1 年初めの誓いは主従のキスで
「――とりあえず、進級やったな!」
「あぁ、そうだな」
広いとも、狭いとも言い難い、人族の寮の一室。無駄に高級感が溢れていることが特徴のその部屋の中で、二人の生徒が語り合っていた。
一人は、濃い茶色の、短髪の少年。精悍な顔立ちに揃う薄茜色の瞳と、身にまとうどこか人を惹きつける雰囲気が、彼を十七歳と言う年齢よりも幾分か大人びて見せている。
高等部のものである白の生地と金糸の刺繍が眩い制服は、ジャケットはロング、ベストは普通丈。制服の中に着ている襟付きの黒服が、カリスマ的雰囲気の中に落ち着きを加えていた。
もう一人は、前髪ごと白のバンダナで頭を覆っている少年。後ろの首元にたれている、肩を少し過ぎる金の髪を見る限り、この地方では少ない明るい色の他方の血が流れているようだった。色白の肌に良く映える青瞳が、楽しそうに煌いている。
制服は、まだ冷え込むこの時期には似つかわしくない、普通丈のベストのみ。中に着ている水色の襟付き服が、肌寒いイメージを助長させていた。
二人とも同年齢同学年であり、紺色のネクタイが胸元で揺れている証に、晴れて高等部の二年生に進級した生徒。
濃茶色の少年の名は、柚月斗耶。
技術関係で力がある、そこそこ名の知れた家の者。
バンダナの少年の名は、仕雲リオネル。
柚月家に代々仕える、従者一族の家の者だ。
それぞれの家の立場により、斗耶とリオネルもまた、主人と従者の関係にある。
――最も、二人ともが、普段はそのような関係を気にせずに学園生活を送っているのだが……。
ただ、今日は、少し違う。
「んじゃあ――毎年恒例の〝アレ〟、やっときますか!」
「……アレか」
楽しそうにニッと笑うリオネルに対し、苦笑を浮かべる斗耶。
それが意味する〝アレ〟とは、すなわち――。
そっと、実に優雅な所作にて斗耶の前にひざまずくリオネル。
丁寧さより荒さが目立っていた先ほどまでの動きを見事に消し去ってのその行動に、笑みを浮かべた斗耶が、己が右手をゆっくりと差し出した。
その手をうやうやしく同じく右手でやわらかく掴んだリオネルが、しずかに顔を近づける――綺麗な手の甲にひとつ、誓いのキスが微笑と共に贈られる。
再度うやうやしくその手を離したリオネルが、ひざまずいた体勢のまま、斗耶へと深く、頭を下げた。
「改めて、我が主たる貴方様に、忠誠を――」
「あぁ――よろしく頼む」
こうして、二人の一年は始まるのだ。