#10 意外な特技
「でけー屋敷だな」
目の前に広がるどこぞの大企業の工場並みの馬鹿でかい屋敷。これがスグルの自宅だと言うから驚きだ。
田舎の山奥とは言え、これ程の屋敷を建てようとしたらとんでもない金が必要になる。金持ちだとは思っていたが、まさかここまで大金持ちだったとは予想外。
ま、嬉しい誤算だったけどな。
パトロンになることが決まると、スグルは俺を家に招待した。
それと言うのも、レミちゃんを作った経緯を説明したら自分のフィギュアでパートナーを作りたいと言ったからだ。
で、フィギュア選ぶべく一旦家に戻った訳だ。
なお、俺の軍団は先に帰した。
「ただいまぁ」
「「「「お帰りなさいませお坊ちゃま!」」」」
家に入るなり使用人十数人が一斉に出迎える。アニメとかでは見たことあるが、実際にやられると軽く気後れしてしまう。
これも階級格差か。ちょっとムカつくな。
「ボクは自分の部屋でフィギュア選んでくるから、ワタル様はおやつでも食べて待ってて」
そう言ってスグルは自分の部屋にそそくさと行ってしまう。
「お客様こちらにどうぞ」
「ああ……。うん」
残された俺は使用人に案内されて食堂室らしき部屋に。
「すげ!」
するとそこにはブルジョワ的なお菓子がテーブルに所狭しと並んでいた。
まるで王族のおやつの時間みたい。貧乏人の俺には口にしたこともないものばかリ。
「これ本当に食っていいのか?」
あまりの豪華さに、つい食べていいのか不安になる。
「はい。お坊ちゃまからそう承っております」
使用人はコクリと頷くと、俺ににっこりと微笑む。
「それじゃあ遠慮なく」
大丈夫と分かると俺は椅子に座っておやつを食べだす。
◇
「あ~~、食った食ったぁ」
旨いおやつをたらふく食った俺は大満足。
しかし二十分が経過しようとするが、スグルはまだ選択中。
人間好きなことに没頭すると時間の経過を忘れるものだが、スグルも例外ではないらしい。
「どっこいしょ」
このまま何もしないのは退屈。なので腰を上げ、スグルの部屋まで行く事に。
◇
「おーい、スグル。て、すげぇ!」
勝手にスグルの部屋にお邪魔すると、畳三十畳はあろうかというでかい部屋にハイクオリティーな美少女フィギュアが所狭しと並んでいる。
それも無造作に置かれているのではなく、模型店で使うようなショーケースに見栄えよく陳列せれている。これではまるでおもちゃ博物館の一室。一般人の趣味の域を完全に超えていた。
あまりの凄さに圧倒されてしまった。
「んー。これにしよっかな? こっちにしよっかなぁ?」
そんな部屋でスグルはうろちょろとせわしなく動き回り、パートナーにするフィギュアをどれにするか迷ってた。
「おい、スグル」
じれったくなり声をかけてみる。
「あ! ワタル様。いつの間に部屋に来てたんですか?」
声をかけるとようやく俺に気がつく。選ぶのに夢中になりすぎて俺が部屋に入ったことに気づいてなかったようだ。
「まだ決ままだらんのか?」
遅いからちょいと発破をかけてみる。
「え~っと。あと少し……。あと何分とか言われてもはっきり答えられないけど……」
こりゃあ長くなりそうだ。退屈しのぎに俺もフィギュアを見て暇つぶしすっか。
「なんだこのフィギュアは?」
スケールフィギュアの中に紛れて見たことないフィギュアがいくつかあった。それらもハイクオリティーフィギュアなのだが、メーカーはおろか作品名も分からない。
プラモ・フィギュアに関しては情報通な俺なのだが、その俺が見たことも聞いたこともないフィギュアが存在してたとは驚きだ。
「スグル、このフィギュアはどこで買ったんだ?」
気になると居ても立っても居られない。俺はフィギュアの入手経路を聞く。一生知らぬまま後悔するなんていやだからだ。
それに 『聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥』 と言うことわざもあるしな。
「あー、それはボクが作ったんですよ」
「なぬ!」
予想外の返答。まさかあの不器用そうな男がこんな精巧なフィギュアを作れるなど信じられるとは思えん。
「実はボク、将来原型師になりたくって、独学で勉強してるの」
「あ!」
スグルの言葉で全てを察した。この大量のフィギュアは参考用に用意したものだと。
スグルのことをただの道楽お坊ちゃまかと思っていたが。模型好きという共通点で意外と好感持てそうだ。
「ニタニタ」
俺はスグルを手下にしたことは正しかったと、心の中で喜ぶのだった。