一章 十三話 平和な夜
────冬陽視点
そー、っと扉を開けて部屋に入る。
「ただいま。秋斗」
寝てるといいな…。
「おかえりなさい。冬陽さん。お久しぶりです」
あれ?この子は……。
「楓さん……?」
楓さんは四人の中でも特に消極的で、他の人格との繋がりさえ絶ち切ってるんだよね。いつもは出てこないのにどうしたんだろ?
「そう、です。楽しそう、だったので、つい、出てきちゃい、ましたー」
そういって楓さんはふにゃって笑った。
そっか、今の環境は楓さんも落ち着けるんだね。
「そっかー、久しぶり。ねえ、楓さん。貴女は彼らと繋がってないもんね?」
さっきの見られてないよね?
「繋がり?……無いです、よー?」
よかった。……そういえば、楓さんなら大丈夫かな?
「だよね。それでさ、もし、来てくれるならでいいんだけど。貴女のために器を用意したら、来てくれる?」
管理者の一人としてこっちに来てくれればいいんだけど。
「贄は嫌ですよー。わかってます、よね?」
昔、誘拐されたときの事、根に持ってるんだね……。その気持ちは僕も理解出来るんだけど。
「もちろん。もうすぐ紛い物の世界を創るんだけど、管理者が足りなくてさ……。いい?」
でも、そこに居るよりはこっちの方が楽しいと思うんだよね。
「私は、ある程度の《自由》さえあれば、冬陽さんについていきますよー」
よかった。ならすぐにでもあっちを創らなきゃ。
「そっか、ありがと。それなら、明日の23時くらいに迎えにいくね。その時に、よろしくね」
何も起きなければいいんだけどね。
「はーい。……ごめん、冬陽。少し寝てた」
あ、楓さん行っちゃった。……なんか眠くなってきたなぁ。
「別にいいよ。でも、もうそろそろ布団のなかに入れてほしい、かな」
ヤバい。まじねむい。
「ん、どーぞ」
秋斗が空けてくれたスペースに収まる。
「ふー。久しぶりだね。こういうの」
暖かい。
「だな」
どーしよ……てか秋斗も眠そう。
「……眠いの?」
本当に、昔に戻ったみたいだなぁ。
「おー」
じゃあ、一緒だね。
「寝ていいんだよ。僕はここにいるから」
……気休めにはなるかな。
「そっか……おやすみ」
昔から、秋斗の隣は落ち着くんだよな……。
「うん。おやすみ」
────夏希視点
「よい、しょっと」
取り敢えず、春を俺の部屋のベッドにおろした。
『さて、主よ、これからどうするのだ?』
横で起きるのまっててあげようかと思ってるんやけど……。
『なにか気になることがあるようじゃな』
ノヴァ、教えられる範囲でいいから、魔女とか、精霊王とか、色々教えてくれへん?
『……まあ、いいじゃろう。そのかわり、他言無用じゃよ。魔女殿にもじゃ』
了解。
『まず、精霊についてじゃ。精霊は万物に宿り、宿主の性質によって属性を持つ。……あ、わらわは無属性という珍しい属性じゃ。あの精霊王の卵、春といったな。彼は風属性。主はわらわと一緒の無属性じゃ。もっというと、わらわは主の重力操作の賜物じゃ。わらわは主の能力から生まれたのじゃ』
属性の種類はいくつあるん?
『それはじゃな……いや、属性の話はこれくらいでやめるぞ。精霊は稀に人と契約を結ぶ物好きがおる。そやつらは、契約者をサポートする、という義務が与えられるのじゃ』
義務、か。
『次は魔女についてじゃ。魔女とは、不思議な血と能力を持つ人間のことで、あやつらの血には魂が宿るんじゃ。それを血の精霊、血霊といってな。血霊はその者が魔女の血族である証であり、自らの主の魔女を導くものなのじゃ。……魔女殿の精霊も目覚めてるようじゃ。まあ、わらわが魔女について、知っているのはそのぐらいじゃ』
精霊王は?
『……あー、精霊王についても聞かれておったか。精霊王は各属性ごとに一人、たまーに生まれる存在で、自分と同じ属性の精霊を無意識下に支配し従える存在じゃ。はい、終わりじゃ。……疲れたから少し寝る。呼べば起きるからの』
「……うー、なんか、体痛いー」
「おはよう。気がついたんやね。春」
……ちゃんと目が覚めてよかった。
「あ、夏希。なにがあったの?……僕、覚えてないんだけど。いや、稽古、してたんだっけ?」
「そ。稽古中に春が暴走し始めて、ヤバくなってきたから俺が無理やり止めた。ごめんな、春。俺、まだ死にたくなかったから、だいぶ乱暴に気絶させたんよ」
せっかくここまで来たんや。ガチで死にたなかったんよね。
「あ、暴走しちゃったんだ……ごめんね。最近、常に暴走しかけてるよね、僕」
「あっ、自覚あったんか」
「うん、少しでも暴走すると、正気に戻った時に少し記憶飛ぶからさ。あはは」
「そっか。……なあ、これからどうする? ご飯食べれそ?」
「うん。じゃあ、上に行こっか」