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08.彼と節分と

浩人視点.

冬明け前の夜更け.

 2月3日はまだまだ寒さの厳しい、けれども春直前の日。

 西洋でいうところのハロウィンのこの日、フライパンを熱した俺は、邪気払い用に豆を炒っていた。




「豆って、わざわざ炒るものなの……?」


 黙々と炒り豆を作っていた俺は、後ろから声をかけて来た母親に目線だけ向けた。フライパンを取り出した時点でうろうろし始めていたけど、今日は何だろう。


「調べたら、蒔いた豆から芽が出たらいけないんだって」

「え、市販の豆って発芽するの?」

「殆どしないと思うけど、俺は市販豆のガリッよりもカリカリな方が好きだから。自分でやれば、好きな固さにできるでしょ?」

「ああ、そう……」


 ひとの好みはそれぞれで、母親は海苔とかで塩味の付いた市販の節分豆が好きだったりする。元は同じなだけあって、醤油風味の豆も美味しい。


 にしても、元は魔に属していた『俺』が破邪退魔の豆の用意をするだなんて。()族だからといって別に邪ではなかったけど、魔王陛下にお仕えした『我ら』は人間にとっては恐れるべき存在だったのに。


 俺は十分火の通った豆を皿に移した。粗熱を取って、食べられてしまわれないよう、予め10個を小皿に分けておく。


「母さん、幾つ?」

「……あとで取るからいいわ」


 ちえー、今日こそ歳がわかるかと思ったのに。前に免許証をちらっと見た時にやっとわかると浮かれると同時に、和暦とは何だと気を取られて肝心の年を見逃したのが悔やまれる。

 多分、精々30代の半ば頃なんだろうけど、それにしては老けて見える時がある。多分でなくとも俺の所為なんだろうけど、もっと楽しそうに生きて欲しい。


 今日は恵方巻も作る予定だが、まだ昼を過ぎたばかりだ。夕飯の時間にはまだ早く、けれども豆ばかり食べているのも楽しくない。


 そうだ。俺は仕舞われていたポップコーンと書かれたトウモロコシの袋を引っ張り出した。

 柔らかいスイート種と違って固過ぎるそれは爆裂種とも呼ばれる穀物で、父親が買って来て隠し持っていたもの。今度母さんと内緒でポップコーン作ろうとかはしゃいでいたけど、次の日の朝には見事にばれていたヤツだ。

 どうせ炒れば嵩が膨らむし、少しだけ失敬する。


 火を点けたから、また後ろでうろうろし始めた気がする。俺はフライパンに蓋をして、振り返った。


「どうしたの?」

「……節分に、ポップコーンは撒かないけど」


 やけに真剣な表情と声に、俺は思わず噴き出した。


「い、いや……普通に食べる分だからっ」


 そもそも節分じゃなくても、ポップコーンは撒かないから。少なくとも、家にはその習慣はないでしょ? 笑いながらそう言えば、母親は目を真ん丸にして。




 ぱんっと弾ける音が、確かにした。




 熱々で、湯気を立てる白い塊たち。俺は10個、豆が入っている小皿に取り分けた。ひょいひょいっと箸で器用に分ければ、また変な表情。


「……手で取らないの?」

「だって熱いじゃん。俺10(とお)だけど、母さん幾つ?」

「さんじゅ……」


 声が途切れる。母親はわざとらしい咳払いひとつをすると、緩みかけた頬をまた固くした。


「……とりあえず、ひと掴み」


 ちえー。俺は小皿にひと掴みのポップコーンを乗せると、ひと摘みの塩を振りかけた。





キャラ紹介.


丞本浩人:数えで10歳,今度はお豆とポップコーンを炒りました.

丞本母:数えで35歳.子に歳を知られたくないお年頃.

丞本父:数え39歳.この家で一番平和な人間かもしれない.


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