一章 三十七話 王の試練 冬陽編─主の躍動
────冬陽視点
四角い部屋に僕はいた。気が付くと、僕によく似た人間に首を絞められていたんだ。苦しい気がするけど、不思議と苦しくない。
「あなたは、だれ」
「僕は僕さ。君と同じ」
視界の片隅で砂時計が見える。
「じゃま、しないでよ」
「嫌だよ。これは必要なことなんだ」
少し、手に力が込められる。声は確かに出しづらいけど……。
「誰の、ために」
「もちろん君のためさ」
「なら……手を、離して」
「自分でやってごらんよ。ここに君を遮るものは無いんだから」
「嫌だ、よ」
「怖いの?」
僕の首を絞める彼は僕に近づいて耳元でこう呟いた。
『また、全て壊してしまうのが怖いんだね』
……なんのことかはわからない。けど、気づいた。彼は能力でこの部屋の、いや、僕たち以外の時間を止めていることを。感覚で分かるし、なにより砂時計の砂が動いていないんだ。
これは、僕の能力だ。僕がコピーした力の一部。彼は本当に僕だ。何故か確信できてしまったけれど、一応彼に問う。
「君は、僕?」
「さっきそういったじゃないか。まあ、それが分かったならいいよ。まずひとつめ」
もう一人の僕は、僕の首から手を離した。苦しくなくなったはずなのに、呼吸は今までと変わらない。体が空気を求めていない。何故か、それは今までが苦しくなかったから。
……そして不思議と、彼と同じ空気を吸っていたくないと感じた。体に良くない物質を現在進行形で取り込んでいるかのような、奇妙な感覚がある。
「君は何が目的なの」
「君がオトモダチと再開して、もう一度理想を思い出すこと」
「……なに、それ」
彼が言う友達も理想も心当たりがない。
「わからないでしょ。思い出すには、君の全てを表に出して貰わないといけないんだ。ここに壊れるものはいないから、存分にやっていいんだよ」
そんなこと、する必要はないのに。何故か、彼の言葉に従った方がいい気がする。
「たとえ全てを表に出しても、ぶつけるものが無いでしょ」
この力……は、霧散させるには過ぎた力だ。
「砂時計。あれにぶつけなよ。異物が作った歪で頑丈な物体だから、君にはぴったりだよ」
なにがそんなに面白いのかわからないけど、彼はクスクスと笑っている。
……やらなきゃ。
目を閉じて、集中して、奥に燻る力に炎をつけなおす。生まれた熱で、使われることが無さすぎて固まってしまったエネルギーを柔らかくする。
「そう。そのまま魂を気体にしてしまうんだよ」
「魂……?」
「そのエネルギーだよ。魂に蓄積された、通常使われることのない別種のエネルギー。時間経過で回復はするけれど、一気に使うと魂の器にダメージが及ぶ。それを全部使うんだ。君には耐性があるから、《目覚めさせる》にはそれぐらいが調度いいだろう」
声が悪意とともに入ってくる。そっか。忘れられた彼は妬んでるんだ。たぶん、何かを忘れてしまった僕の事を。でも、君は何なの?なんでそんなに知っているの?
そんなことを考えながら、ひたすらエネルギーを練りながら、熱量を上げていく。
暑い……体が、心臓が、喉元が熱い。でも、これを放つには早すぎる。もっと、もっと。
完全にエネルギーが気体になって、奥底から全て表面まで上がってきた頃、その力を、外に溢れ出た分もあわせて、体に纏わせる。
本当なら、声に込めるのが一番楽で強力なんだけど、今回は別の使い方をする。
器を想造する。この気体と相性がいい、音を奏でられる……仕込み笛にしようか。仕込み笛を想造する際に、エネルギーを大量に混ぜる。
完成した後、刃を抜いて、余ったエネルギーを纏わせて、吸わせて、軽く砂時計に当てる。それだけで、音も生まれずに砂時計はバラバラに崩れていく。砂だけは、刃に吸い込まれていく。吸収されていく。
こんなに呆気ないだなんて。これじゃこの熱をまるで生かしきれない。つい、声が不機嫌になる。
「ねえ」
「ふふ、なんだい?」
「全然やりたりないんだけど」
「そうだろうねえ。君のことだ」
ニヤリと彼は笑う。
「暫く付き合ってよ。この熱を思い出させたのは君なんだから」
「喜んで」
彼は僕に忠誠を誓う騎士のように跪いた。
熱が少し落ち着いた頃には、空間がぼろぼろになっていた。
「ちっ……これ以上はここが持たなさそうだ。僕はおいとまするよ」
「待って、まだ足りないんだけど!」
そう手を伸ばした頃には、もう彼は消えていて、辺りは様変わりした。砂時計は壊れたままだけど、新たに罠や凹凸が現れた。
【時間内に旗に触れろ。過程によって評価値が変動し、評価値によって報酬も変動する。健闘を祈る】
砂時計が壊れている関係で時間なんて分からないんだけども……。まあ、全部壊しちゃえばいいか。
さっきの仕込み笛、それに息を吹き入れて音を奏でる。力の籠ったこの音に、この空間は耐えられない。
【ミッションクリア……評価値7。壊しすぎだ。だがスピーディー過ぎるそのやり方……以後対策をすることにしよう。貴重な資料をありがとう】
そんなことよりも、この熱を冷まさせて。暑すぎておかしくなりそう。ぶつける相手をちょーだい。はやく。はやくして……!




