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第2話 ギルド長に捕まって

人は反省をする生き物であるが、反省を口にしてもまた繰り返すものを何と呼べばいいのやら。

酒をしこたま飲めば酔う。

至極当然で、一般的なことなのに、どうしてこうも人は同じ過ちを繰り返すのだろうか。


つまるところ、酒による失態とは、すなわち酒が美味すぎるのが悪いのである。



頭が痛い。

昨日はルイスにしこたま飲まされてしまった。

何だって大事な謁見の前日に普段と同じように飲んでしまったのだろう。

「もう、飲みすぎたりしません。うぷっ」

ダメだ。

声を出すのもつらい。

こんな時は迎え酒と行きたいけれど、さすがにエールの匂いを纏って王城に行くわけにはいかない。

「・・・このままベッドで横になっているのはどうだろうか」

「いいわけねぇだろ」

すさまじく不機嫌そうな声がする。

おかしいな。

この部屋は自分だけのはずなのにギルド長の声がするよ?

「エールの飲みすぎで動けねぇなんてふざけたこと言わねぇよな?

さっさとそのツラ洗ってこい!!」

慌ててベッドから起き上がり顔を洗いに行く。

何故朝からおっさんの怒鳴り声で起こされなければいけないんだろうか。

あぁ、今日は厄日に違いない。



顔を洗って部屋に戻るとこめかみをひくつかせたおっさん・・・もといギルド長が仁王立ちで待っていた。

「なんでこんなとこにいるんですか」

「てめぇの考えが読めねぇほど耄碌したと思ってたか?

飲みすぎて動けねぇなんて情けねぇ理由で逃げようったってそうはいかねぇぞぉ。

今日が!どんだけ!大事な!日かってのは!散々言ったと思うがなぁ!!」

・・・やばい。

めちゃくちゃ怒ってる。

「いや、ギルド長。覚えてますよ?

けどですね。おいしいエールが私を呼んでいたわけでしてね」

そう、エールがうますぎるのが悪いのであって、私は悪くないのだ。

あるいは、私にエールを進めたあのバカが悪いと言えなくもないのでは?

「言い訳はいいらねぇんだよ。さっさと支度しろい!!」

言い訳すら聞いてもらえないようだ。

仕方ない。ここは諦めておとなしく用意をするとしよう。

しかし・・・。


「あの、ギルド長。どうやってここが分かったんですか?

私、ここに泊まってるって伝えてましたっけ?」

そう、そこだ。

ギルドには宿屋の名前は伝えていなかったはず。

万が一を考えて、ルイスにも別の宿の名前を伝えてたのに。

「・・・とことん舐めてんな。

てめぇが逃げ出すかもしれんってのはよ、とっくにお見通しなのよ。

だから、この王都のどの宿屋にもてめぇが来たらギルドに知らせるようにって通達してあるんだよ。

だからてめぇが嘘の情報でこっちを混乱させようとしても無駄ってことだ」

ギルドが個人の情報をそこまで手にして良いものだろうか。

「この宿屋の親父も快くカギを貸してくれたぜ?」

そりゃ、朝っぱらからこんなおっさんに迫られりゃ鍵くらい貸すわな。

ため息つきながら用意を終わらせる。

このおっさんがここにいるってことはもう逃げられないってことだしな。

「冒険者まで連れてきますか普通」

そうなのだ。

探知できるだけでも3人が私の関知範囲にいる。

隠すつもりもないようで堂々としてる。

「じゃないと逃げるだろ」

ごもっとも。

「だからって、暁の勇者君とかはないでしょ。やりすぎですよ」

いくらなんでもあの自重を知らない暴走(トロールよりバカ)野郎を連れてくるとは思わなかった。

「逃げなきゃいいだろ」

そいつもごもっとも。



ギルド長に連れられて、周りをがっちり固められて王城に到着。

逃げる気はないといったのに全く信じてもらえなかった。

どこまで信用がないのだろうか。

王様との謁見は無事終了。

といっても私は余計なことは喋るなと言われていたので、ほとんど黙っていましたけれど。

勲章とお褒めの言葉をいただいて、解散かと期待したけれど、腕を抑えられたままギルドに直行してギルド長室へ。

そして、現在。


私はギルド長室の椅子に縛られています。

目の前にはギルド長。

周りには暁の勇者君パーティー。

「なぜ、縛られているのでしょうか」

「そうしなきゃ逃げようとするだろう?」

心外な。

「ラルフさんってば足遅いっすけど、逃げるのうまいんでしゃぁないっすね」

相変わらずのチャラさ。

なぜこれが勇者なのだろうか。


「さて」

ギルド長の声が響く。

「かねてからの予定通り、ラルフ、てめぇには冒険者の教育を任せる」

私の予定にはなかったんですけど。

「もちろん、てめぇも何かと苦労するだろうから報酬はきっちり用意してある」

別に金は要らないんですけど。

「・・・知り合いのドワーフから美味い酒をもらっててな」

なんと?

「飲むと喉を焼くような刺激があるが、腹にストンっと入ってそりゃもう極上でなぁ」

ほぅ。エールではない?

極上というからには、まさかの火酒?

いやいやまさか?

「てめぇも酒飲みなら知ってるとは思うが、ドワーフが買い占めるほど美味い酒があってな」

えっ、本当に火酒?

「1樽もらってあるんだが、いかんせん、ワシにはきつくてなぁ。

譲ってやってもいいんだが・・・分かるな?」

1樽!?

なんと卑怯な。

しかし、火酒といえば、確かに美味かった。

あの時ほど、ドワーフの友人がいてよかったと思ったことはない。

あ、あの極上の酒をもう一度飲めるのか!?

「もし、てめぇが教育係を引き受けるってんなら、くれてやる。

・・・ついでにそいつにも紹介してやってもいいぞぉ?」

ひ、卑怯な。

酒質をとるなんて。

し、しかし魅力的な話だ。

またあの酒を楽しめるなら・・・しかし。


「あの~、期間はいかほどになります?」

そう。そうである。

まさかとは思うが、1樽で年単位働けとか、このおっさんなら言いかねん。

「これほどの酒は容易には手に入らん。

そいつは理解できるよなぁ?」

そりゃそうだ。

私も知り合いのドワーフに何年もお願いして漸く飲めたくらいだ。

やはり、年単位になるのか?

「だが、運がいいなぁ。

ワシの知り合いはそいつの作り手でなぁ。

美味い酒をこよなく愛するバカってのが大好きな奴でなぁ。

てめぇのことぁ伝えてある。半年に1樽なら譲ってやってもいいらしいぞぉ?」

ギルド長のにやり笑いがむかつく。

しかし、半年に1樽か。

・・・もつかなぁ?


待てよ?

ギルド長を出し抜いて、その作り手と懇意になれば良いんじゃ?

そうすれば、教育係なんてめんどうな仕事もしなくて良くなるし?

美味い酒は飲めるし?

いざとなればドワーフの国に行けば良いし?

良いことしかない感じじゃない?

「・・・一応言っとくがなぁ。

ワシを出し抜けるなんて馬鹿なこと考えるなよぉ」

わーい、見抜かれてるー。

すんごい厳つい笑顔で微笑まれてるわぁ。

「い、いやだなぁ、そんなこと考えたりしませんよ」

震えるな私。機会はあるんだ。

「まぁ、いいだろう。てめぇの生きるための知恵ってやつを他の冒険者どもに叩き込め。

すぐに結果が出んことはわかっちゃいるが、半年後に確認させてもらうぞ?」

期限は半年か。

その間になんとかドワーフにつなぎを・・・

「成功報酬として、ワシ秘蔵のワインを1樽やろう。

こいつぁ、西の森のエルフが作った逸品なんだがなぁ」

「絶対に成果を出して見せます!!」

・・・あれ?

なんか、引き受けてる流れ?

「よぉし、こいつらが証人だ。

教育係、しっかり頼むぜぇ?

・・・てめぇ、途中で逃げやがったら地の果てまで追いかけてやるからなぁ?」

年季が違ったか。

くそ、同じ酒飲みのくせに酒質を使うなんて狡い真似を。

しかし、酒が待ってるんじゃしかたない。

観念するしかないかぁ。

「酒なんてそんなに美味いっすか?オレっちにゃわかんねっすわ」

うるさいよ勇者君。



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