15話 領主の決断
「父上!」
「あなた!」
領主似の青年と肩にかかるくらいまで伸ばした金髪の綺麗な女性が駆け寄った。
領主は手で2人を制し
「大丈夫だ。続けてくれ。」
「ハッ! 襲われて我らは部隊を2つに分けました。馬車を守り逃げる部隊・・・それと・・・」
「迎撃して足止めする部隊だな?」
「はい・・・」
ライラは更に顔を曇らせる。
「・・・ナディアは残った部隊に居たのだな?」
ライラは唇を噛みしめ、無言で頷く
「・・・そうか・・・」
力なく呟く領主に先ほどの青年が
「父上! 俺に! このアルトに姉さんの! 姉のナディア救出をお命じ下さい!」
「・・・あなた・・・」
悲しそうに領主へと寄り添う女性に領主は作り笑いを浮かべ
「分かっている。このドーパンを収める領主として、このアドルト・・・くっ!」
アドルトは不意に立ち上がり
「騎士団へ臨戦態勢を伝えよ! 門は封鎖だ! アルト!」
「はいっ!」
自身の意見が受け入れられると思い喜びの表情を見せるが次のアドルトの言葉に愕然とする。
「貴様は、貴様の部隊はガードナのナハト侯爵へ援軍の使者として赴け!」
「なっ! 父上それでは姉さんが! ナディア姉さんをお見捨てになるのですか!」
アドルトは食い下がるアルトを睨み付け
「諄い! 娘1人の命より俺はこの町の! 3000の領民の命を守らねばならぬのだ! 良いから援軍要請にさっさと行かぬか!」
「父上!」
アドルトの隣で座っていた女性が、食い下がろうとするアルトの手をそっと包み込み引き寄せると小声で
「お止めなさい。ここで時間を費やしても良いことはありません。それに援軍が来るのが早ければナディアの捜索に出せる部隊も出来ましょう。」
アルトは悔しさのあまり苦虫を噛み潰したような表情を見せ
「・・・分かりました。急ぎ援軍を求める使者として向かいましょう。」
そう言ってアルトは踵を返し
「ライト! レフト! 大至急馬の用意を!」
「「ハッ!」」
そう言って勢いよく駆け出し扉を閉めずに駆けて行った。
「アルトを頼む。」
「「ハッ! この命に代えても!」」
そう言って2人の騎士が部屋を後にする。
残されたアドルトは隣の女性に顔を向け
「マリナ済まぬ。ナディアは助けられぬ。」
今にも泣きだしそうな表情でアドルトは女性マリナへ声を掛けた。
「・・・あの子は大丈夫です・・・きっと・・・私はそう信じています・・・」
「マリナ・・・」
そう呟きアドルトはマリナを優しく包み込んだ。包み込まれたマリナが声を押し殺し涙を流したということが侍女から出発前のアルトへと伝えられた。