2 進級初の授業は戦闘狂が担当します
「皆、おはよう――と言うことで、早速やろう! 実技の授業、やっちゃおう!!」
そう、実にイイ笑顔で語る天人族の教師に、多くの生徒が条件反射にて後ずさる。
各所からそれぞれが思う言葉が発せられており、それらの多くが――
「やっぱり〝やる〟の意味が違うだろ!? マジで落ち着いてくれよルドセフ先生!!」
と言う、わりと本気で必死な顔にてリオネルが語ったものであった。
ルドセフ・ルフマン。
長い白髪を背中でまとめている、女性的な美貌の青年天人族で、種族の特徴たる純白の翼を背に広げ、いつも水色の瞳を優しげに細めて笑顔をうかべている。
いつもニコニコと笑顔を絶やさず、またその言動も普段は極めて穏やかなものであるため、天人族特有の美貌も相まって、男女問わず人気の高い実技授業の教師である。
……ただ、このように人気の高い教師でありながら、彼の授業を受けたいと志願する生徒は驚くほど少ない。
それには、当然、理由と呼ぶべきものが存在しており……。
「さぁさぁ! 楽しい楽しい、実技のお勉強だよ! 皆――」
ふっと雰囲気を変えた笑みに、後ずさった生徒は顔を青くし、引き下がらなかった生徒は臨戦体勢を取った。
多くの顔が恐怖を浮かべる、異様な緊張感の中で、ルドセフだけが、実に楽しそうな笑みを満面に咲かせる。
それが意味するところとは、つまり。
「――今回も、死なないようについてきてね?」
――実に鮮やかな笑みを浮かべるこの実技教師を、生徒たちは畏敬の念を込めてこう呼ぶ。
即ち――〝戦闘狂〟と。
多くの生徒が普段のルドセフに好感を抱く一方で、彼の授業にだけは参加したくないと嘆くその理由は、至って単純。
「来るぞ、リオネル!」
薄茜色の瞳の色をわずかに深め、すでに取っていた臨戦態勢に程よい緊張を加えた斗耶が、隣にいたリオネルへと忠告を飛ばす。
その力強い言葉に、俄然やる気を――出した上で、なお胸中にて湧き上がる言葉を無視できずに打ち震えていたリオネルが、毎度おなじみの言葉を叫ぶ。
――実に、心を込めて。
ある意味、全力で。
「だあぁもーっ! これだから! ルドセフ先生の実技は、嫌なんだよおぉぉぉ!!」
それはまさしく、全ての生徒の心情を代弁する、価値ある絶叫であった。
常に優しげな笑みを浮かべる天人族の実技教師、ルドセフ・ルフマン。
普段は本心から優しく温厚である彼の、授業でのその実態は――
戦闘狂な腹黒さん、である。




