01話 吹雪の森
雪が吹雪く夜の森の中、赤子を抱え歩む人影がある。
その人影はユラユラと力なく進む、地面にはその人影が作った足跡がある・・・赤く染まった足跡が・・・
人影が進む先には一面凍った湖が広がり、その畔には1軒の家から湯気が立ち上り、窓から光が漏れていた。
人影はその家の入り口へとたどり着くと、今にも倒れそうな体に鞭打ち扉を叩いた。
「は~い! どなたですか?」
家の中から女性の声が聞こえてくる。
だが人影は返事をすることなくその場にドサリと蹲ってしまった。
寒さからか、またはその人影を気にするかのように赤子が泣き出す。
するとその鳴き声に引き付けられるように扉が開いた。
扉から出てきたのは白く長い髪を腰まで伸ばし、対照的な黒いローブを纏ったとても美しい女性であった。
女性は赤子の鳴き声に気が付き、倒れた人影に近づくと風にあおられ赤子を抱いた人影のフードが捲れる。
捲れたフードの中から透き通るようなエメラルドグリーンの髪が陰に舞い尖った耳が映し出された。エルフ族である。
あらわになったエルフの女性の顔を見て家から出てきた女性が口を開き
「クレスティーネ! クレスティーネしっかりしなさい!」
雪の中膝を付きエルフの女性を揺する。
すると女性の瞳が開き
「し・・・師匠・・・この子を・・・クレスを・・・お・・・ね・・・が・・・い・・・」
力なく答えたクレスティーネはその胸元から赤子を女性の前に差し出し、女性が赤子を抱きしめると再び瞳を閉じた。
「クレスティーネ! いけない! このままでは! お前たち! お前たち!」
女性が大きな声で家の中へと声を掛けると2人の人影が出てきて
「お呼びでしょうかマスター?」
「すぐに転送の準備! それに彼方に【治療槽】の準備を伝えなさい! 大至急!」
「イエス! マスター!」
指示している間、女性はクレスティーネへ向けて手をかざし、その手から暖かな青白い光が降りそそいでした。【ハイヒール】そう呼ばれる【聖術】の回復魔術である。
女性はふと胸元に抱いた赤子へと視線を落とすと、赤子はもう泣いていなかった。寧ろ倒れているクレスティーネを心配そうに見つめていた。
「大丈夫、大丈夫、必ずこの子は助けます。」
女性はそう赤子に言い聞かせるように呟く・・・まるで自分自身にも言い聞かせている様に・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
そして、あの吹雪の日より15年の歳月が流れようとしていた。