第1匹 人生終えて魚生始まり
日頃の息抜きにやってるので不定期ですが、よろしくお願いします!
運が悪かった。
不運だった。
そうとしか言いようがなかった。
つい最近ネットで見たばかりの、「あるわけないだろ」なんて鼻で笑った『あの』160万分の1に当たってしまったのだから。
俺は海に向かっていた。
その日は待ち合わせ場所で同僚と合流し、海であそび、海を眺め、美味しい海の幸をいただく予定で、心底楽しみにしていた。
海辺でカワイイ子を見つける!とその同僚は意気込んでいたが、俺はどちらかというと美味しいと評判の海の幸の方が気になっていた。
ヨダレが止まらなかった…。
だから、年のために朝ご飯を少なめにとって、浮かれながら海岸線を歩いていた時。
周りの通行人が頭上を見上げていたのに気付いた。
確かにゴーッという轟音がなっていたが、どうせよくここら辺を通る戦闘機とかだろうと、止めた足を再度動かした。
異変に気がついた時にはもう遅かったのだ。
通行人の一部が慌てて逃げて行く様子に流石におかしいと空を見上げる。
光を撒き散らしながら大きな隕石がこちらへと一直線に堕ちてきていた。しかもその隕石はすぐ目の前に迫っていたのだ。
「?!」
衝撃。
轟音。
「っ…ぐぁっ……。」
暑いのか寒いのか感覚さえなくなった最期の薄れゆく意識の中で、俺は思った。
海で、泳ぎたかったな…食べたかった…。
って言うのがちょっと前の俺。
死んだはずの俺。
そして今の俺が言いたいのは1つ!
なんで俺、意識あんの??
確かに隕石が直撃したのは覚えている。
だから確実に死んでいる。
あの状況から生き延びるのは不可能だ。
それに、あるのが意識だけというのもおかしい。
自分の体の感覚が感じられない。
視覚、触覚、嗅覚、聴覚、多分これだと味覚もないかな。
腕を動かそうにも腕がないのかできなかった。足も首も胴体も頭も同様だ。
ただ、自分の周りに何かが流れているのは感じ取れた。
意味わからん。
藁にも縋るつもりでその流れに意識を集中してみよう。
左から右、右から上、上から下……。
緩やかに何かは流れている。
くるくる、くる、くるくる。
まーわるよまわるよー、世界はまーわ…
《スキル・・・魔力感知を獲得しました》
は?
なんか聞こえた?聴覚戻った?
いや、聴覚というより頭の中に直接くる感じだったけど。
落ち着こう。
スキル…魔力、感知、死んだはずの俺、頭の中、くるくる……。
あれ?なんか俺の中ですっごい唱えたい言葉があるのですけど。
やっちゃう?言っちゃう?
ほんとに言っちゃうよ?
口がないからなんとなく念じるよ?
(ステータス!)
しーん…。
ま、まあこんなこともある。
声出してないから恥ずかしくないもんね!
別のパターン知ってるもんね!
(鑑定!)
名前:未設定
種族:ベビー魔ぐろの卵
称号:転生者、希少物
スキル:『鑑定Lv.1』『言語理解Lv.1』『幸運Lv.4』『水流操作Lv.1』『食事Lv.1』『魔力感知Lv.1』
はい。
はいはい。
はいはいはい。
分かった。状況把握完了です。
テンプレだよね。ステータス。
頭の中にふと浮かぶタイプね。
……俺、転生した?
魔力とか絶対剣と魔法の世界だろ?
しかも人間じゃないし、魚だし。魔ぐろ?
というか魚の卵からのスタート?
えぐくない?
卵食べられちゃったら終了じゃん!
今動けないんだよ?
辛っ。辛み。
あーでもスキルに『幸運』あるし少しはましか。多分その『幸運』とか『鑑定』『言語理解』は転生人にただで付けてくれる分だろう。
『魔力感知』はさっき自力で習得できた。
じゃあ、『水流操作』と『食事』ってなんだと考えた時、気付いてしまった。
俺は死ぬ直前何を思ったのか。
[海で泳ぎたかったな…食べたかった…。]
海で→魚
泳ぎたかった→『水流操作』
食べたかった→『食事』
アレ、これはもっとましな事最期に考えてればもっとイイ状況になったんじゃね…?
ほら、最強になりたい、とか、死にたくない、とかまともな事……。
まあ考えても仕方がない。
とにかく当面は孵化するまで魔力感知と鑑定でも伸ばしますか。
えっとまずは鑑定。
鑑定って念じればいいのかな?
自分に向けるイメージで鑑定をかける。
鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定。
《スキル・・・鑑定がLv.2になりました》
があああああああ痛い痛い!
さっきのステータスがガンガン目の奥に入り込んできて痛いのなんの。しかも熱い!
…ふう。連続で使うもんじゃないね。
《スキル・・・痛耐性を獲得しました》
前言撤回。耐性つけるためにも我慢してやるか。
どうせ他にやることないし。
鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定鑑定。
ところでLv.2ってどうなるの?
ステータスに変化現れるのかな?
(鑑定!)
名前:未設定
種族:ベビー魔ぐろの卵
称号:転生者、希少物
スキル:『鑑定Lv.2』『言語理解Lv.1』『幸運Lv.4』『水流操作Lv.1』『食事Lv.1』『魔力感知Lv.1』『痛耐性Lv.1』
ベビー魔ぐろの卵にさらに意識をやってみる。
ベビー魔ぐろの卵
・・・珍しい。美味い。
見なかったことにしよう。次。どんどん次。
転生者
・・・異世界からの転生者。
希少物
・・・世界に数える程しかない物。
鑑定
・・・鑑定する。
言語理解
・・・この世界の言語を理解できる。
幸運
・・・運が良い。
水流操作
・・・水を操作する。
食事
・・・食べる
魔力感知
・・・魔力を感じる。
ぶっきらぼうだなあ。
もうちょっと情報だけでなく愛想が欲しいな。
《その機能は存在しません》
反応すんのかい!
愛想という機能はおいおいつけてほしいですな。
まだLv.2だし、しょうがないか。今後に期待。
じゃあ今度は魔力感知。さっきから自分の周りで回ってるのが魔力なのは確実だろう。感知の力を伸ばす=遠くの方まで魔力の流れが分かるようになる=敵の察知が早くなるだと思うんだよね。敵の察知、大事。
だって俺、美味しいんだろ?
絶対『食事』する側じゃなくてされる側の立場だよな…。
というわけで頑張って感知していこう。
さっきは自分の周りだけだったけど少し先に感覚を伸ばそう。全部の方向に一気に伸ばすのは難しそうだから前後上下左右に分けてやっていこうかな。
まずは左の方。
あれ、なにかにぶち当たった。左は壁があるのかな?
じゃあ右の方。
こっちもすぐにぶち当たった。
この位だったら左右同時に感覚広げてみよう。
難なく行けるね。
下はもっとすぐにぶち当たった。地面かな?
上と前後……も壁に当たった。
《スキル・・・魔力感知がLv.2になりました》
何この八方塞がり感!
もっと遠くも感知したいんだけど!
と思いながらもぐるぐる感知していたらレベルが上がったせいか感度が上がってきたかも。
あれ、自分の周りの空間、直方体?
箱の中にいるの?
出荷されかけてる…?
まさかそんな筈ない…よな?
あ、良かった。大丈夫だった。前の方に細長くでゆらゆらした物に魔力の流れがぶつかっているから、うん。この形は水草。
地面も確実に土だし大丈夫。
《スキル・・・魔力感知がLv.3になりました》
おー!
感覚を箱?通り抜けて、外まで伸ばせるようになった!この調子だな!