一章 三十八話 王との試験
────冬陽視点
【皆様、クリアおめでとうございます。次の試験では王と戦ってもらいます】
そう声が聞こえた。目を開く。闘技場みたいな場所に僕らはいて、反対側には強い圧を放つ《王》がいた。タヌキじゃない人形の王は左手に短剣を、右手には籠手を装備してる。たぶんこっちの姿が本物。
「準備が出来たらかかってきなさい」
ああ、いいね。さっきまでの熱を持て余してるからこそ、強者との闘いはとてもぞくぞくするんだよ。
「冬くん雰囲気変わったね」
「春こそ。獲物の独り占めはだめだからね」
「わかってるよ」
「秋斗は消耗してるっぽいからサポート。余裕が出てきたら未来視使いつつ翻弄して。夏希は任せる」
秋斗には指示をしておくけど、夏希はこっちのほうが面白い動きをしてくれるから。さ、たくさん面白いことをしてね。
「あい」
「りょーかい」
「んじゃ先にサポートしとくね」
簡易障壁、回復促進、風迅、迅雷、負荷軽減、特殊探知をみんなに付与。コップ4つを想造して、身体能力向上の能力を混ぜながら水を生成する。そしてその水をコップに注ぎみんなに渡す。
「喉潤しといて。途中で乾いても飲めないから」
「おー、ありがとーなー」
「ありがと」
「さんきゅ」
それから範囲防護を本来の使い方とちょっと変えて、簡易障壁の内側に張る。これで安定すればいいな。最後に透明化。まあこんなもんでしょ。
ここじゃまだ熱を作れるみたいだから、仕込み笛の刀の部分だけを収納空間から出して、それで存分に遊ぼうか。
────春視点
冬くんの能力のおかげでとても動きやすい。ここなら、一緒になっても大丈夫かな。少し集中して呼んでみる。
『さっきはありがとう。突き放しちゃってごめんね。ここなら大丈夫だから、一緒に遊ぼう?』
『面白い子』
『面白い子達』
『いいよ』
『遊ぼう』
染み渡る。同じ。僕らはひとつ。元の形は……。
今までとは違った形で、僕の中から声が響く。二人の声で同時に《あれを壊せばいいんだよね》って。
そうだよ。壊そう。僕らのために、あれを壊すんだ。
────秋斗視点
冬陽が王目掛けて飛び出す。少し遅れて春も。速いなー。能力が底上げされてるから見えるけど、あいつらなんかやべえな。
夏希は俺の横にいるままで、丁寧に重力で糸を紡いでいる。
「なにしてんの?」
「糸作ってんの。今回の武器。秋斗にも協力して欲しいことがあってな」
「あー、いいなそれ。やるわ」
「別に未来覗かんくていいのに。早くて楽やけどなー」
「なー。てかその糸に細工していい?」
「なにすんの?……あの不思議な力でも混ぜるん?」
「そそ。俺の力混ぜて、しなやかで切れずらくしようかと」
「あー、いいなそれ。お願いするわ」
そんな感じで突如始まった内職じみた行為に俺らは暫し没頭するのだった。
────春視点
足りない。もっともっともっともっともっと。力だけじゃない……全部足りない。
『増やしてあげる』
『助けてあげる』
ありがと。
エネルギーで作った剣にもらった力を纏わせる。あの剣を折れればっ……!
ああ、やばい。力が溢れてくる。めっちゃ……めっちゃ楽しい。
────冬陽視点
針みたいな細い刀にエネルギーを喰らわせて、刀身を長く固く薄く、少し大きくする。
王に刀を振るうけど、防がれる。どんな角度でも。やっぱまだ足りないね。秋斗たちの参戦を待ちながらウォーミングアップを続けよっか。まだ楽しい時間は始まったばかりだからね。
熱量が少しずつあがってく。いいなこの状況。遮るものがないっていいね。……ん、でも、理性って案外邪魔なんだね。どうしても少し冷めちゃうや。
王の死角から黒い糸が飛んでくる。来たね。少し離れて風の針や水の針、氷の針、雷を沢山の方角から王目掛けて飛ばす。
春も少し離れてなんかたくさん飛ばしてるね。……あ、てか精霊たくさん集まってきてる。いいじゃんいいじゃん。もっと楽しく遊べそう。
王が針ネズミみたいになるかと思ったら、寸での所でかき消えた。意志の力を表に出したんだね。でも本番はもう少し後なんだ。時間を稼ごうか。
あ、秋斗と夏希にリンクと脳内転写を追加で付与しよ。その方が早く整いそう。
────秋斗視点
あ、繋がった。夏希、俺の思考見えるよな。この風景を再現しようと思うんだけど。
あい、りょーかい。冬陽の能力で大分回復してきたからもう行ける。
んじゃもうちょいか、おっけ。
了解。最初から全力で。冬陽もそれを望んでるし、春も肌で感じてると思う。
んじゃ、いきますか。
────冬陽視点
王の正面に転移陣が生まれ、糸が飛び出る。
王はそれを避け、剣で切る。切られた糸は暫し勢いのまま飛んでいたが失速し床に落ちた。
夏希が重力すら切れる剣を王に向かって振るう。王にそれは見えないはずなのに、確実に籠手で弾かれる。
夏希は弾かれた勢いに重力を追加して後ろへ下がる。そして秋斗に合わせて糸を操る。
僕も春も遠距離攻撃の手を緩めない。
糸がまた転移陣から飛び出すが、同じように切られる。長い方の糸は新たな転移陣に吸い込まれ、別の転移陣から王目掛けてまた飛び出す。切られる。飛び出す。切られる。
どんどん糸は短くなっていく。二メートル程の長さの糸が7本、王の周囲に落ちている。それを秋斗が細工した、糸のみを転移させる陣で王の足元に転移させる。
準備は整った。王の思考を能力で奪い、行動を止める。……あまり持たないかも。結構抵抗感じる。
夏希が糸を重力で器用に操り、王が止まっている隙に王の体をきつく縛っていく。その糸には、地面を伝わせて少しずつ春がエネルギーを込めていったから、先程よりも何段階も強固なものになっていて、王はされるがままに縛られていく。
まだ滲み出ている意志の力、まあアニメとかで言う覇気とか気みたいなやつだね。その壁は固いけど、なんとかなるでしょ。
僕、春、夏希の順に、少しずつタイミングをずらして王に剣を振るう。秋斗には思わぬ反撃に備えてもらってる。
……作業ゲーみたい。作業ゲー嫌いなんだけどね。なにやってんだろ僕。
冬陽の刀に王の表面の壁は少しずつ吸収され、春の短剣で細かい傷が増え、夏希の剣で深い傷が増える。
少しずつ修復されてはいるものの、王の体に傷がつくのは時間の問題だと思われていた。
あと少しで壁を突破できるといったところで、王の右手に装着されていた籠手が光り出した。その光りは王を包み隠すまでに強くなった。
僕たちは王から離れて様子をみる。籠手の光が収まると、王の覇気と光り輝いていた籠手は消え、王の右手には人の腕程の長さの剣が握られていた。
「次は剣技だ。お主ら、皆剣を使えるのだろう?」
うわめんど。やっぱ嫌いだわこいつ。熱とテンションが大分下がっちゃったけど。まあ燃やせるだけマシか。
『秋斗、剣あげるからこっち来て』
秋斗が転移してこっちに来た。秋斗に合うように剣を想造する。
『はい』
『さんきゅ』
……最後に、首元に刃突き立てれば終わるよね。
《あいつ》に試されはじめて結構な時間が経った。常に回復してるからバテたりはしないけど、もうそろそろ鬱陶しい。
『ね、もうそろそろ終わらせるよ。春は全力で風の斬撃。わかる?』
『おっけー。でももう終わらせるの?』
『飽きてきた。てか飽きた』
『そっか……』
『夏希も斬撃。重力に色をつけて視界を遮るみたいな感じで』
『あい』
『秋斗は王の真後ろから斬りかかって』
『ああ』
『んじゃよろしく』
さて。終わらせるか。気配を薄くして……殺気を押し込めて。みんなの攻撃の合間に転移して、刃を首に当てる。そして殺気と残りの熱を刃の先から放出する。
上手くいけばこれで頭が吹き飛んだんだけどな。意外と固かったみたい。
「……降参だ」
【これにて試練は終了です。報酬は始まりの間にて継承されますので、暫しお待ちください】
つまんないの。もっと楽しい戦いなら歓迎なんだけどな。模擬戦の方がずっとずーっと楽しいや。まあ、熱は大分使えたからいいか。てか冷めたし。
申し訳ありません。少し投稿頻度下がります。
次話更新→7/10 19:00




