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第6話 聖女と罪の開帳と

ゆっくりと歩いていたが、ギルドに到着してしまった。

「面倒な一日の始まり、か」

鬱屈した気分を抑え込み、ギルドの扉を開ける。

中にはすでに何組かのパーティーが陣取っており、勝手気ままに過ごしている。

依頼を物色する者。

装備を確かめながら周囲を観察している者。

こちらを見てにやりと笑いかける者。

顔を顰めて視線を逸らす者。

中々に多種多様な対応だ。

そんな彼等を横目に、ギルドの2階へと上がっていく。

ギルドのランクはA~Fの6段階。

Aランクが最も貢献度のある冒険者に贈られる称号のようなもので、

Fランクは登録したての駆け出しだ。

一般的に一人前の冒険者と呼ばれるのがCランクから。

1階にいる彼らは総じてDランク以下。

Cより上は、今回の講習があるため、2階に集められているはずだ。

階段をのぼり、40~50人は軽く収められる講習部屋の扉を開く。

中にはもう集まっていたらしい高ランクの冒険者達が大勢いる。


「やあ、今日は遅刻しないんだなラルフ」

にこりとしながら話しかけてくるルイス。

こいつも一応Cランクだからここにいる。

「ギルド長直々の依頼だからね」

肩をすくめて返す。

「さて、皆集まっているかな?」

近くにいたギルド職員に聞くと今回招集した面々は全員集まっているようだ。

なら、始めるか。

「まず、なぜ貴方が教える側ですの?」

きつい声が飛んでくる。

白金色の髪をした白い法衣姿のお嬢さん。

このお嬢さんこそが、今回の講習の発端となったAランクの白金の聖女様だ。

「さて、ギルド長にお聞きいただいた方がいいですね」

にこやかにかわすと苛立たしげにこちらを睨んでくる。

しかし、事実を言うわけにはいかないだろう。

『聖女様が馬鹿をやったせいで他に使える高ランクの冒険者が軒並み奔走しているからだ』なんて、な。

聖女様以外にも納得いっていないものが数名いるようだ。

それも仕方がない。

何せ私はCランク。

講習という教える側に立つなら高位の冒険者が当たるべきというのは理解できる。

しかし、だ。

「今回、私が選ばれたのは、ワイバーン襲撃時の功績とギルドからの要望を一番理解しているからですよ」

「それが納得いきませんわ。功績という意味なら前線で奮闘した暁の勇者様の方がふさわしいのではなくて?」

言わんとしていることはわかるが、それはできない。

何せ、彼のパーティーに君がいるからね。

それに、彼は突撃の仕方は知っていても退却の仕方を知らないからなぁ。

「先ほども言ったようにギルド長からの依頼ですよ。私が適任というね」

暗にお前達じゃ意味がないと告げる。

憤慨した様子の聖女様を手で制して、今回の発端を語る。

「そもそも、なぜ高ランクの冒険者に対して講習を行うか理解できていますか?」

皆に頭も首をかしげるか肩をすくめる者ばかり。

何人かは意味ありげな視線を聖女様に向けていることから、この講習の真の意味を理解したのだと知れる。

馬鹿ばかりではないことに安堵を覚え、聖女様を見据えて話す。

「低ランクの冒険者もそうですが一部Cランク以上の冒険者のマナーがよろしくないことが一つ。

そして、有事の際に他パーティー間での協調を促進させるというのが今回の講習の目的です」

納得している面々をよそに理解できていない様子の聖女様と他数名。

本当にいい加減にしてほしいものだ。

「皆さんが集められたのは後者の名目でしょう?

ですが、ギルドとしては、本当に理解していただきたいのは前者の目的らしいんですよ。

私も詳細を聞いて頭を抱えてしまいましたから」

肩をすくめて首を振る。

本当に、今回の講習の発端となった資料を見せてもらった時には、眩暈がした。

いや、はっきりといえば殺意がわいたよ。

よくもここまで馬鹿な真似ができたもんだ。

「さて、まずは簡単な話から済ませましょうか」

そう言いながら、ギルドから用意された資料を手に説明に入る。


昼を告げる鐘が鳴り響く。

パーティー間での連携の仕方や、報酬の分配の仕方、危険を感じた際にすべきことや撤退の方法などなど。

自分の知識をいくつか披露した。

まぁ、美味い酒が手に入るのならその価値はあると自分に言い聞かせてはいるが、

命を懸けて手に入れてきた、身につけてきた知識をタダで渡すのはどうしても納得しがたい。

「昼の鐘が鳴ったんで終わりにしたいんですが、そろそろ本題に入っても良いですかね」

一部のCランクに成り立てのガキどもは不満そうな面をしているが、

何人かの高ランク冒険者は鷹揚に頷いてくれた。

こちらが命懸けで得た知識を伝達することが前置きに過ぎないというのがどういうことか理解してくれているようだ。

それが唯一の救いではある。

誰も理解してくれないんじゃ、本当にどうしてやろうかと思ったよ。

「まず確認です。

冒険者のマナーについてですが、ギルドに登録した際に皆さん講義は受けましたよね?」

頷く面々。

「結構。では、狩猟禁止登録されているモンスターがいることもご存知ですよね?」

一部の人間が口元をひくつかせている。

聖女様は理解ができていないようだ。

「モンスターは討伐すべきではありませんの?」

こちらを睨みつけながら聖女様がきつい口調で問いかけてくる。

少しは周りを見てほしいものだ。

暁の勇者君も顔を引きつらせているのが分からないのかね。

「有益である一部のモンスターについては、討伐を禁ずるというのがギルドどころか各国の共通認識であり決定ですよ」

あきれを含んだ口調で返す。

「おい、まさかとは思うが、蜂蜜が高騰した原因は」

冒険者の一人が恐る恐る問いかけてくるので頷く。

そいつを含め、何人かの冒険者が頭を抱える。

多分、事後処理に駆り出されたんだろうな。

「・・・先日、ゴブリンどもが騒がしかったのもか?」

違う冒険者の問いかけに、頷きつつ言葉を発する。

「蜂蜜もそうですが、ゴブリン種の大量発生もそうですね。

同じパーティーがやらかしてくれた結果ですよ」

頭を抱える冒険者が増えた。

聖女様とCランクに成り立てのガキどもは理解ができていないようだ。

「何か弁明はあるかね?『紅の剣』の諸君」

問いかけてやると他の冒険者達の目線が集中する。

中には殺意すら浮かべている奴もいる。

気持ちはわかる。

蜂蜜騒動もそうだが、ゴブリン種の大量発生の後始末に駆り出された身としては、こいつらを殴っても許されると思う。

「べ、弁明ってなんだよ!俺達はただモンスターを退治しただけだぞ!」

「そ、そうだ!何も悪いことなんてしちゃいない!」

心外だと言わんばかりに拳を握り言い訳を口にしている。

彼等の罪状はすでにギルドでも把握しているんだが、本人達に自覚がないのが余計に、な。

「モンスターを討伐しているのであれば問題はないのではなくて?」

聖女様の発言に頭を抱える勇者君。

信じられない者を見るような目で聖女様を見る冒険者達。

そして、救いの神を見るような目で聖女様を見ているガキども。

ため息が出てくるよ。

「・・・ハニービーとハニーベアはともに蜂蜜を生産してくれるため、討伐禁止種にあたります。

討伐が許可される時は間引きが必要あるいは生息域が拡大しつつある時だけです。

彼等が退治した時には、許可は出ていませんでした」

首を左右に振りながら言葉を紡ぐ。

「ギルドの受付は彼等の討伐記録を確認して警告と罰則を与えようとしましたが、

聖女様の横槍でうやむやにされるどころか受付の担当者が叱咤され、公衆の面前で詫びさせられる屈辱を与えられました」

もう、何人もの冒険者が言葉をなくしている。

ハニービーやハニーベアは気性がおとなしく、こちらが手を出さない限り襲ってこないため、安全なモンスターなのだ。

それに、彼等が作る蜂蜜は高品質なため、専門の採取業者もいるくらいだ。

それが何体も討伐され、蜂蜜が出回らなくなった。

しかも、仲間を殺されて怒り狂ったハニーベア達に採取業者の何人かが殺されるか、あるいは大けがを受けている。

大事件と呼べるほどだ。

それを指摘し、ギルドの証を剥奪しようとしたのだが、たまたま通りがかった聖女様がそれを止め、

逆にモンスター討伐を非難した受付を責めたのだ。

職務を果たしているだけなのに、高位冒険者それも各国に顔が利く聖女様に怒鳴られ、

違反をした者達に謝らされる屈辱。

その屈辱を受けた担当者はそれから家にこもっているらしい。

まったく遣る瀬無い話だ。

「モ、モンスターを討伐するのは冒険者として当然の」

「やめろ」

聖女様が言い訳を口にしようとしたところを勇者君が遮る。

「ラルフさん。その受付さんにはオレの方から詫び入れさせてもらいますよ。

なんで、後で案内宜しくっす」

なんで私が案内しなきゃならないんだ。

「んで、ルシュカ。お前は講習をもう一回受けとけ。そこの坊主どもと一緒に、だ」

普段からそうやってまじめにしていれば、それなりに格好がつくのに。

どうして勇者君はあんなに軽いんだろうね。

「ラルフさん。ゴブリン種の方もそいつ等っすか?」

「そうだよ。ついでに言っとくと、ギルドの講習係は皆やりたくないそうだ。

だから私がやることになるね」

嫌だけど、それが今回の依頼だしね。

「あぁ、なるほど。だからギルド長はラルフさんに依頼する時に半年って言ってたんすね。

オレ達へのじゃなくて、ルシュカ達の再講習の時間っすか」

「そうだよ。だから手伝ってくれると嬉しいな。君が手綱握ってればここまで騒ぎにもならなかったろう?」

にこやかに言ってみる。

勇者君はにっこり笑って返事を返した。

「嫌っす。だいたい、オレってば手綱握られる方っしょ?

無理言わんでくださいよ」

こういう時だけ察しの良い君は大嫌いだ。

「てか、補填とかどうするんすか?

そいつらと『(ウチら)』とで半々ってとこになると思うんすけど?」

その問題もあった。

ハニービーとハニーベアの暴走による被害、ゴブリン種の暴走による被害。

これらの補填をさせなければならない。

ギルド員でもないのにどうしてこんなことをさせられるんだろうなぁ。

「下手すりゃ町が潰れてたかもしれんぞ」

「確かに。今回の暴走はひどかった。準災害級だったからなぁ」

ひそひそと会話をする冒険者達。

実際はもっとひどかったんだがね。

「実際に村が一つ崩壊しています。

全滅まではいかなくとも住人の半数が死亡していたそうですよ」

室内が静まり返る。

これでも抑え目な報告だ。

実際は、ゴブリン種の暴走により1つの村が崩壊し、5つの村が半壊した。

町に続く街道の途中で何とか討伐できたが、少しでもタイミングが狂っていれば町が崩壊していただろう。

ハニービーとハニーベアの大量殺戮も頭が痛い問題だ。

しばらくの間、蜂蜜は採取不可能なため、高騰するだろう。

ギルド長は王侯貴族から叱責を受けることにもなるだろうな。

いや、あるいはもう叱責を受けたか?

「補填は、『暁』と『紅の剣』で折半ということになるでしょうね。

そこらへんはギルド長に確認してください。

最悪、ギルド証の剥奪もあるということを認識しておいてくださいね」

聖女様の顔が青白くなっていくのを横目に、周囲に告げる。

「聖女様と『紅の剣』諸君には再講習を受けてもらいますが、

どうも低ランクの冒険者の中には、聖女様の言動を真に受けて討伐禁止種に手を出すような奴もいるみたいです。

なので、皆さんはある程度気にかけてやってください。

どうしようもないのは早めに止めてもらえるとギルドの労力が割かれずに済みます」

頷く面々。

幾人かは渋い顔をしているが、こちらの真意を汲んでくれているのだろう。

あまりに度がひどいとギルドとしても無視はできない。

聖女様という横槍がない以上、彼等は処罰されることになる。

罪状とともに、市民に晒されてからの処刑だろう。

「以上です。再講習は午後から開始するので、対象者は午後の鐘が鳴るまでに再度集まってくださいね」

告げるべきことを告げて部屋を後にする。

さて、ここからだ。

聖女様の我慢がどこまで続くか。

そして、これ以上の愚行をしでかさないことを祈っているよ。


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