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いつかの夢と僕らの日常  作者: 古屋
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二章 二十四話 鳥と姉妹②神ノ鳥と神の姉妹

────ルフ視点


少し休むだけのつもりが、離れるに離れられなくなって神の地から少し離れた泉に居座って数年経ったある日のこと。


「とりさん……似合ってる、かな?」


恥じらいながら、いつもの動きやすい服装とは違い、着飾ったリルははにかんだ。後にルシャから聞いたが、あの日は『リルシア』が神として認められた日だったらしい。


『似合っているが、良いのか?我の前にいて。先日神々に叱られたのであろう?』

「ははは……うん、すぐ帰らないと。明日からはここに来れなくなるから、最後にとりさんにこの姿を見せたかったの。それに、最後のお願いもしに来たの。……天上の神が一柱、リディル・サハキリェル・アイテールが、あなたに願います。これから、おねーちゃんをよろしくね」

『は?って、おい!』


リルは走り、へ戻っていった。


「……ごめんなさいね、リルはお転婆だから」

『知っている。しかし、一体今日はどうしたんだ?』


ルシャはそれに答えず、歌を歌い始めた。どこか悲しさが漂う、祝福の歌だった。




それから、リルは来なくなった。そして、ルシャが神の地に帰ることは無くなり、私の近くで常に過ごすようになった。


「ルシャ、お前は帰らなくていいのか?」


ある日、こう聞いたのだ。


「…………私ね、歌を歌うことが好きなの。だけれど、人前で歌うことは赦されなかったの。私の歌は人を魅いり、幸せの内に殺してしまうから。そのせいで、父様に言われたの。『あの白い大鳥おおとりを武器などを使わずに殺して見せよ。そうすれば、お前を神と認め、神の地へ戻り、妹と暮らすことを赦そう』って。ねえ、ルフさん、あなたはどうして私の歌を聞いても大丈夫なの?」

『私は人々からの声を聞く耳を、欲深いヒトの子に切り落とされたのだ。昔、私が生命の木と呼ばれていた頃の話さ』


姿を変えても、名に刻まれた過去は変わらないからな。


「……それなら、なぜ私たちの声が聞こえるの?」

『聞こえない。ただ伝わるのだ。ルシャの声は綺麗で澄んでいて、伝える力がある。リルの声も同じく澄んでいるが、ルシャと違って憂いが少ない。だからお前たちの声が聞き分けられる。が、欲深い、汚れた聞くに耐えない者の声は聞こえぬ』


私の言葉を聞いたルシャは、再び歌い始めた。何故か、少し嬉しそうだった。やはり、ヒトの子の考えはわからぬ。




私に身をよせ眠るルシャ。夢の中でうなされているのか、身を捩り、涙を流している。嘴が届きそうだったので、軽く触れる。


「とりさ、ん……き……ん……っ!?」


今度はばさっと身を起こし、辺りを見回す。


『ルシャ、どうした』

「とりさん……なんでもないの。ちょっと、胸の奥が痛かっただけなの」


嘴で全身を小突く。


「んてっ、違うの!」


ルシャはやりきれない気持ちを乗せて、歌を歌った。いつもとは違う粗削りの歌は、静寂の中よく響いた。




翌朝、神の地から数人の男がやって来た。なにやら喚いているようだが、奴らの声は聞こえない。だが、ルシャの顔色はどんどん青白く変わっていく。


『どうしたのだ』

「リルが、父様が……多くの人が死んだの。私の、昨日の夜の歌によって」


最後の言葉は、声を伴わなかった。それほどに、衝撃的なものだったのだろう。男達は顔をしかめながら、早々に帰っていった。ルシャは男達に声が届かない程に時間がたった後、悲しみを溢れんばかりに乗せて歌った。




ルシャはあの日からどんどんと衰弱していった。


『ルシャ、何故拒む』


ルシャはもう喋れない。だが、確かに伝えてきた。


『私の名はルシャールカ・ヤシ・ナナ。こうなることは、きっと決まっていたの』


いくら治そうとしても、ルシャは、これは運命だから、と拒み続けた。


それならと、私は手を打った。

そのお陰か、ある日を境にルシャは歌えるほどに力を取り戻していった。


代わりに、私の命が朽ちていく。


「とりさん、どうしたの?」

『……我の名はファウスティトス・アウタナ・ロック。豊穣の神の名を貰い、切り倒された生命の木の名を継いだもの。今まで歌を聞かせてくれたお礼だ。さあ、ルシャナよ、神の地へ戻るがいい』



私が事切れた後のことを私は知らない。

だが最後に、彼女達の二人で歌う特別な歌がもう一度だけ聞きたかった。ただ、それだけが心残りだった。

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