#11 余計なもんが混ざっちまった
あれから選ぶのに三時間もかかってしまった。スグルの家に来たのはおやつ時だったが、もうすっかり夕方。
ともかく時間がかかったものの 「これだ!」 という物を見つけることができたスグルの顔は満足気。
とは言え予定時間を大きく遅れている。
ものが決まれば善は急げ。スグルの移動の足である運転手付きのロールスロイスに揺られ、俺の家に向かう。
◇
家に到着すると車を路駐させ、スグルを庭に連れて行く。
「はー。これが魔法の窯か」
庭に置かれる魔法の窯にスグルは興味を示し、じろじろ見回す。
「グズグズすんな。さっさとフィギュアを窯に入れろ!」
けれども今は呑気にやっとる場合ではない。俺はスグルを急かした。
大きく遅れたこともあって俺は焦っていた。それというのも魔法の窯は日が沈むと使えなくなるからだ。
トトイスによると魔法の窯は太陽の光と自然が混ぜり合うことで生み出される 【ガイアトロン】 と呼ばれる不思議なパワーをエネルギーにしている。であるからして、夜になると翌日まで使えなくなってしまうので焦っているのだ。
「分かったてるよワタル様。直ぐやりますよ」
移動中にスグルにもそのことを教えたので、すぐさま魔法の窯にフィギュアが入れられる。
「ワタル様、フリーダム置きましたよ」
「よし! スイッチオン!」
実体化するフィギュア・フリーダムが置かれると、ワタルがスイッチを入れる。魔法の窯が勢いよく動きだす。
しかしここでアクシデントが。
「うわああ……!」
なんとスグルがフィギュアと一緒に魔法の窯に入ってしまったのだ。
「バカ! なんで台の上に乗ってたんだ!」
「そんなこと知らんがな!」
やり方のことで口論になるがその間も作業はドンドン進む。
そして爆発音とともに窯から何か出てきた。
「ん!?」
俺は恐る恐る出てきたものを確認してみる。
すると出て来たのはミニスカートの軍服に身を包んだ100系新幹線みたいな白3号と青20号 (ディープブルー) のツートンカラーのロングヘアーのよく似合った少女だった。
目を閉じて突っ立ていたが、年の頃十六歳。身長およそ百六十五センチ。きめ細かい上質シルクのような肌。清楚で気品ある容姿。
間違いない。こいつはスグルが実体化させようとしたフィギュア・フリーダムだ。
とまあ、フリーダムが実体化したのは分かった。だが、一緒に魔法の窯に入ってしまったスグルの姿がどこにもない。スグルはどこに消えてしまったのだろうか?
フリーダムを眺めながら首を傾げていると。
「あービックリした」
突如フリーダムは目を開けて喋った。
「え!?」
しかしフリーダムの声はスグルのもの。まさか……。
「お前スグルか?」
「なに馬鹿なこと言ってんの? スグルに決まってるしょ」
間違いない、スグルの精神は実体化したフリーダムの肉体に融合にしてしまったのだ。
とんでもないことになった。まさか現実の人間が実体化したフィギュアになってしまうなんて。
「あわわぁ……」
俺がことを焦らせたばっかりに取り返しのつかないことをしてしまった。額から冷や汗がダラダラ流れ落ちた。
「ワタル様どうしたんですか、顔色が悪いですよ?」
やばいスグルが異変に気付いた。
「スグル実はな……」
隠すのは無理と悟った俺はそそくさと模型部屋に行き、机の引き出しから小さい卓上鏡を出してすっかり変わってしまったスグルの姿を見せる。
「なんと!?」
スグルは鏡に映る自分の姿を見ると驚きの声を上げる。
当然だ。美少女のパートナーが手に入ると思って来て見たら、自分が美少女になってしまうなんて。
手違いとは言え、約束が守れなかった負い目から申し訳ない気持ちで俺が俯いていると。
「ステキ♪」
「なぬっ!?」
スグルは落ち込んだり怒ったりすることはなかった。それどころか逆に喜ぶ有り様。
どうなってんだこりゃ?
「スグル、ふざけてるのか?」
「ぜーんぜん。美少女になるのも夢だったんだ」
「うーむ……」
その後スグルは満足そうに帰って行った。
腑に落ちないところもあるが、本人がよければそれでいい。概ね結果オーライだ。
今日は疲れたので、原因や戻し方は後でトトイスに聞くことにしよう。