一章 八話 再び警察署へ
────冬陽視点
「これからどこに行くんですか?」
「警察署。そこで申請をすれば食べ物とかを貰えるようになるんだって。保護もしてもらえるらしいよ」
「どうしてそこまでしてくれるのに……僕らに本当の名前を教えてくれないんですか?」
あー、なんて説明しようかな。
「あ、ばれてた?本名じゃなくて芸名なんだよねー、これ」
動画投稿サイトでね、この名前ね、使ってるんだよね。うん。
「芸名……?あなたのことは一応信用しているので少しお話ししますが、僕の能力は凄く万能なんです。だから、僕には嘘ついても意味無いですよ」
嘘言ってる訳じゃないんだよ。理由を全部言ってるわけでもないけど。
「知ってる。でも、万能だからこそ人に知られたくないのもわかるよね。僕も同じなんだ」
「……」
「あ、でも、一度あっちの名前教えちゃったら、本名教えるタイミングどこだろーな?って考えてるうちにあとに引けなくなっただけなんだよ?」
「はぁ。わかりました」
よし、とりあえず折れてくれてよかったよ。
「じゃ、今度こそ出発しようか」
そういえば、要さんと連絡先交換してなかったや。
僕はそんな事を思い出しつつ、警察署から歩いて10分位のところに転移した。
「あ、警察署でも今のまま大人しくしてていいからね」
ほんと誘拐っぽいよねー。僕が悠里くんを誘拐してるんだったら拉致・監禁先が警察署っていう不思議なことになるけど。
そんな事を考えつつ、そこからは転移は使わず歩いて警察署に向かった。
「すいません。灰崎夕深さんに繋いで貰えますか?碧希冬陽が相談に来た、と言ってくれればわかると思うので」
「ああ、君が冬陽くんか!話は聞いてるよ、ちょっと待ってね」
「え?冬陽くん来てるんですか?」
「あ、要さんだ。お久しぶりです」
「えっと、イメチェンしたんですか?……今日はどのようなご用件で?」
「イメチェン?……んと、今日は能力者登録に来ました」
「髪のことですよ。白いし伸ばしてるからそうなのかなーって。君も能力が発現したんです?」
なんだろ、微妙に話が噛み合ってない気がする。
「え?……僕の申請じゃないですよ。僕の後ろにいる子です。散歩中に出会いまして、お腹をすかせていたのでご飯を作って一緒に食べたんですよ。で、話を聞いてみたら親が能力者じゃないみたいで、保護してもらった方がいいんじゃないか、と思いまして」
「それなら、書類を準備しておきますね、少し待っててもらえますか?」
あ、灰崎さんだ。
「なら私が準備するわ」
「ナイスタイミングです、灰崎さん。どうしてここに?」
「冬陽くんに呼ばれてるみたいだったから急いで来たんだけど……こちらの美人さんは?」
2度目なのにどんだけ間違われるの。髪伸びただけでそんなに変わる?
「はは、この子、冬陽くんみたいですよ?なら、書類の準備をよろしくお願いしますね。では、お二人はこちらに」
そういえば、こういうのに申請するんだったら親に確認とった方がいいよね?
「ねえ、君のお母さんとかの連絡先わかる?」
「一応……携帯の番号なら、わかります」
「なら、僕の携帯からかけて貰ってもいい?」
「もしもし、あの、どちら様です?」
「あ、僕悠里くんの友達の碧希と申します」
「悠里の……?もしかして悠里に何かあったんですか?!」
「そうでしたか……あの子たちをよろしくお願いします」
「いえ、突然申し訳ありませんでした。はい、こちらこそよろしくお願いします。では、失礼します」
「ごめんね。僕たちがやるべきことなのに、気をつかわせてしまって」
途中から要さんに電話を変わって貰って、それで説明してもらったんだよね。
「いえ、必要だと思ったので。ところで、この子たちこれからどうなるんですか?」
「それが、ですね、まだ居住区が完成していないんですよ。なので、保護と言っても当分は今まで通りの生活を送ってもらうしかないんですよね。食料は支給出来ますが……」
後ろめたそうに、敬語で要さんは言った。
……それなら僕が色々やった方が早いね。
「手伝いましょうか?この子たちのためなら、いいですよ」
「……何をする気ですか?」
「一応僕も能力者なので色々出来るんです。説明のために警察署内に扉を置かせて貰えませんか?」
うーん、居住区とかの構想は出来てるんだけど、僕の能力者としての立ち位置はどんな感じにしようかな?
「扉?……取り敢えず、続きは部屋の中でお願いします」
部屋に入ると、岩西さんが見える状態で寛いでいた。間違えられなければいいんだけど。
「随分と久しぶりだな、ガキ」
「どうも。僕だってことよくわかりましたね。要さんと灰崎さんにはわかってもらえなかったんですよ。あと、今日は連れがいるのでガキは止めてください」
わかって貰えたのはよかったけど、ガキって呼ばれるの嫌だな。
「今日は子連れか。それなら保護申請の話か?」
「そういうことです。灰崎さんが来てから、少しいいですか」
「ああ」
話が早くて楽だなぁ、と思っているとちょうど部屋の扉が開いた。
「書類持ってきたわよー」
「お帰りなさい。では、始めたいんですけど、企業秘密という事で、皆さんは外で待ってて貰ってもいいですか?」
「……ああ、わかった。灰崎、取り敢えず書類は適当に机に置いとけ。それで別の書類持ってこい」
なにも言ってないのに察してくれた。これなら楽に進みそう。
「説明は外で、ということね。りょーかい」
「さて、やるか」
まず部屋の入り口とは反対側の壁際に移動して、取り敢えず部屋にかかっている能力を支配し、消す。それから窓の横に扉を創り、新しい、何もない空間に繋げ、その中に入り空間固定をかける。そして壁や床も忘れずに創った。
そして、収納空間を出て、もう一度部屋に空間固定をかけ直した。説明用ならこれで大丈夫かな。僕は要さんたちを呼びにいった。
悠里くんは別室で説明を受けているらしい。
「取り敢えず説明用に作りました。中に入ってみて下さい」
「では僕が行ってきます」
要さんが扉の先に入り、暫くしてから戻ってきた。
「お待たせしました」
「中はどうだったの?」
「普通に何もない部屋でした。安全そうです」
「そんな感じで、扉さえ置かせてもらえば部屋が作れます」
「ガキ、お前はどんな能力が使えるんだ?」
もっともな疑問だよね。どうしよっかな。
「さあ?場合によっては話しますよ」
「あ、場合によってはいいんですね」
「ええ。そういえば、皆さんは能力者の鎮圧とかするんですか?」
やってるなら参加したいんだよね。
「言ってもいいです?」
「別にいいわよ」
そういえば、ここの部署のトップって誰なんだろ。要さんが一番下なのは分かるんだけど。しかもメンバーが三人だけってありえなくない?人足りてないだけかもしれないけど。
「今のところ、能力者の民間区域への出入りは認められてないので、民間区域に入ろうとした能力者が居れば、私たちの出番になります。後は能力者が関わる揉め事や抗争も、場合によっては鎮圧します」
「では、その時に場所と時間を教えてくれませんか?」
「機密を教えることは出来ない」
それぐらい予想してましたとも。
「ですよねー。僕もそれに協力したいと思ったんですけど……。その時には、もちろん僕の能力についてお話ししようと思ったんですけどねー」
「……君、交渉下手ね」
交渉なんて秋斗の仕事だからね。
「もともと口下手なんですよ。なので、嘘をついてもすぐにばれるんです」
「どうします??」
要さん、なんで灰崎さんに聞いてるんだろ。
「冬陽くん、先に君の能力について話してくれればいいわよ」
「おいおい、正気か?」
「ええ、もちろん」
灰崎さんに決定権があるみたいだね。岩西さんじゃなくてありがたいや。
「わかりました。でも危ない能力だからって監禁されるのは嫌ですからね?」
「前回のように逃がしはしねーよ」
おー怖い怖い。
「はは、僕の能力は他人の能力をコレクション出来て、それを自由に使えます」
見せた方が早いだろうから本出そ。
「今使える能力はこの本に全部載ってます。見ます?」
「貸して。あら、私たちの能力も使えるの?」
「ええ、あのとき他人の能力が見たいって理由話したじゃないですか」
あのときは本当に助かった。
「……凄いですね。その能力。この前脱獄しようとしてた奴らの能力も載ってるんですか?」
「ええ、彼らはここの時止めるやつと、これ、次元移動です。あとこの空間想造ですね」
「うわぁ」
「2ヶ月あったにしては少ねーな」
わかる。ほんとそれな。
「こんな便利な能力なんですけど、持病のせいでそんなに時間が無いんですよ。皆さんからすれば僕がここに遊びに来たのは2ヶ月前みたいですけど、僕にとっては昨日のことなんですよ」
いやー、厄介な病気を発症したものだよ。
「どういう意味ですか?」
「僕、一度眠りにつくと暫く起きれないんですよ。今日だって、一度寝て起きたら2ヶ月経ってたんでびっくりしました」
「こいつ作戦に参加させて大丈夫なのか……?」
頭抱えられてもねえ……。てかここまで話して協力の話が無くなったら泣くよ?
「特効薬があるので、明日なら絶対大丈夫です」
「特効薬、か」
「なにか気になることが?」
「ええ、久野紹悟という学者がいるのだけど、最近姿をみないのよ」
「あ、その人僕の担当医です」
先生忙しいのかな?
「彼女にあったら……いえ、なんでもないわ。早速だけど、明日6時に作戦の準備に入るわ。集合は2月にオープンしたあのショッピングモールの南入り口ね」
「僕は迷彩を使った状態で挨拶して、あとは基本的に自由に動いてもいいですか?」
「あら、慎重ね?」
「ええ、怖い人たちに目をつけられたくはないので」
あんまり意味なさそうだけどね。
「当日は俺たちとはぐれるなよ。ガキ」
ガキって言われるの慣れてきたや。でも岩西さん頑張って上に見ても30代くらいに見えるんだけどなあ。あんまり年変わらなさそ。
あ、悠里くんが帰ってきた。
「お待たせしました。手続き終わりました」
「そっか、お疲れさま。なら、帰ろうか?」
「待って、連絡先!」
「あ、そうでした。これが僕の連絡先です。かからないようでしたら、こっちの番号に掛けてください。同居人が出るはずなので。では」
「失礼しました」
あー、長かった。
「ごめんね、色々と気を使わせてしまって」
「いいえ、こちらこそ。お兄さん、冬陽っていう名前なんですね」
「うん。どっちの名前で呼んでもいいから。さて、今度は一気に帰るよ。あの人たちに僕の能力ばらしちゃったから」
帰りは転移で一気に帰った。はやいと楽。
「ただいま」
「おー!悠里おかえり!夜にいちゃんも一緒だ!」
「おかえりー!お昼ごはんー?」
「あ、もうそんな時間なんだ。すぐ作るから、待ってて。悠里君も休んでていいからね」
なに作るか全く考えてなかった……。
「ごちそうさまでした!」
「はーい。あ、僕もうそろそろ帰るねー。友達を待たせてたんだった。じゃーねー」
さて、やっと家に帰れる。けど、たまにはこういうのもいいね。透明化して転移で帰ろ。
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「消えた!」
「なんでだ!靴も消えてるぞ!!」
「……不思議な人だったな」
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