#9 財源確保だ
「ボクをグルグル巻きに縛ってどうする気だ?」
のっけから廃工場で似合わぬ二つボタンスーツに身を包んだ身長一メートル程のチビ男が柱に縛られてる。
「あんたに用があって連れて来た」
そしてそのチビ男をワタルとレミを中心に人身緑色の兵隊に二十人が取り囲んでいる。どうやらチビ男は拉致された模様。
彼の名はスグル。ワタルの住んでる町内の隣町にある表野大学に通う二十歳。
この男、2 - 3頭身ほどの小柄な体格にツルツル頭。真ん丸い団子っ鼻にタラコクチビルという面相の持ち主。はっきり言ってブ男。
ワタルはこの様なブ男など拉致して、何を考えてるのかと言いますと。
「俺たちのパトロンになってほしい」
実はスグルは県内でも有名な名門家の金持ち。
つまりは由緒のある家柄のお坊ちゃま。であるからして、ワタルは金蔓にしようと企てた訳。
で、交渉してる訳なのですが。無理やり連れてきた上に威圧的な態度。おまけに下等なものを見るかのような上から目線。
これでは交渉でなく脅迫である。あくどいですね。
「そのパトロンとか言うのはなんじゃあ?」
しかし、スグルはパトロンの意味を知らなかった。大学生なのに無知ですな。
「……。パトロンとは財政支援をする人のことだ」
ワタルはスグルの無知に少々呆れるものの、パトロンの意味を嫌味たっぷりに教えてあげる。
「へー。そうだったのね」
けれどもスグルは嫌味が通じてなく普通に感心。呑気な人だ。ワタルも呆れ顔。
とても脅迫されてるとは思えない。グダグダだ。
さっさとことを済ませたいワタルの意思に反し、こんなくだらない遣り取りを二十分繰り広げることになる。
◇
「だから、エスポアの侵略から世界を守る為にお前の金がいるんだよ!」
粘り強く交渉を続けるワタル。今更だが彼、彼がスグルを拉致したのはエスポアと戦う為の資金確保であった。
力におぼれ、どんどんダメになっていったかと思いきや、本質は腐ってはいなかった。
やり方に問題はあるもののワタルはダメ野郎ではあったが、クズ野郎ではなかったのだ。
「侵略者の脅威? そんな映画みたいなこと信じられっか!」
けれどもワタルはかなりの頑固。頑として首を縦に振ってくれない。
「お前みたいな悪党に屈したとあっては我が一族の恥。チラッ。どんなことがあっても悪には従わんぞ。チラッ」
顔はふざけた男だけれど、スグルは名門家のプライドと強い正義感の持ち主である。
しかしどういう訳かスグルはワタルと話しながら何かをチラ見ちていた。
「ん?」
ワタルもその不自然な仕草に気づき、チラ見する視線の先にあるものを確認する。するとそれは一緒に連れて来ていたレミであった。どうやら色目を使ってたと思われる。
「ニヤリ」
それを知ったワタルは薄ら笑い。何か良かるぬことを思い付いた模様。
「レミちゃんのことが気になってるようだな」
ワタルは行動開始。スグルの顔に自らの顔を近づくと煽る。
「そ、そんなことはないぞよ!」
スグルは否定したが、うろたえていた上に声が裏返り、額からは汗がダラダラ。
挙動不審なのは誰の目から見ても明らか。
男は美女に弱いもの。スグルも例外ではなかった。
「レミちゃんをあげることはできないが、俺のパトロンになればかわい子ちゃんを一人やるぞ」
スグルが美女に弱いと悟ったワタルはと足元を見るかのようにグイグイと押す。その姿はベテランの詐欺師の話術ととてもよく似ていた。
「是非とも僕を貴方様のパトロンにさせてください!」
かわい子ちゃんを一人やると聞くや否やスグルは目の色変えて二つ返事でパトロンになることを承諾。
否定的だったさっきまでとは打って変わって絶大な信頼を寄せるようになる。
「よし、縄を解いてやれ」
「イエッサー」
パトロンになることが確実なものになるとワタルは兵士の一人に命令し、スグルの縄を解いてやる。
「ボクは貴方様の忠実な下僕。何なりとお申し付けください」
縄を解いてもらったスグルは跪いてワタルを伏し拝む。名門家のプライドはどこにいったのやら。強い正義感も色欲には敵わんということか……。