二章 二十八話 過ぎた時と夏希と冬陽
────夏希視点
春の罪を一部吸収した後、一般人の罪を吸収していった。何人も何人も。時間の流れが分からなくなるくらい、たくさんの人を襲った。あれから何日経ったのかすら分からない。
でもそのお陰でかなりの力を得ることができた。今も、罪を奪った直後だ。
……街の黒い影から足音が迫ってくる。たっ、たっ、とゆっくり確実に。嫌な予感がする。
「やあ、君はずいぶんと罪を持っているみたいだねえ。それ、僕にちょーだいよ」
こちらへ向かってきたのはかつての友人とは認識できないほど、変わり果てたあいつだった。でも、確かにこの目が、眼前に立つ人物をあいつだと示している。わかっている。わかっているけど、こんな。
「……冬陽、どうしたん?」
「僕の名前知ってるんだ。もしかして、僕の友達かなにかだったのかな?」
ねっとりと、舐めるように品定めされる。鳥肌がやばい。
「ああ。ほら、お前と同じところで作ってもらったブレスレットだ」
「本当だ。僕と同じ」
「それに、首にかけていたネックレスはどうしたんだ……?」
「神金が朽ちちゃったから残ってた宝石はチョーカーに付け替えたんだよ。そのことまで知ってるんだね」
どうしてか、とてつもなく怖い。こんなことを感じる相手じゃないはずなのに。
「まあどうでもいいや。僕の遊び相手はあの子だけで十分だから」
「……秋斗か?春か?」
「違う違う。その子達も友達だったの?まあいいか。君にだけは僕の友達を見せてあげようか。せっかくここに来れるんだから。……【罪の涙】」
冬陽の声に応えるように、首に巻かれたチョーカーからどす黒い罪が、大鎌が現れる。堪えきれず、こちらも罪を呼ぶ。
「【罪代】」
見える景色が変わる。冬陽からのプレッシャーは多少楽にはなった。それよりも、チョーカーの先についている涙の形の透明な宝石から2色の力が溢れていることが気になる。どす黒い罪の中でも呑まれないだけの力はある。というより、罪より強固な力を持っている。
「あー、君も罪を扱えるんだ。それならさあ、とおっっても楽しい時間を過ごそうよ。こんな世界じゃない、とっても素敵な場所で、さあ?【大罪の雨:遊戯盤】」
世界が罪に覆われ、切り取られる。すっぽりと、あの世界の邪魔なシステムだけが取り除かれた世界ができる。
「……お前の罪、俺が貰い受ける」
「そんなことさせないよ?罪を貰うのは僕の方。罪を集めてやらないといけないことがあるんだ」
「俺は奪われたものを取り戻して、約束を果たすために。冬陽、お前はなんのために罪を集めるんや?」
「あの世界をぶち壊すために決まってんじゃん。システムを作ったのはあいつらだから、あいつらごと壊して終わらせるんだ」
一瞬、罪の世界に亀裂が走った。
「きーちゃった聞いちゃった。夏希、冬くん止めるの手伝うよ。【逆ノ罪、笑声昇華:神剣フィルーシャ、罪剣ルシャーダ・狂歌】
「君の罪は美味しそうだ。ねえっ!一口食べさせてよ!」
ぎりぎり見えるスピードで大鎌が振るわれる。春はわずかに横にそれてかわした後、蒼い剣を10本に増やして冬陽に攻撃を仕掛けた。
「少ないから罪に軽く触れても抉ることすらできないんだー。ちょっとショック。【大罪の雨:罪の証】」
冬陽はそれらに意識すら向けず、大鎌の石附部分を地にコツンとぶつけ、新たな術を発動した。
また言葉に応えるように罪が蠢き、大鎌は宙に浮き、右手に銃が、左手に短剣が生まれた。
「これ痛いから当たらないように気をつけなよー」
春の剣を銃弾で砕いた後、大鎌が2つに分裂し、俺たちに飛んで来た。
「これ増えるかも」
「だな。《前みたいに》受け止められるか?」
……前?いつだ?思い当たらない。
「そー……だね。半分貸すよ。僕はあっち」
視界が蒼い剣に覆われる。……切り裂かれる気配を感じて罪代の力で春の剣を自分に対して無効化しつつ、不可視・不可侵で保険をかけながら罪を剥がされないように回避行動をとる。
「【不可視・不可侵】」
「あー、君避けるの上手いね、ご褒美に鎌を増やしてあげる!」
「そんなんいらんって!!【重力剣】」
やっぱ隠れられないか。
春の剣をもう一度すり抜け、冬陽に攻撃を試みる。
「よっと。君の剣甘いね。もっともっと強くしないと。僕のみたいに」
冬陽は俺の剣の上に立ち、自らの持つ短剣を軽く振るった。重力剣はバターのように斬られ、解れた。だが、これでいい。
「うわっと」
荒く構成された重力剣は弾け、冬陽の体にまとわりついた。その隙をついて、春の剣が冬陽に迫る。が、鎌に防がれる。
「じゃ、次は僕の番だよ」
「っはあ、はあ……春、こいつ隙がなさすぎる」
「……ふうー……。罪に阻まれて精霊さんも呼べないし、従者も呼べないみたい。この世界よりあっちの方がまだ勝算あったみたいだね。夏希、僕の目治せる?そろそろ見えなくなってきた」
「……はい。でも、目には攻撃受けてないよな」
「これ、代償なんだ。笑声昇華の。片目だけだからわりと日常生活とかは平気なんだけど、こんな状況じゃ、ね。さて、次はどうする?」
んー、魔女の力が残っていればまだましだったかもしれんけど、生憎もう残ってないし。詰みか。
「楽しくない。ぜんっぜん楽しくない。ねえ、もっともっと本気を出してよ。君たち、もっと強くなれるでしょ?」
「それなら、素質をもっと引き出してみなよ。昔の模擬戦みたいに」
「楽しくないっていってんじゃん。やっぱり君たちじゃ足りない」
いや、ほんと化け物かよ。強すぎやしませんか。始祖化した吸血鬼と神の二人がかりでこっちが押されるとか、やっっば。
「【召喚:罪の禍壺】」
不思議なことばが響く。
不意に、思考と体が切り離されていたことを思い出した。そして罪の世界がなくなる。俺たちの罪も、一部を残してほぼ吸いとられる。
「喧嘩するなら後でやってくれよ!お前たちのせいもあって表世界のバグが致命的なレベルになってんだよ!!ばか!」
久しぶりに聞く声はたしかにそう叫んだ。




