一章 三十四話 王の試練 春編─声と一緒に
────春視点
【時間内に旗に触れろ。過程によって評価値が変動し、評価値によって報酬も変動する。健闘を祈る】
はあー……んじゃあズルは駄目だね。頑張ろっか。
風が正面から吹く。徐々に強くなっていく。風の壁を作ってそれが僕に来ないように受け流す。これぐらいなら平気。
と思っていたら、後ろから猛スピードで何かがぶつかった。気配なんて無かったのに。
そのままロボット?岩?よくわからないものがのし掛かってくる。重っ。
「なにこ、れ」
呼吸が辛い。荒く鋭い呼吸を繰り返す。圧し潰されそう。胃から液体が食道を通って押し出されてくる。吐きそう。苦しい。早く逃げなきゃやばい。本当に潰されちゃうっ……!
だが、春にのし掛かる物体は春に密着していて、逃げ出すための隙間さえ作り出せない。
重力とはまた違う圧に春は限界を感じながら、打開策を模索し、その方法へと至った。
体と物体の接地面の部分からエネルギーを滲み出して体をコーティング。そしてそのコーティングの内側に風を生み出し、勢いでコーティングもろとも物体と吹き飛ばす。
初めて死の気配を強く感じた春は暫く荒い呼吸を繰り返していた。やがて、涙が流れ始めた。
なんで。どうして。僕は。大晦日にこんな状況に陥ってるんだろう。
「……助けて」
思わず零れた言葉。ネガティブな感情に支配され、過呼吸に陥りそうになる。が、どうにか落ち着こうと、自分を囲うように風を生み出した。誰にも邪魔できないような、強い風の流れを。
その中で、いつもの様に瞑想をする。鋭く浅く荒い呼吸を少しずつ、自分の意思で深く、ゆったりとしたものに変えていく。
風の膜は解除したけど、やばいかも。一気にエネルギー使い過ぎたみたい。苦しいけど、ここから旗を探さなきゃいけないの?
『困ってる』
『困ってるねー』
『助けてあげよっか』
『ニセモノを?』
『本物かもしれないよ?』
『助けるの?』
『助けてって言ってたよね』
「あなたたちは誰なの?」
僕は声に問いかける。
『本当に聞こえてたんだ』
「うん」
『助けてあげよ』
『壊してあげよ』
前と同じで、ここでもやっぱり歌が聞こえた気がした。2つの、真逆の意味を持った音だった、気がしたんだ。
2つの音が体に染み込む。波打って……なにこれ、見える、見えるよ。全部、見える。
綻びも正解も彼女たちも力のめぐりも僕の命も、《光》だって。
『みえた?』
「みえた」
『わたしと』
「おなじ」
自分が曖昧になるのを感じる。一緒に揺蕩おうとしたけど、砂時計が視界に入った。
「ごめんね、いかなきゃ」
弾かれるように、音はすぐさま体から離れていった。そして、声は聞こえなくなり、見えていた景色が元に戻った。
──
『つまらない子』
『おもしろい子』
二人の妖精はふわふわと揺蕩いながら春のことを眺めていた。
──
さっきみえた正解を目指して、強い風を纏って空を飛ぶ。だんだん、空気が操りやすくなって、操れる細かさや範囲が上がってく。ワナの位置だって、今なら分かる。どうせなら、全部起動して攻略しようか。今ならできる。
全ては、僕のために。僕が強くなるためにある。
【ミッションクリア……評価値7、と言いたいところだが少しは砂時計を確認してほしかったな。余裕があったにも関わらず時間ギリギリのため減点1。よって評価値6だ】
そんな評価なんてどうでもいい。《僕》の糧は多い方がいいから。




