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04.元宰相な彼と七草と

浩人視点.

夜食時の七草.

 1月7日。年末年始での暴飲暴食で疲弊した胃を労わる為、無病息災を願って簡素な粥を食べる日。

 当の粥は保存の利くように味付けの濃くなっているお節料理で疲れた胃を休めるものらしく、また緑の栄養を取るためのものだとか。

 魔族の宰相だった『俺』は転生した日本では、その緑の栄養に春の七草と呼ばれるものを使うらしい。




「芹、薺……御形、繁縷、仏の座……菘、すずし……あ」


 6日の夜、テーブルの上に並べた材料を確認していた齢9の俺は、蘿蔔こと大根がないことに気が付いた。父親の方の実家が正月帰省した際に色々と持たせてくれて、七草も一式が入っていたんだが……そう言えばここ数日の夕食時、やけに大根が目についたなぁ、と。

 豚バラ大根は美味しかったです。寒い季節のお鍋も素敵です————七草粥に大根は必須なんですけどねっ!




 俺、丞本浩人には俗に言うところの前世の記憶というものがある。所謂剣と魔法の世界にいた前世の俺は、魔族の王シリウス陛下の晩年から、その娘エヴァンジェリン陛下の御代に渡って宰相を務めていた。

 記憶の中の俺は、なかなかの激動の時代を乗り越えた宰相だった……あ、これ、中二病とか妄想とかじゃないから。ガチだから。


 まあ、語りはこれくらいにして。俺の初めての七草粥作りに話を戻そう。


 流石に夜になって10にも満たない子どもが出歩くのは憚られたから、次の日の朝、近くの食料品店が開くなり買いに行くことにした。


 野菜売り場には七草セットが容器に入って山積みになっていた。俺はその山を横切って、太く真っ白な大根を手に取った。

 片手で持つには少し重いから、肩に背負うようにする。籠に入れてもいいが、大根を入れるとバランスがとり辛い。そもそも大根だけを買う予定だったし。


 さあ、会計しようと並ぼうとして、俺は切り餅のパックに目を留めた。そう言えば、正月に開けた奴がまだ残っていた。


「……ふむ?」


 188円を払い、大根をマイバックに入れ。帰りの冷風に首を竦め、俺は昼に間に合わせるために足早に家路に着いた。




 家に帰ると、母親が洗濯物を干していた。ただいまと声をかけると、気のない返事が帰って来る。


 手を洗い、うがいをし、大根を洗って。鍋と包丁も用意し……余っていた切り餅も出して、今度こそ材料が揃った。


「……何を作るの?」

「七草餅粥」


 ……餅って意外と固いんだよね。切り込みが入っていたから其処に包丁を当ててたんだけど、今の俺ならまだしも、当時は半分にするのひと苦労だった。

 かと言って、流石に1個を丸々入れたら煮るのに時間がかかる。少なくとも4等分にはしたい。


 苦心していたら、遠めで俺を見ていた母親が手を伸ばしてきた。


「な、何?」


 こんなに近くにいることが珍しかったからと言って、声が上擦ってしまったのは失敗だったと今でも思っている。


「餅くらい、切ってあげるから」


 素っ気ない台詞は何時ものこと。でも俺が洗濯機を使った3歳のあの日から、彼女は自ら近寄って来ることは無くなっていた。

 成長していく俺が包丁を持っても、火を点けていても、心配する素振りすらもなんてなかった。


「何しているの」


 愕然と彼女が放った言葉は、面白いくらい鮮明に覚えている。だって、それきり彼女との会話は減ってしまったから。


 だから、台所に並ぶなんて、これが初めてだったんだ。




 餅粥は、少し塩味が強いものになってしまった。食べられない程ではなくとも、本来の七草粥の目的としては如何なものか。


「……あんたでも失敗すること、あるんだ」


 顰めっ面になった俺に、母親は蓮華を見つめたまま、何気なくそう呟いた。くるくると皿の中身を掻き混ぜつつ、俺は嘯いた。


「俺も人間だしね。塩を入れ過ぎちゃうこともあるよ」

「…………」




 そこそこ量があったんだけど、鍋の中身は綺麗になくなった。母親が別の皿に分けてあったらしく、遅くに帰って来た父親も食べてくれたようで、次の日起きるとごちそうさまって、冷蔵庫に付箋が張ってあった。


 まだ彼らは子どもらしくない俺に懐疑の視線を向けてくる。多分、我が家の歪なずれは、一生消えることなんて無いんだろう。


 それでも俺は今年も七草餅粥を作って、ふたりに食べて貰うんだ。




キャラ紹介.


丞本浩人:9歳,異世界の魔王の宰相ジーザスの転生者.3歳で家事全般熟してしまった.

丞本母:34歳.息子との距離を測りあぐねているひと.

丞本父:38歳.遅くまで仕事してるひと.


あけましておめでとぅございます!

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