるのは墓穴じゃない~……」
そう、ワタルに命令されて散っていった者たちを弔うはための墓穴を掘っていたのだ。
ミカエルに殺された者は少なくない。融合した、してないに関わらず十五人の志願者と緑の兵士三十人もの命が奪われた。
元がフィギュアではあったが、実体化したそれは紛れもなく命ある者。故に血も流れれば著しい損傷を身体に被った場合はもちろん死に至る。
他人の死を共に悲しむことのできるタクとケッは他人を深く思いやる心を持っている。人情に欠ける者が多い今時には珍しいタイプ。しかしやってることは死体遺棄となんら変わりのない。
「「うえーーん! うわ~~ん!」」
けれども2人は責任感から途中で投げ出すようなことはしない。大きな声をあげて泣いていたが決してへこたれなかった。
そんなこんなでそれぞれの作業は難航したものの、夕方前には終わりワタルの家に再び全員集合。生き残った面々で事態の善後策を協議。
結果として皆の団結を固めることの大切さを認識させられるに至るのだった。