03.元大賢者な彼女とChristmasと
珠貴視点.
夕頃のクリスマス.
12月25日。十字架を掲げる教徒、或いはお祭り騒ぎを楽しみたい現金な人間にとっての聖なる日。
といっても、後者――――特に日本人にとっては前日の方が重要視される近年ではあるけれども、まあ当日の朝は子どもにとっては嬉しい日だよね。
そしてその日は、大賢者だった『私』の転生者の誕生日でもあった。
「うぃー、うぃっしゅあめりくりすますっ!」
「うぃ、うぃっしゃあめりくりすます!」
「うぃーいっしゅあめりくりすまーす……」
「えんはっぴーにゅーやーっ!」
発音もメロディも何処となく不安定な歌声に、テンポの遅いオルガン伴奏。
無邪気な子どもと、変にニコニコしている大人たちと、開始数分で多分でなくともつまらなそうな表情をしていたのでしょう私。ほぅら、目が合った大人が頬を引き攣らせた。
『私』こと前世異世界の伝説級大賢者ソフィア、現世欧州系と日系の所謂クォーター千歳珠貴8歳。
因みに私の前世語りって需要ある? 魔王エヴァンジェリンの父親の友人で勇者アルノの師&パーティメンバーという、話すとちょーぅっと複雑で長くなりそうなものだから、別にいいよね。
この日は久し振りに帰って来た日本の小学校で、何やらクリスマス会とやらがあるとかで来ていた。私の誕生日でもあったけれども、仕事で親はいないし、おじい様もおばあ様もお付き合いで出かけてしまって暇だったから、本当に気紛れで。
1度は大賢者として1000年以上も生きた私に、今更子どもの輪の中で無邪気でいられるとでも?
「たまきちゃんって、ふだん外国にすんでて、髪もきんぱつで、えーごもペラペラなのに、なんで日本人みたいな名まえなの?」
「外国在住の金髪イングリッシュスピーカーでも、日本国籍を持っているから日本名なの」
日本ではクラスメイトらしい少女は、私の説明が微妙に解らなかったみたい。
国籍とかって説明するの面倒なんだよね……そこの先生にでも訊いてみれば? って言ったら、こっちを見てた先生が目を逸らしたよ。
実は日本を出たり入ったりするからといって両親が付けたミドルネームで、フェリシアって名前もある。実は。
でも基本的におばあ様が付けて下さったファーストネームの珠貴で呼ばれるから、結局使わないんだよね。私もこっちの名前の方が好きだし。あと千歳フェリシア珠貴って名前、長いし語呂が微妙。
「外人さんなのに、なんで日本語しゃべれるの?」
何? 私そんなに日本語喋っちゃ駄目な訳? 多分君たちより流暢に話せていると思うよ?
「I studied hard.Shall I talk in English?」
「た、珠貴ちゃんっ!」
ちょっと癪に来てそう言ってやったら、すぐに先生からストップがかかった。ちっ。
偶には8歳児らしい感性を磨かないとと思ったけれど、失敗だったかな……日本では小学2年生だけれど、向こうではもうすぐ中学過程に入るし。
でも去年の今頃、「外国にいるお友達に手紙を書こう!」みたいなノリで大量のプリントが送られて来て、読むの大変だったんだよね……お世辞にも上手とは言えない平仮名ばっかりで似たような文面たちに、26枚目辺りで発狂しそうになったよ……「あさがおがさきました」だなんて知らないよ……「おへんじまってます」って、どうしろって言うんだよ……そう言うのは自分の祖父母ら辺に送れよ……
どうしようもなかったから、歳が変わって学年が変わるだろう頃に担任に向けて返事を送ってやった。最近の好きなことですって、アーベル群の定義が書かれた紙切れを同封して。
ちゃんと日本語に書き直したものを送ったんだけれど……そう言えばあれから音沙汰がない。半年以上経つのに。
私がそんなことに気付いてしまっていた間に、サンタクロースに扮した先生がやって来た。サンタさんに頼まれてプレゼント持ってきましたって……大人って大変だねっ!
配られたのはクッキーの詰め合わせで、赤と緑のリボンが掛けられた透明な袋に入っていた。星とかツリーの形をしたクッキーは、素直に可愛らしいと幼心に思った。
「そして、今日12月25日はなんと、珠貴ちゃんのお誕生日です!」
「――――は?」
不意を突かれた私に対し、前に立つサンタクロース先生はノリノリ。付け髭でよく解らなかったんだけど、実は若かったみたい。
「皆でハッピーバースデーを歌いましょう! さん、はいっ!」
『はっぴばーすでー、とぅーゆー』
――――なんとと言いつつ、実はある程度練習したんだろうね。馴染みもあるだろうしさっきのクリスマスおめでとうよりも揃っている気がした。
『はっぴばーすでーでぃあ、たまきちゃーん……はっぴばーすでー、とぅーゆー!』
ぱちぱちぱち……拍手が送られて、呆気に取られていた私は、何とか「Thank you for singing」と返すのが精いっぱいだった。いや……だって、こんなところでお祝いされるなんて思ってもみなかったから。
その後は若干放心気味で、何を話したのかはよく憶えていない。小さいけれどもちゃんとケーキはひとりひとりにあって、真っ白なクリームの上の苺は、酸っぱかった。
クッキーの包みを持って帰ると、家の中の静かさが耳に痛かった。
キャラ紹介.
千歳珠貴:8歳,異世界の大賢者ソフィアの転生者.実はミドルネームありました.
当時のクラスメイト:小学2年生.
当時の担任たち:ノリのいいよくいる『お手紙を書こう!』系のひとたち.