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02.元勇者な彼と七五三と

瑞葉視点.

おやつ時の七五三.

千歳飴は短く切ってから食べると簡単と大きくなってから知りました.


*不親切にも主人公が名乗っていなかったのでちょっと直しました.

 (2016/11/15/17:02)

 11月15日。或いは11月中の、該当年齢の幼児を持つ親にとって都合の良い吉日。

 元勇者な『俺』が転生して来た日本には、七五三という祭りがある。




 俺、八剣瑞葉には前世の記憶がある。前世の俺は此処とは違う剣と魔法の世界にいて、魔族の王エヴァンジェリンと対を成す勇者で、アルノという名前だった。

 勇者ではあったんだが、色々迂曲あって魔王は倒していない。彼女は俺の手にかかる前に、笑みを浮かべて自分の咽喉を掻き切った。




 そんな俺が転生して再び5歳になる年の夏に、母親の方の祖母が着物のカタログを送って来たのが、事の発端だった。

 また慣れない日本衣装を着て父母祖父母のご機嫌を取らなくてはならないのかと、俺はカタログを見ながらうんざりしていた。母親が何やら言っていたんだが、どの写真の着物も全部同じに見えた。


「何が、違うんだ……?」

「おにーちゃんなにみてるの?」


 写真を見比べていたら、何時の間にか昼寝から起きて来た妹の和菜が横から覗き込んできた。視界の端でちらちらしているのには気付いていたが、脈略無く小さな頭が出て来て仰け反った覚えがある。


 この世界特有の年度という考え方では、俺たち兄妹は1つ違いだけど、生まれた年で見れば和菜は早生まれというもので2年違いになる。だから確かこの年は和菜も七五三で、だがまだ3歳児だから負担の少ない洋装にしようというのが、最初の話だった。

 文化的には東洋よりも西欧よりな世界から転生して来た身としては、正直洋装の方が楽なんだが、男児の七五三は今回で最後だからと、和装が決定事項になっていた俺は羨ましく思っていた気がする。


「おにーちゃん、おきものきるの? どれきるの?」

「もうどれでもいい……」

「ふーん?」


 カタログには女児の着物ページもあったから、和菜はそちらに惹かれたようだった。赤、桃、金、白、空色……ぺらぺらと薄っぺらい紙を捲りながら、おはなきれーおびきれーと騒いでいた、まではよかった。


「かずなもおきものきるっ!」


 そんなことを言い出すまでは。うげっと声に出さなかった当時の俺を、褒めてやりたい。


「え、なに、和菜ドレス着るんじゃないのか?」

「かずな、おにーちゃんといっしょに、おきものきる!」

「えー……着るの?」

「きるのっ!」


 どうしよう。すっげぇ期待に満ちて、黒目がちな大きな瞳がきらっきらしてる。


 早生まれだからか、和菜は幼稚園の同級生の間では小さい方で、一番大きな子とは頭1つ半も違った。体格もまだまだ華奢で、何層もの和装を纏って耐えられるかどうか。

 だが誰の影響かと思えば多分中身云十歳な俺の所為なんだが、歳の割には口が達者で、あとじっとしていられた。ただ親か俺がいないと、ていう条件付きだったけど。


「絶対、俺のより重たそうだけど……とりあえず、母さんに、相談しよう」


 買うにもレンタルするにも、金銭的問題もあるし。あと日程的都合もあるだろうし。

 俺は右手にカタログ、左手に和菜を連れて、珍しく家に揃っていた両親に声をかけた。


「母さん、和菜、着物着たいって」

「えっ?」

「あれ、着物は瑞葉じゃなくて……和菜、だったっけ……? 和菜はドレスにするんじゃなかった?」

「おにーちゃんとおそろいがいいっ!」

「和菜、お菓子あげるから、ちょっと黙ってて」

「あい」


 機嫌よく返事をする和菜に机の上にあったクッキーの包みを渡し、両親にはカタログを差し出し、俺は事の顛末を掻い摘んで話した。

 やっぱり年齢の問題があってか、両親、特に母親が微妙な表情をしていた。俺のことは反応が大人し過ぎて詰まらないとか言う癖に。


「和菜、ちゃんとできる? 本当にじっとしてられる?」

「かずな、じっとできるよ!」

「本当の本当に?」

「ほんとーのほんとーにっ!」


 どうやら和菜の決意は揺るがないらしい……若干だが、ムキになり始めていたようだった。


「じゃあ……和菜も着物で七五三、する?」

「しちごしゃんする!」




 ――――それからの俺の着物選びは早かった。


 和菜も和装にすることを聴き付けた父方の祖父母が、ならと新しくカタログを送って来た。が、先に母方の方でお気に召したものがあったらしく、序でに「おにーちゃん、かずなとおそろいねー」と俺のも和菜が選んでしまったからだ。


 そして当日の写真スタジオで、俺は空色に鶴と松の刺繍が入ったものを、和菜は緋色に鶴と菊の刺繍の入ったものを着ていた。俺は伸びかけていた前髪を後ろへ撫で付けるだけで済んだが、和菜の方は頭の上に飾り紐やら簪やら造花やらを着けられ……最初は化粧をして貰ったりして喜んでいた表情が、段々と沈んでいった。

 明らかな渋面に、カメラマンは苦笑気味だった。


「おもい」

「折角綺麗なのに、そんな表情してると、崩れる」


 『俺』が口にするなんて滅多にない台詞なんだが、紅く塗られた唇が尖らされた。


「そんなにおもくないもん」

「お、えらい」

「……かずな、えらい?」

「ああ、えらいえらい————だからちょっと母さんたちに笑ってやれ」


 前の七五三の時、俺は上手く笑えなかった。アルバムに残っている写真の表情は、今見ても何とも言えない。

 3歳になった俺は、どうしても勇者であったことや魔王が死んでからのごたごたの記憶の方が大きくて、子どもらしく振る舞えなかった。勿論、勝手が違うというのもあったが、赤子からの人生がもう1度始まったというのに、子どもらしさがわからなかった。


 大人しい子ですね。そう言われて困った表情になった母親の姿は記憶に新しい。


「わらうの? わはははー?」

「そっちじゃなくて、にっこり? みたいな?」

「にっこり……? おにーちゃんもにっこり?」

「……努力しよう」


 ふっと、カメラを見る和菜の横顔が大人びる。横に立っているから密かに足が震えているのがわかるが、3歳児にしては頑張れていると思った。


 シャッターの切る瞬間、ほっと、息を吐く声が聴こえた。




 ただ……やっぱり洋装もいいわねーと写真スタジオでサンプルを見た誰かが言い出し、何故か次の年の11月に俺がタキシード、和菜がドレスを着せられたのはこの上なく謎だ。

 和菜は「おひめさまみたいっ!」と無邪気に喜んでいたが……七五三ってなんだ。






キャラ紹介.


八剣瑞葉:5歳,異世界の勇者アルノの転生者.

八剣和菜:3歳,瑞葉の妹.

八剣父:優男.

八剣母:この家の権力者.

祖父母たち:ちょっと対抗意識はあるけれども基本的に仲はいい.


……そう言えば,この家族は兄妹しか名前が出て来ていない.

ま,いいか.


次はクリスマスですかね('×' )o"


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