#12 できるとわかりゃ使わない手はない
スグルを帰した後、俺はすぐさまトトイスに原因と戻し方を聞いた。
トトイスによると、模型を実体化させる際に一緒に魔法の窯に入ってにしまうと細胞レベルで模型と融合してしまうとのこと。自分の予想が完璧に当たってしまった。
しかし一度融合させたが最後、もう二度と元に戻すことはできないという。
やってしまった。俺の胸に強烈な衝撃が走った。魔法の窯の危険性を改めて実感した。
あの時は良くても後々になってスグルは後悔するかもしれない。一人の男の人生を大きく変えてしまったかもしもれないと自分のやってしまったことを呪った。
「うーむ……」
次の日もあれこれ考える。とは言えどうすることもできなくで朝からトトイスと一緒に庭で佇んでいたが、突然インターフォンが鳴る。
今日は日曜日。そんな日に友達のいない俺に訪問者が来るなんておかしなこと。
だからセールスだと思ったが……。
「ワタル様~!」
俺の名を呼ぶ声。この声質の悪い声はスグルだ。
昨日の一件のせいかスグルと顔を合わせるのに抵抗があった。
どうしようか一瞬悩んだが、無視する訳にもいかんし、トトイスを出す訳にもいかん。おまけに父ちゃんと母ちゃんは休日でデート中。なので出られるのは自分だけ。
嫌だったけど出る事に。
「なんだこの人集りは!?」
玄関外部に行くとスグルを先頭にリュックサックを背負った三十人もの男が群がっている。
「スグル、こいつらは何者なんだ?」
スグルを手繰り寄せ、こいつらが何者なのか尋ねる。
「昨日のことをラインにアップしたら自分たちもやってほしいって詰めかけちゃってさ」
「言触らしたんか!?」
「うん」
スグルはコクリと頷いた。
「なんでそんなことした?」
「だってこの幸せを自分だけのものにするのはもったいないじゃん。だから幸せを分けてあげようと……」
「せんでいい!!」
スグルが言いたいことを言い終わる前に俺はスグルを怒鳴った。美少女にしてしまったことを喜んでるのは良かったが、情報漏洩はエスポアとの戦いに支障をきたすのでしてはならんことだ。だからスグルを咎めた。
「ひゃあ! ごめんなさい」
怒鳴られるとスグルはその場に縮こまって平謝り。一応は反省してるようだ。
「ワタル様、どうかわたくしめを美少女にしてください!」
「いいや! どうかこの僕を美少女に」
「こ奴らのことなどほっといて私を美少女に!」
悩みが一つなくなったのも束の間。スグルの連れてきた男共が自分を美少女にしてくれと激しい態度で俺に迫ってくる。まるでバーゲン会場にダッシュするおばちゃんみたいだ。
「美少女になるには美少女フィギュアが必要だ」
俺は彼らを諦めさせるべく、必要な道具があると条件を提示。
「「「「ちゃんと用意した!!」」」」
男共は声を揃えてリュックの中から箱入りのフィギュアを一斉に出した。用意周到だな。
「それに一度フィギュアと融合したら最後、二度と元には戻れんぞ」
「「「「むしろ望むところです!!!」」」」
諦めさせようとしたが、むしろ燃え上がらせる結果になってしまった。
「……。俺の手下としてエスポアとの戦いに強力するならしてやろう」
「「「「喜んで!!」」」」
俺は彼らの気持ちを利用しようと考えた。それは圧倒的不利な条件。けれども彼らに迷いはなく、二つ返事でOKしてきた。凄い意気込みだ。
「……。分かった。ついて来い」
彼らの誠意に心を動かされた俺は彼らをフィギュアと一体化することを決める。
「「「「ありがとうございます! ワタル様!」」」」
してもらえると分かると、男共は揃って深々と頭を下げて感謝を表す。
世の中には自らの性別に不満を持つ者も小数ながら存在するのは知ってたが、案外多いものだと実感させられるのだった。