二章 二十七話 償い終わった罪
────夏希視点
「ここは、どこ?」
きょろきょろと、春は標的を探すように虚ろな目で領域を見回す。お望みなら、いくらでも用意しちゃるわ。
「【影人形】」
真っ黒な人形に気づいた春は、目を輝かせた。
「そんなこと、関係ないや。捧げる贄は多い方がいいっ!」
妖しく微笑み、春は影たちを斬り始めた。
影を切るだけなら罪は増えない。これで少しでも気が晴れて、大人しくなってくれればいいんやけど。
いくら待っても春が落ち着くことはなかった。それどころか、どんどん正気を失っていった。
「もっと、もっと!!まだ全然捧げたりない……こんなんじゃ、会えないまま終わっちゃう!」
とても、この時の春が不安定に思えた。だから、つい染めてしまった。それが一番早いのはわかっていたから。
「春」
春が俺の声に振り向く。春の瞳から意識を隠す。虚ろになった瞬間に、一気に奪い、ゆっくり、ぎちぎちと染め上げる。誰かの悲鳴が聞こえる。そんなの、知ったことか。
「じゃマするの?」
「イや。一人より二人で一緒に遊ぶ方が楽しいヤろ?」
声がだぶる。言葉と代償が混ざる。まだ完全に罪を形に出来てないのか。
春の全てを急に浮上させて揉みくちゃにする。……きた。
「それなら、一緒に、ネ?」
支配して、強制的に力を引き出す。
「『笑声昇華』」
最初から最高潮になるよう、状況を整えた能力によって、一気に九つの剣が生成される。だが何故か、一本だけ、九番目に生まれる刀型の剣だけは姿を変えていた。蒼色の透き通る刀身に、白の縁取りが成された綺麗な刀だった。
能力を維持したまま、春の意識と感情をもとに戻す。染めた色を抜いていく。
「春、どーしタん?その九本目いつもとなんか違うケど」
「……!これは、あの子の」
春が剣に触れた瞬間、空に浮いた8本の刃が春の体を貫こうと動き、それを阻止するように蒼の剣は無数に分裂して春を覆い隠し、二色の剣は争い始めた。
そうして暫く経った後、紅い剣は動きを止め、蒼い剣は1本に戻った。
「そうだ、それが僕の名前……。わかった。お願い」
きっとあの剣と話しているんだろう。あの剣たちは特別なものだから。
次の瞬間、一本目の紅い剣と九本目の蒼い剣は重なりあい、一つの剣になった。刀身は紫色で、透き通っていて、銀色の縁取りが成されている。
「剣として、暫くよろしくね。今度は、離れてあげないから」
刀は空間に溶け、消えた。無事に、終わった。罪の鎖はこれで絶ち切れたはず。染める時に見ちゃったけど、春の背負う罪が前世で償い終わった罪だったなんて不思議なこともあるもんだな。
「春」
「夏希……ありがとう、ね。今までの借りは絶対に返すから、もうちょっと待ってて」
春はそう言い消えてしまった。一人残った俺はこの場にある罪の残滓を全て吸収する。やっと、一人目。
きっと、これを繰り返せば全て元に戻すだけの力が得られるはずだから。俺の望む未来のために。




