一章 二十七話 なにこの……なに?
────秋斗視点(?)
パキリ、しゃくしゃくしゃくしゃく……。こくん。
「なにこのキュウリめっちゃ美味しい」
「でしょ。僕が育てた」
なんじゃそりゃ。
「冬くん凄い……」
「食べながら喋んないの」
口の中が見えないように喋る二人。
「お前ら仲いいな」
山のようにざるの上に積まれているキュウリ。それをただ黙々と……いや、美味しすぎて唖然としながら食べる男子大学生三人。不思議な光景が部屋に広がる。しゃくしゃくしゃくしゃく……と、キュウリを咀嚼する音だけが部屋に響いていた。
キュウリがなくなるまでは。
「あっ……」
「……食べ過ぎた、のかな。なんかまだまだ食べれる。でも夏希の分……あれ?夏希どこか行ったの?」
「……トマト食べたい」
「あ、いいね。収穫して冷やしておいたやつがあるから食べよっか」
そう。これは生野菜をひたすら食べるという光景の始まりにしか過ぎないのだったのだ。
「ただいまー」
テンション低めの夏希が家に帰って来た。それなのに、彼らのもぐもぐタイムは終わらない。
「おはえり。はへる?」
「……いや、あの……なにこの……なに……?」
夏希は戸惑いながら暫くそれを眺めていた。
正気に戻ったのか、それとも、ここまで人を虜にする食べ物に興味を抱いたのか、おそるおそる、夏希も手を野菜に運び、魅惑の野菜をゆっくりと口に運ぶ。
「あっ美味しい。料理つくろか。てか作らせて。その野菜出せるだけ出して。メニュー考えるから」
帰宅時のテンションとは違い、野菜を食べた夏希は静かな闘志を燃やしていた。
──
夏希によって作られた料理が所狭しと並べられたテーブルを4人は囲み、ある種幸せな時間を過ごしていた。
「れ、ろろいっえはほ?」
「は?」
「ははら、……っくぅ。だから、どこいっへひゃの?」
「食べながら喋るなって。取り分けられた分しか食べないから。まった、春、人の食べ物とるな」
「だってお腹いっぱいになんないんだもん!!」
「……不思議だよな」
「能力者のせいやろ」
「そうなのかな。幸せだけどお腹すいたー」
「ほんとだ。飢餓だって。能力者絞めて来てよ」
「あ、僕行ってくる。食べ物に関わる恨みは怖いってことをザクッと教えてくるネ」
誰にも止められなかった飢えた狂犬は、猛スピードで移動し、場所を教えられていなかったにも関わらず路地に横たわっている人間を見つけた。この間、10分も経っていない。早業である。
「あなたが飢餓の能力者?」
「……た……すけ……し」
助けて、死ぬ。空気の震えからその言葉を読み取った春は、一旦それの意識を刈り取り、家に運ぶのだった。
それから家では、その死にかけ能力者の体調ケアともぐもぐタイムが始まった。
そして、その能力者は頃合いを見て第二世界に放り込まれるのであった。
「なんかまだお腹空いてるんだけど」
「もう僕が育てた野菜無いよ。流石に品切れ」
「えっあれ冬陽育てたんか……」
夏希は冬陽を拝んだ。
他の三人はそれを気にせず話続ける。
「なに食べたい」
「んー……」
「たこ焼き」
「あっ、粉ものいいね。でも粉系買ってないよね」
「な。そこが問題だよな。他なに食べたい」
「……おすしは?まだぎりぎりデリバリー行けるでしょ」
時間的に、と冬陽が言う。
だが、もちろん隔離区域内に届けてくれるお店なんて無い。
「ここじゃ無理だろ」
「ならさ、区域外行っちゃおうよ。食べ歩き。散歩。買い物……しよ?」
空腹に突き動かされた3人は、冬陽の発言にキラキラと目を輝かせていた。




